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さらし文学賞
A 留学生は円錐形

 宇宙人は実在する。その言葉が「アマゾン奥地に伝説の人喰い族を見た!」とあまり変わらないものと思われるようになった頃。
 某国大統領が、これまで秘匿してきた宇宙人との交流を明らかにした。ニュースで聞いたところによると、どうやら数十年前から秘密裏に文化や技術の交流を行っていたらしい。
 で、今まで隠してたのをどうして公表しなきゃならなくなったのかと言うと、宇宙人の方からとある申し出があったのだ。
 「擬似思考プログラミングの一般共同体内での経験と成長及び人格形成のシミュレーション」をしたかった……のだ。簡単に言うと、「すげえ高性能な人工知能持ったロボット作ったから、二週間だけそいつを地球にホームステイさせてよ」ってことだそうだ。少なくとも私はそう聞いた。
 で、そんな高性能なロボットが人間と共に暮らすホームステイ先として選ばれたのは――何をトチ狂ったか、日本の片田舎にある一軒家の三人暮し、何の変哲もない一般人である、私の家だった。

「お父さん本気なの? お母さんもいいの?」
 突きつけられた事実に狼狽する私に、両親は「何がそんなに嫌なんだ」という目を向ける。
 咳払いを一つして、お父さんは言った。
「いいか由里。これは宇宙人から我々地球人へのアプローチだ。何故ウチを選んだのかは分からんが、彼等と友好的な関係を保つため、地球市民としてお父さんは喜んでこの申し出を受けるつもりだ」
 目を輝かせながら語るお父さんを見て、幼い頃に書斎でボロボロになるまで読み込まれたUFOとか宇宙人についての本を見つけたことを思い出した。きっと少年時代から、お父さんにとって宇宙人は憧れの的だったんだろう。
 それならばと、お母さんに一縷の希望を託すも、
「お父さんがいいならいいわ」
 という答えが返ってきた。がっくりと肩を落とす私に、お父さんは首を傾げる。
「何が気に入らないんだ? 我が家は60億人の地球人を代表して宇宙人とコンタクトの機会を与えられたんだ。名誉なことだぞ?」
「だって、宇宙人のロボットなんかが来たら大騒ぎになるでしょ? それに、ロボットと暮らすなんてどうしていいか分からないし」
 するとお父さんは、「何だそんなことか」と膝を叩いて笑った。「ちょっと、こっちは真面目に話してるんだけど」
「ああ、悪い悪い。でも大丈夫、今は色々と報道されてるけど、あくまで彼等の希望は『一般人として生活』させることだからな。マスコミやら野次馬が押し掛けない様に便宜を図るそうだ。あと、そのロボットは何でも地球上で確認されている全ての言語を操れるらしい。もちろん日本語もな。友達として普通に接してあげれば、それだけでいいんだ」
「うーん……」
 いまだ納得のいかない私をよそに、両親は楽しげにロボットが暮らす部屋についての話を始める。
「そう言えば母さん、ロボットって布団使うかな? ベッドの方がいいのかな」
「あら。ロボットって押し入れに寝るものじゃないの?」
 能天気な言葉に、私の不安は募るばかりだった。

 それから三日後。遂にロボットが我が家にやって来た、のだが。
『はじめまして。今日から二週間こちらにホームステイさせて頂くことになりました。よろしくお願いします』
 落ち着いた低めの声で流暢な日本語を「発声」するそいつは、逆さまの円錐だった。ちなみに大きさは五十センチぐらい。
「おお、ようこそ。短い間だけど、自分の家だと思ってくつろいでくれ」
「はじめまして。何かあったら遠慮せずに言ってね」
 微笑みを浮かべて応対する両親。二人がどうして普通に応対できるのかが分からない。
「ほら、由里も挨拶しなさい」
 お父さんに促されるも、私の口から出たのは極めて自然な――自然だと私は信じる――疑問だった。
「何で……人型じゃないの?」
 宇宙人が作って、すごい人工知能を搭載していて、人間の家にホームステイして人間社会の中で暮らすっていうロボットが、何故に円錐形。
 当然の疑問と思っていたら、お父さんとお母さんに怒られた。
「由里! お父さんは他人を見た目で判断するような人間に育てた覚えはないぞ」
「そうよ、人もロボットも大事なのは外見じゃなくて中身よ?」
「いや、そういう問題じゃ……」
 そこに割って入るロボット。
『お二人とも、私は気にしていませんからどうかお怒りを鎮めてください』
 ……親子喧嘩をロボットに仲裁された初めての地球人が、今ここに生まれた。
「いや、別に怒ってはないよ。……そうだ、君の名前は何というんだ?」
 とりあえず話題を変えようと、お父さんはロボットに問いかけた。
『呼称は特にありません。型式番号は66093049号です』
 いやロボットの型番なんて聞いたって、と思ったが言わずにおいた。
 お父さんは困ったように、
「その長い番号じゃ、こっちも呼ぶ時に苦労しそうだな」
「じゃあ、何か呼び名をつけたら? あなたもそれでいい?」
 ロボットに尋ねてみる。
『呼びやすい名で呼んで頂けるのがこちらとしても幸いです』
「だってさ。お父さん、いい呼び名ない?」
 するとお父さんはしばし考え込んで、
「ロボ助でどうだ?」
 ダメだ。宇宙人だのUFOだのが好きなくせに、どうしてそんな名前が出てくるんだろうか。頭を抱えていると、お母さんが「由里が付けてあげたらいいんじゃない?」と言ってきた。
「そうだな。ここは若い感性に任せよう」
 適当なことを言って私に振る二人。まあ確かに、お父さんに任せてたら酷い名前に決まりそうだし。
「えっと、まず聞きたいんだけどさ。君って男の子? それとも女の子? 声は男っぽいけど」
『性別はありませんが、言語体系は日本の高校生男子に合わせて設定されています』
「そんなかしこまった喋り方する高校生、見たことないけど」
『初対面の相手には自動的に敬語での会話が選択されます。お聞き苦しいかもしれませんが、このプログラムは私の権限で変更することが不可能なため、今しばらく辛抱ください』
 どうも聞いててムズムズするが、まあそんなことよりさっさと名前を決めなきゃいけない。
「ともかく。じゃあ男の名前がいいよね。……あ、さっき言ってた番号、もう一回教えてもらえる?」
『66093049号です』
「66……ムムじゃ微妙だし……その後なんて0930……『奥様』になっちゃうし…………いっそ下から取ってジークとかどう?」
「まあ安易だが及第点だな。」
 と、お父さんの評。自分のセンスを棚に上げて何だその言い草は。
『では、只今から私の呼称に「ジーク」を追加します』
 こうして、ジークと名づけられたロボットは、晴れて我が家の一員となった。
「あ、そうだ由里。明日からジークはお前と同じ学校に通うからな。色々教えてやれよ」
「えぇ!?」
 確かに人間社会の中で暮らすという話だが、まさか高校にまで通うとは。っていうか私が世話しなきゃならないの?
『よろしくな、由里』
 初対面モードでなくなったジークが、馴れ馴れしいタメ口で声をかけた。
 ……これはこれでイラッとくるんですけど。

 ジークは学校でも大人気だった。片田舎の高校にいきなり宇宙人の作ったロボットが転校してきた訳で、当然っちゃ当然なんだけど。全校朝礼でのどよめきは言うに及ばず、休み時間の度に他のクラスはおろか先生達までもジークを見にやって来て質問責めにし、世話役にされた私も彼の隣につきっきりでいなければならなかった。
 終業のチャイムが鳴ると同時に、私は机に突っ伏した。
「まさか、テストの最終日以上に放課後が待ち遠しくなるとは思わなかったわ……」
「友達が人気者だと大変ね」
 そう声をかけてきたのは隣の席の真紀だった。
「友達、ねえ。そんな関係になる暇もないわよ。ウチに来たのは昨日だし、今日は朝からあんな有様だったし」
 心底疲れた私を見て、真紀はニヤリと口の端を歪めた。
「まだ気を抜くのは早いんじゃない? 見てよ、あれ」
 言われる通りに真紀の指し示す方向に目をやると、まるで人気店の行列のように、次から次へとジークのところへ人が群がってきていた。その数は、休み時間の比ではない。
「…………」
 絶句する私。帰り支度を済ませた真紀は、
「じゃ、世話役がんばってね」
 そう言ってさっさと帰ってしまった。
 数多の質問を打ち切らせ、一緒に帰ろうという誘いを必死に断ってようやく帰路に着けたのは、もう日も落ちきった八時半だった。
 帰り道、円錐の真ん中に空いた穴――おそらく目だと思う――を輝かせ、ジークがふと呟いた。
『この星の学生は素晴らしい。あの知的好奇心は特筆に価するな』
「みんな珍しいだけよ。有名人が来たのと変わらないって」
『由里は私を見てもあまり感情が昂ぶらないな。私ぐらいのロボットを見慣れているのか、それとも科学技術に興味がないのか』
「どっちかっていうと興味ない方かな。確かにアンタの見た目はいかにもロボットだけど、中身はよく分かんないし……あ、猫だ」
 ふてぶてしく道路に座り込んでる猫を発見した。しゃがんで両手で撫でてみるも、人馴れしてるようで、逃げる素振りもない。
「うぉ、ふかふかする」
『由里は猫が好きなのか』
 私の傍らで、ジークが言う。
「うん。かわいいじゃん」
『成程。かわいい、か』
 無機質なジークの声が、その時は何故か少し違って聞こえた。

 それは夕食時のことだった。私たち三人はトンカツを、ジークは自前のバッテリーからエネルギーを「食べ」ていると、お父さんがジークに声をかけた。
「どうだ、学校は楽しかったかい?」
『ええ、有意義な時間を過ごせたと判断しています』
「そうかそうか、良かった」
 腕を組み、満足げに頷くお父さん。
「ちっとも良くないって。みんなしてジークに群がって、ホント大変だったんだから」
「そんなに凄かったの? 転校生っていいわねぇ」
 お母さんがどこまで本気で言ってるのか分からない。
「生徒だけじゃなくて、暇な先生まで見に来たんだから」
『由里の発言の根拠に当たる映像をお出ししましょう』
 ジークはそう言うと、リビングの白い壁に向かって光を照射した。映画館のスクリーンのように、鮮明な映像が浮かび上がる。もちろん内容は、生徒と言わず先生と言わずジークに群がっている人々の姿だ。
「すごいなジーク。こんなことも出来るのか」
『この二週間で得た情報は全て記録するよう義務付けられておりますので』
 ジークは映像をザッピングしていく。映し出される映像が次々に切り替わった。昨日、玄関前で挨拶をする私達。リビングでくつろぐお父さん。学校での授業風景。パンツ丸出しで猫を触っている私。夕食前に私が見ていたテレビの映像――って、えぇ!?
「ちょ、ちょっと待ってよ、何なのよさっきの映像は! 私、パンツ丸見えで映ってるじゃない! 今すぐ消して!」
『それは出来ない。ホームステイ期間中に得たデータの消去は私の権限で行使可能な項目外だ。母星に持ち帰って研究者達に提出しなければならない』
 ジークの言葉に、私は更に狼狽する。
「研究者達って、あの映像を大勢に見せるの!? やめて!」
『大丈夫だ。あくまで研究上での行為であり、性的興奮を目的とした鑑賞を想定しているなら、その心配はない』
「そういう問題じゃないっての!」
 顔を真っ赤にして叫ぶ私を見て、ジークは十五度ほど身体を傾けて――おそらく、首を傾げる動作なのだろう――言った。
『第一、あの位置ならば猫にも下着は見えていたはずだ。何故猫に対する恥じらいはないのだ?』
「アンタも宇宙人も、私達と意思疎通ができるでしょ! それに下着を見られて恥ずかしいってことも理解できるでしょうが!」
 勢いで言った私の適当な言葉を、ジークは冷静に分析する。
『成程。言語と文化の差異が大きな理由という訳か。言語に関しては対策を講じよう』
 と、ジークの身体からラジオのチューニングをしているようなノイズが聞こえてきた。やがてそのノイズが止まると、
『ニャー』
「だから、そういう問題じゃない!」
 私は近くにあったお父さんの缶ビール(中身入り)を思い切りジークに投げつけた。

 二週間が経ち、ジークが宇宙人の元に帰る日がやって来た。私たち家族は空港まで連れていかれ、総理とか大統領とか、テレビで見たことのある人々と共に、ジークを見送ることになった。
『二週間、どうもありがとう。この二週間は、毎日様々なことを経験できた。本当に楽しかった』
 ジークの口から感情めいたものを聞くのは、それが初めてだった。
 ジークの両脇にいる黒スーツ――多分、宇宙人なんだろう――も、驚いたように顔を見合わせている。
「私も、楽しかったよ。まあ、色々と大変だったけどね」
『多大な負担をかけてしまい、本当にすまなかった。しかし、許されるならば君とはこれからも良き友人であり続けたい』
「何よ、改まって。……そんなの、当然でしょ」
 その時私はもう、彼をロボットとは思っていなかった。私にとって彼は、二週間という短い時間だけど、共に過ごしたかけがえのない友人になっていた。
『こういう時には握手をするのが自然な流れだろうが、残念ながら手がない』
 私は苦笑して、ジークの頭をそっと撫でた。
「今回は、お互いこれで我慢しよ。次に地球に来るまでに、握手できるよう改造してもらいなよ」
『了解した』
 ふと、パチパチと手を叩く音が聞こえた。顔を上げると、うちの両親も、総理も、黒スーツの人も、みんなが微笑んで拍手をしていた。私は急に気恥しくなって、
「じゃあ、またね!」
 彼の頭から手を離し、大きく振った。
『いずれ、また』
 抑揚のない返事をすると、ジークは我々に背を向け、黒スーツの人々と共にどこかへ去って……行く途中で立ち止まった。
『由里、君に言ってなかったことがある。君が先日私に消去を命じた下着丸出しの映像だが、私の権限により当該映像を特一級機密情報に指定し、我が母星の統一国家元首及び国家元首の許可を得た一等科学技術研究者のみ検閲できるよう手続きを行った。これで君の下着姿が撮影された映像を見られる人間はこの宇宙において現在の時点で六人となり、宇宙全体における知的生命体の総数を分母におけば限りなくゼロに近い人数と言える。映像の消去は不可能だが、これで君の望む結果が得られると――』
「いい加減にしろっ!」
 手近にビール缶がなかったので、履いていた靴を掴んで投げつけた。革靴はコンと軽い音を立ててジークの頭に当たった。
『何故怒るのだ?』
「アンタは本当にもう……」
 怒鳴り声の一つでも上げてやろうと思ったら、黒服が「そろそろ時間ですので」と私を制止した。
「今度地球に来たら、私が何で怒ってるのかしっかり教えてやるから! 覚えときなさい!」
 すると、ジークは楽しげに――本当に楽しげに、
『一言一句漏らさずに記憶した。その日を待ち望むことにする』
 そう言って、今度こそ私達の前から去って行った。
彼が再びやって来るのが、何年後か、何十年後か分からないけど。でもいつか絶対に来るその日が、今から楽しみで仕方無かった。

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