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さらし文学賞
父曰く、諦めろ。

 やあ、俺は高岡忍。全国で一、二を争う強豪校・三田高校剣道部の二年生エースで、自分で言うのもアレだけどモテる。殆んどの女子学生と一部の男子学生、教員が俺をミーハーに或いは真剣に狙い、声を掛ければ皆嬉しそうに返してくれる。
「やあ、元気かい」
 本を読んでいる女の子だって、俺が声をかければほらこのように
「うるさい。帆立にでもなってろ」
 ……ま、まあ、どんなことにでも例外っていうものはあって、その筆頭がこの高岡有美だ。苗字が同じことからわかるかもしれないが、双子の妹なのだが、俺を敬う言動を見せたことが一度もない。
「ア、アワビじゃダメかな。俺、アワビの方が好きなんだけど」
 有美は読んでいた本を閉じてメガネを外すと、深いため息をついた。
「脳筋男の忍、磯の鮑の片思いという言葉を知らないの? アワビは二枚貝じゃないの。ふさわしくないわ、木瓜茄子」
 そういえば、つい最近「私は、貝になりたい」とかいう映画を見に行ったんだっけ。貝の名前がいきなり出てきてわからなかったけど、貝みたいに引きこもって黙ってろということを言いたかったのかあ。……わかりにくい。
「……わざわざ部活終わりに迎えに来た兄に少しは優しくしようと思えないかなあ」
「別に頼んでいないもの。大体、私の図書委員の活動と自分の部活がほぼ同じ時間に終わるから教室で鉢合わせるだけでしょう? それを恩着せがましく言う人なんて、兄であろうはずがないわ。きっと弟ね」
 いや、一応兄なんだけど……という暇も与えてくれず有美は鞄に本とメガネをしまって教室を出ていこうとする。着替え自体は部室で終わってるので、俺もカバンを肩に引っ掛ける。
「まあまあ、一緒に帰ろうぜ。どうせ帰る家は同じなんだしさー」
「母さんが他の若い男と新しい絵を探してたわね」
「マジかよ!?」
「というイベントがあると同じ家じゃなくて済むわね、というたとえ話よ」
 一見冗談かどうかわからないたとえ話を持ってくるのはやめてほしい。
「ああ、そういえば忍。あなたは私より数瞬早く生まれたことで兄面をしようとしているようだけど、昔の人々は双子は後から生まれた方を兄もしくは姉としていたのよ」
「マジかよ!?」
「これはマジよ。ということで、敬虔なクリスチャンが主を思うように私を崇めなさい」
「双子の姉ってそんなに偉いのか!? っていうか宗教的なものはわからねえよ!」

 その晩。一緒に風呂に入っていると、親父があまりに俺がしょげているので何があったのかと聞いてきた。今日のことを説明。
「というようなことがあったんだけど、父さん。どうにか兄の威厳的なものをあの妹に教えられないかな」
「いや、お前剣道やってるんだから腕力で勝てるだろう」
「それは男として以前に武道をする者として、さらに言うなら人としてどうだよ」
 そもそも腕力でも負けそうな悪寒な予感はあるんだけど黙っておこう。
「うむ……なら、私の机の上から二番目の引き出しの中にある青い金庫の中にある緑の封筒を持っていくといい。金庫の暗証番号は父さんと母さんが付き合い始めた日だ」
「覚えきれない上にそんな日知らないよ父さん……」
「ああ、私たちの結婚記念日だ」
「即日で結婚!?」
「若いっていいよな。ああ、ただ、使うともはや取り返しのつかない事態になるかもしれないから、覚悟を決めるように」
「爽やかに怖いんだけど?」
「気のせい気のせい」
 なんだろう、肩の荷が下りたように晴れやかな笑みを浮かべる父さんがなんとなくムカついたので全身を湯船に沈めておいた。
 爽やかに風呂の蓋をした俺はバスタオル巻いただけの姿で父さんの部屋に駆け入り、封筒とやらを見てみた。
「な、なんだってー!」
 封筒を持って風呂場に戻り、風呂の中でかくれんぼをしていた親父を引きずり出す。
「殺す気か!?」
「これは本当か!?」
「息子よ、まずは私の話を聞け」
「違う。さて父親よ、俺の質問に答えろ」
「本当だ」
 爽やかに足払いをして親父を風呂にもう一度沈めると、俺は有美の部屋へと。

「パジャマ持って行き忘れたの? 温泉ラブコメにありがちな恰好だけど」
「お前にしてはわかりやすい喩えをありがとう! パジャマは着るよりも大事な用事があったので後回しにしただけさ!」
 ドン! という効果音がしそうな勢いで、例の封筒を有美の目の前につきつける。
「俺は、俺とお前の秘密を手に入れた!」
 はあ、と関心なさげな有美に対して、封筒の中身を出してつきつける!
「見てのとおり、これは戸籍謄本だ! ここを見ろっ!」
「子 高岡 有美、子 高岡 忍……あら、私が先に載ってる」
「ふふふ、驚いただろう。実は俺たちが生まれたとき、姉がいて大変な思いをした父さんは、俺たちの生まれた順番を逆にするように医者と拳で語り合ったんだ」
 結果として互いに妥協することとなり、役所への届けは本来のものにしたが、母子手帳に始まる全てを俺が兄であることにして作り上げた。
「後に高岡家の雷事件と呼ばれたらしいこの事件のお陰で、俺はお前より先に取り上げられたことになっていた! しかし、実際にはお前が先だったんだ!」
 びしいっ! と人差し指でさす!
「つまり、古の決め方によれば、やはり俺は兄なんだぁっ!」
 ガラガラガラッ! と有美に雷が落ちた気がした。……そして、閉じ切った室内に吹き荒れる嵐。何故だろう、俺がとてもピンチに感じるのは。
「熱帯魚を飼ってたり、どうにも女々しいところがあると思ったら、やっぱり弟だったのね」
 え、熱帯魚飼うのって女々しい? あと、女々しいことと弟との関連ってどこ? いや、何よりもっ
「有美、さっき確かに昔は双子は後から生まれた方が兄姉だって」
「忍、あなたは昔を生きてるの? いいえ違うわ、あなたが生きてるのは今よ。さあ、太陽を神と崇めた人々のように私を崇めなさい」
「原始女性はまっこと太陽であった……って、今は昔と違うんだろ!? てか、こうなんかとっても理不尽なものを感じずにはいられない17歳の俺!」
「姉の部屋にバスタオル姿で侵入したい年齢ね。青春の迸り? いいわ、あなたの歪んだ欲望を叶えてあげましょう」
 そういうと、姉を自称する有美はなぜか鞭的な何かをベッドの下から取り出す。というか、鞭。ロウソクとかもあるのかな。
「ええと、なんで持ってるのかという疑問もあるけど、それを何に使うのかなーという質問と、あと、有美ほど歪んだ欲望は持ってないという主張をぶつけて俺は逃げる!」
 Uターンして部屋を出ようとする俺の足首を簡単に引っ掛けてうつぶせの俺を踏みつける姉様。
「疑問への答え、質問への答え、主張に対する反論、全部まとめてするわね。あなたと私の立場の正しいあり方を教えるのよ。歪んでないわよ、ふふふ」

 一晩の徹底的なちょうky……平和的話し合いにより、俺は有美を有美姉さんと呼ぶことになりました。姉は本当は姉さんだけで呼ばせたかったようですが、今までのくせで有美という言葉が口をついて出てしまうのです。
「おっはよう、高岡きょーだい」
「今日も妹にいじめられてるの、忍くん?」
「ああ、いつもどねりちゃぎっ!」
 足の甲に鋭利な鈍器で刺されたような鋭い鈍痛が!(混乱中)
「どうしたの、忍。まるでハイヒールで思いっきり踏まれた中年男性のような反応をして」
 中年部分は永遠の謎だけど、痛みは確かにそんな感じだったかも! けど、なんでスニーカーで踏んであんなダメージがくるのさ! そのへんを教えてよ有美姉さんっ!
「ええっと、忍くん、大丈夫?」
「大丈夫よ、弟は丈夫だもの」
「……弟?」
「ええ、弟。本当は私が姉で忍が弟なんですって。戸籍謄本で確認済み」
 ざわざわがらがらっと教室中に衝撃が土石流のように走る!
 ああ、剣道部のエースというツワモノでありながら妹には苛められるというギャップ萌えはもう崩壊してしまった! 俺の人気も昨日までのものとなったのだ。
「ああ、やっぱり!」
「うん、忍くんは弟キャラだよね!」
「保護欲をかきたてられるというか」
「嗜虐心をそそるというか」
 あれー? むしろ前よりも人気がありそうな気配ですよ? ていうか、嗜虐心って! 弟をなんだと思ってるのチミ達!
「大丈夫よ、忍」
 有美姉さんは笑顔で一言。
「私が一番苛めてあげるから」
 父さん、あの言葉を無かったことにできませんでしょうか?

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