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さらし文学賞
「いただきます」

 う~ん、よく寝た。って、あら? なんだか世界が暗い、狭い、足りない、見えない、聞こえない、臭わない、感じない。
 なんでかしらと考えて、すぐに、当然ねと思い至る。今の私には目も、耳も鼻も、体の何もかもが足りてない。
 あらあら困った、と思ったらちょうどいい所に目が落ちてたりして。わあ、運がいいわ、わたし。あ、けど、目が落ちてても、どうやったら私のものになるかしら。んー、んー、なんかおなか減ったし、とりあえず食べてみようかしら。
 あ~ん。DHAって人の目にも溢れてるのかしら?

 あら不思議、いきなり視界が開けてきた。
 ええと、白い天井と、白い服の人たち。見た感じ、病院ね。目覚めたら病院だなんて、なんて物語的展開。目の前の人たち、口の動きからして何か言ってるみたいだけど、全然聞こえないわー。

 つまり、偶然にもここにある耳も食べろということね。そうすればきっと私の耳は聞こえるようになる。
 はむはむ。とってもミミガー。あ、豚じゃないわね。
 さて改めてって、目と耳だけで他がむき出しなんてはしたない。早く他も補充補充。
 ぺちゃぺちゃ、がりがり、ちゅるちゅる。
 んー、鼻は穴の辺りがちょっと食べるのに抵抗あったし、口はこれってキス? みたいにどきどきしたし、歯はやっぱり固かったけど、どこかしこも結構イケるわねー。ともあれ、これでスッキリ。わたし、綺麗? なんて笑ってみたり。リアクションとってくれる人いないけどねー。

「気が付きましたか?」
 医者っぽい人の声が聞こえた。ん、食べた耳は絶好調♪
「聞こえてまーす」
「体はどうですか?」
 首が固定されてるので視線だけを下に。んー、わたしの右半身はどこに行ったのかしら?
 本来私の右半身があるべき場所が、私の眼には真っ黒に塗りつぶされていて見えない。
 ハア、またお食事の時間になるのかしら。不足を補うためとはいえ、一気に食べると太りそうだわー。

 ということで、また都合よく右半身が落ちている謎の世界にダイブ・イン。こうしている間、周りはどうなっているのか、私には興味が無い。まずは私の体が第一だから。
 ばりばり、腕って骨と筋肉というかスジ肉ばっかりで味気ないわねえ。食べるには細いわあ。
 もぐもぐ、脚は割と肉付きがよくてよろしくてよ。焼いたほうが美味しそうだけど我慢我慢。
 くちゃくちゃ、胸はやっぱりほんのりミルクな感じね。いうなればママの味。ボリュームは若干不足かも?
 あぐあぐ、腰は肉付きが薄いのは味わう上ではあまりよくないわね。もうちょっと肉付きがあるほうが安産にもいいわよ私。
 ぶちゅぶちゅ、最後にモツね。あんまり好きじゃないけど、好き嫌いするとちゃんとした人間になれないものね、かっこわらい。先に食べなかったのは先に食べるとあふれて行っちゃうから。後から食べれば正しくお腹一杯、どっとわらい。
 フウ、どうやらこれで全身一通りそろったわね。

「平気平気って、痛ぁー!」
 改めてみると、さっきまで黒かった部分は真っ白な包帯ぐるぐる巻き。作品名、ミイラ予備軍。
「無理に動かそうとしないでください、術後そんなに経っていませんので、縫い目が開きかねません」
 術後ときましたか。オペ受けましたかわたし。かな~り痛いんですが、もうちょっと麻酔効いてていいと思いません?
「成功したのが奇跡って言われる手術だったんですよ!」
 看護師、別にそんな情報要らないから。
「女性なので目立たないようにしたつもりです」
 それは重要な情報だと思うけどね。
「そもそも、なんで私はこんな事に?」
「思い出せませんか?」
 医者としては予想内の質問だったのか、間を置かずに聞かれた。はて、私は原因を知っているだろうか。
 んー、記憶が無いってなると、もう残るはあれ、だよねえ?

 そして、脳がぽつんと置かれる謎空間再び。
 毎回わたしが欲しいなあ、と思うのがあるのは便利だけど、流石に脳って食べるのにもう、今まで以上の抵抗が。ちょ、ちょっとなめてみようカナ。
 れろ。
 苦っ! 苦いにがいにがいにがいにがいにがすぎっ! 一回舐めただけでなんでこうも苦いのっ! うう、舌から何かこうヴィジョンとかが来る感じ。

「私達、いつまで一緒かしら」
 助手席であの子が言う。
「たとえ離れたって一緒よー、栞ちゃん。だってわたし達、双子だもの」
 運転席でわたしが笑う。
「そうね、確かに私達は双子よ。けど、変えられないそれはあくまで血縁。こんなことしても一緒かしら」
 首に圧迫感。確かめようにも運転中に視線は逸らせない。
「姉さん、死ぬかもしれない時ですら現実逃避がすごいわね。だから大嫌い」
 首から圧迫感が無くなって、ハンドルが不意に動かされた。目の前には岩壁。ブレーキは、間に合わなかった。

 あー、うん、味に負けない苦い記憶ねー。私が今こうなってる原因はこれか。苦すぎる脳は放置して現実回帰。

「交通事故ですよね。双子の片割れと一緒に」
 さっき食べた側の腕を上げてひらひらと振る。
「で、どっちも死ぬくらいなら助かる見込みのある私に二人分のパーツを寄せ集めた?」
 逆側の手を上げながら言うと、医者と思われる人はびっくりした顔でよくわかりましたね、と頷いた。
「顔などはお二人の免許証などから再現できていると自負していますが、わからないことが一つ」

 貴方の名前は何ですか。

 はて、わたしの名前ってなんだっけ? まあ、いいか、体のついでに食べちゃえ。
 ぱくり。

「私の名前は、栞」

 ごくん、と音がした。すべてを嚥下する音。
 暗闇の中、残された脳が言う。
「ごちそうさま」
 こちらこそ。

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