さらし文学賞
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ラジオ、始めました

 ラジオ、始めました

 お昼の十二時四十分ごろ。地元の公立高校に通う俺、春宮葉助(帰宅部一年)は、どういうわけか放送室にいた。幼馴染の高咲唄葉(帰宅部一年)に呼ばれたからであるが、なぜ呼ばれたのかは聞かされていない。それでも俺がここまで来たのは、別に幼馴染の頼みだからというわけではなく、昼休み開始直後に『返してほしかったらダッシュで放送室まで来なさい!』というセリフと共に盗まれた俺の弁当を取り返すためである。が、ダッシュで来てみれば唄葉はいない。俺より先に教室を出たくせに、一体どういうことだろうか。
「はぁ、やっと着いたぁ」
 スマホを取り出して電話でもしてやろうかと思ったちょうどその時、放送室のドアが開いた。走ってきたのだろうか、頭の後ろのほうで一つにくくられた長くも短くもないポニーテールが左右に揺れ、額には少々汗が浮かんでいる。呼吸もまだ整っていないのか、平均をやや上回るサイズの胸が上下していて大変目に毒だ。左右両の手には弁当の包みを持っている。左手に持っているやつが俺のだ。走ってきたのだとしたら中身が心配だ。
「いやー、遅れてごめんね? ちょっと道に迷っちゃって」
「ここ学校だぞ⁉」
 通い始めて既に二か月近くは経つし、別段学校が広いわけではない。一体どこで迷うというのか。
「しょーがないじゃん。放送室がどこかイマイチわかんなかったんだもん」
 だもん、じゃねぇ。つーか、自分では場所もよくわかんない所に俺を呼び出しやがったのか。我が幼馴染ながらどういう神経してやがる。
「……はぁ。とりあえず弁当返せ。そして説明しろ」
文句を言ったところでどうにもならないことを知っている唄葉検定一級の俺は、弁当の返還を要求しながら話を聞く姿勢に入る。
「うん。実はねー」
 机を挟んだ俺の向かい側に着席しながら喋り出す唄葉。弁当は未だにやつの両手。弁当返せよ。
「私、ラジオ部を作ったんだー」
「あ、そう」
 軽いノリで言われたので、同じく軽いノリで返す。そもそも唄葉が突然何かを始めるのはいつものことなので、大して驚くことではない。
「ちなみに部員は私と葉助の二人ね」
「……はい?」
 ちょっと待て。どうして俺まで参加させられている? そんなもの承認した覚えはないんだが。
「だって葉助、どこの部活にも入ってないでしょ? なら問題ないよね」
「問題大アリだよ! せめて本人に話し通せよ!」
「でも、唄『葉』を『助』ける、で葉助だよ?」
「人の名前の由来を曲解すんじゃねえ‼」
 そもそもこいつと初めて会ったのは幼稚園のときだ。ただの偶然だろうが。
「そんなこと言いつつ、助けてくれるんでしょ?」
 分かってるよー、みたいな顔でニヤニヤしている唄葉。こいつ、調子に乗ってやがるな……。灸をすえねば。
「助けねーよ。なんでお前の思い付きに俺が協力しなきゃいけねーんだよ。一人でやれ」
「あっ、ひどーい! 協力してくれたらお弁当返すつもりだったのにー。いいもん、私が食べるもん」
「何でもするので弁当返してください」
 作戦失敗。敗因はやつに弁当を奪われてしまったことだ。あの時点ですでに勝敗は決していたんだ。帰宅部とはいえ、男子高校生にとって昼食抜きは拷問に等しい。
「まったく。最初から素直にそう言えばいいんだよ」
 やれやれ、みたいな表情で弁当を返してくる唄葉。くそっ、余計調子に乗らせる結果に……。
「……で? どうしてそんなもん作ったんだよ?」
 この学校は別に部活が少ないほうではないと思うんだが。
「つまらないからだよ!」
「すげー適当!」
「適当じゃないよ! この学校って、お昼休みの時間無音でしょ? 中学の時は放送部が曲流したりしてたけど、この学校には放送部がない。だから、お昼休みがつまんないの‼」
 力説された。確かに中学時代のお昼の放送は楽しかった。自分の好きな曲がかかると嬉しいし、そうじゃなくても友人同士の会話のネタにもなる。だから、会った方がいいという意見にはまあ、賛成だ。だが……。
「なら、どうしてラジオ部なんだ? 放送部でもいいだろ?」
「それは、私がラジオをやりたかったからだよ!」
「すごい個人的だ⁉」
「そうだよ!」
「全肯定だと⁉」
 いっそ清々しいな、ここまで全力で言い切られると。
「……まあいいや。それで? 俺は何をやらされるわけ?」
 唄葉がパーソナリティをやるのだろうから、俺は機材のほうか?
「私がパーソナリティをやるから、葉助はその相方と機材ね」
「無茶苦茶だ⁉」
 機材を操作しながら唄葉の相手だと? 死ぬわ。
「大丈夫、葉助ならできる!」
「どこの熱い人だよ……お前は俺を何だと思ってやがる……」
「富士山?」
「その人のネタはもういいよ!」
「じゃあ、ただの男子高校生?」
「……その通りだよ!」
 急にまともなこと言うからつっこみがワンテンポ遅れてしまったじゃないか。というか、分かってるならどうして俺に無茶を押し付ける。慣れない機材を操りながら唄葉の相手とか、ただの男子高校生のキャパ超えてんだろ特に後者。
「まあ、高校生のお昼の放送的な軽いやつだから、大して難しい操作はいらないはずだよ」
 ならお前がやれ、とも思ったが、こいつは同時に二つの作業ができるほど器用ではないので諦めた。俺、こいつといると損しかしてなくね?
「あ、放送は十二時五十分から一時五分までの十五分の予定だからね」
「あと五分もないし! 結局弁当食えないし!」
 もう少し俺のこと考えてくれ……。
「ほら、はやくしないと!」
 俺を急かしながらブースに入っていく唄葉。あ、本当に機材の件丸投げしやがった……。仕方なく、その辺にあった『機材の使い方~誰でもできるよ~』という張り紙を参考に急ピッチで作業をし、全ての準備を整えて俺もブースに入る。開始予定一分前だった。とりあえず今日の放課後は唄葉に説教をしよう。
「で、台本は?」
 一分とはいえ、話の流れの確認くらいはできるだろう、と思って唄葉に尋ねる。
「ないよ?」
「は?」
 が、返ってきたのは更に絶望を上塗りする回答。
「ザ・フリートーク!」
「お前絶対ラジオなめてるだろ⁉」
 こいつと俺が十五分間フリートークするラジオとか……誰得だよ。
「まあまあ。ほら、後三十秒で始まるよ? 葉助は、いつも通りに話してくれればいいから。ラジオを変に意識しないで、いつも通りにしてね?」
「はあ」
 それが一番楽ではあるが、それで本当にラジオとして成り立つのか?
「十秒前!」
 唄葉のその声に、俺は思考をいったんやめ、放送のスイッチに手をかける。
「五! 四! ……」
 三以降は、音が入らないように指で示す唄葉。その指がゼロを示した直後、俺はスイッチを入れる。ピンポンパンポン、というお決まりの合図の後、唄葉が喋り出した。
『はい! みなさんこんにちはー! お昼休み楽しんでますかー? 本日からお昼のラジオ活動を始めることになりました、ラジオ部です! お相手は私、一年の高咲唄葉と!』
 そこで、唄葉が言葉を切って俺を見てくる。自己紹介しろ、ってことか。
『同じく一年、春宮葉助』
『で、お送りしまーす!』
 ここまでは割と普通だ。このまま十五分、何事もなく終わってくれればいいが……。
『さ、葉助。話題プリーズ』
『そんなフリがあるか‼』
 ……なんて、甘いですよね。思わず素でつっこんでしまった。
『じゃあ、どんなフリならいいの?』
『知るかよ……。つーか、お前がメインパーソナリティなんだから、自分で話題くらい考えろよ』
 自分で企画しといて内容丸投げとか、何考えてんだこいつは。
『んー……じゃあ、葉助の話しようか』
『誰得だよ⁉』
 お昼の放送で一男子高校生(しかも俺みたいな、全てのスペックが平均並みという地味なやつ)の話をされたところで、反応に困るしつまらないだろうが。
『それもそうだねー』
『あっさり認めるのかよ⁉ 少しくらいフォローしろよ‼』
 分かっていた事実を改めて突きつけられた俺の心はひどく傷ついたぞ。
『だっ、大丈夫だよ。葉助のこと知りたい人だって、きっと多分恐らく奇跡的に天文学的数値で一人くらいいるって』
『まったくフォローになってねえよ‼』
 俺の心の傷は悪化したぞ。フォロー下手過ぎんだろ。
『むー、仕方ないなー。じゃあ、私が事前に友達に聞いておいた『ラジオで話題にしてほしいこと―』っていうアンケートから話題を探そう』
『最初からそれを出せ‼』
 なんだったんださっきまでの無意味なやりとり。無駄に俺が傷ついただけじゃねーか。
 そんな俺の内心など意に介さず、唄葉はブース内に持ち込んでいた鞄からハガキのようなものを十枚ほど取り出し、机の上に裏返しにして広げた。
『さて、私たちの前には『ラジオで話題にしてほしいことー』というアンケートの用紙が裏返しで置かれています。今から私がその中から一枚を引いて、それについて二人で話していくよー』
 なんか割とまともな企画になっている。
『よし、じゃあ選ぶよー。んー……よし、これ!』
 唄葉が一枚のアンケート用紙を手に取り、俺のほうへ向けてくる。俺が読め、ってことか?
 俺はそれを受け取ると、ひっくり返して文面をそのまま読み上げる。
『あー、ペンネーム『唄葉は私の嫁』さんから』
『何そのペンネーム⁉ てか、誰⁉ 私、その友人との今後の付き合い方を考えないといけないよ⁉』
 なんか唄葉が叫んでいるが、スルーして文面を読み続ける。
『私には夢がありません。とりあえず唄葉を嫁にするという未来は確定しているのですが、それ以外には特にやりたいことも就きたい仕事もありません。ラジオ部の二人はどうですか?』
『そんな未来は確定してないよ! っていうか、私がアンケート取ったのみんな女の子だから、結婚とかできないよ!』
『同性婚を認めている国もあるぞ?』
『どうしてその子の味方をするの、葉助⁉』
 唄葉をからかうのが面白いからに決まってるじゃないか。
『まあ、それは置いといて本題に入ろうじゃないか』
『そんな簡単に流せる問題じゃないよ……』
 唄葉は複雑そうな表情をしたままだが、あまり時間もないのでスルーして話を進めよう。
『夢、ねぇ……俺もこの人と一緒で特にやりたいこととかないんだが……唄葉は何か夢あるか?』
『え? うーん、一応あるにはあるけど……』
 ほほう。あるのか。
『ちなみに、その内容は?』
 長年幼馴染をやっているが、あんまりこういう話はしたことがない。せっかくの機会だし聞いておこう。
『お嫁さん』
『ぶふっ!』
 吹いたww
『おまっ、高校生が真顔でそれ言うか!』
『女の子の永遠の憧れだよ!』
『いや、そうなのかもしれないけどさ……』
 そういうのは、幼稚園児や小学生あたりが言うもんだろ。高校生にもなってそれは『真面目に考えろよ』とか言われちゃうレベルだって。
『……でも、よかったな。その夢、叶うじゃんか』
『……え?』
 俺が言うと、唄葉は何やら期待のこもった視線で俺を見つめてくる。俺はそれに応えるように、自信をもって告げる。
『この『唄葉は私の嫁』さんが叶えてくれるからな!』
『だからノーサンキューだよ‼』
 アンケート用紙を示しながらドヤ顔で言ってやったところ、唄葉は叫びながらアンケート用紙を俺から奪い、丸めてゴミ箱へ投げ捨てた。が、勿論入っていない。
『なんだよ、せっかくの夢をかなえるチャンスだぞ?』
『だからって、女の子同士は勘弁だよ! 私だって男の人と結婚したいの!』
 贅沢なやつだな。
『もう私のことはいいでしょ⁉ そろそろ葉助の夢の話するよ‼』
『いや、俺の話はもうしただろ?』
『あんな『自分も同じです』みたいな安い意見で済むと思ってんの⁉ ラジオなめてんの⁉』
 まさかここでお前にそれを言われるとは。確かに唄葉が言っていることは正しいようにも思うのだが、そもそも俺はラジオがやりたくて今ここにいるわけではなく、誰かさんの思い付きに巻き込まれているだけなので『ラジオなめてるの⁉』とか言われても、正直反応に困る。
『というか、私がここまでいろいろ言われたんだから、やり返さないと私の気が済まないよ‼』
『それが本音か!』
 とことん自分本位なやつである。
『で、葉助はやりたいこととかないの?』
『本当にないよ』
 習い事もやってなければ部活も万年帰宅部、趣味と呼べるようなものも特になし。そんな俺がやりたいことなんてあるはずもない。そんなのは幼馴染である唄葉が一番知っているはずなんだが。
『うーん、本当かなぁ……』
 その唄葉はどうやら納得していないご様子。仕方ない、適当にごまかすか。
『本当だよ。そもそも、高校生でそんなはっきりと夢持ってるやつなんてそうそういないだろ?』
 何も知らない小学生ならいざ知らず、ある程度現実を知ってしまった高校生が夢を持つというのはかなり難しい。例えば高校生が今からプロ野球選手を目指したってその夢が叶うことはまずないだろう。たとえ小さい頃から続けていたとしても、甲子園の予選にでも出てみればいやでも自分の実力のなさを突き付けられ、その夢を断念せざるを得なくなる人がほとんどだろう。高校生とは、今まで認識できていなかった現実の壁の高さを思い知り、夢を諦めたり妥協したりする時期なのかもしれない。
『そんなことないんじゃないかな』
 だが、俺の幼馴染は違う意見らしい。
『私の持論に『夢は小さな夢の集合体』っていうのがあるんだ』
『……はい?』
 夢の集合体が夢? ちょっと何言ってるかわからないんだが。
 と思っていると、唄葉が解説を始めた。
『夢って、要するに目標でしょ? 将来こうなりたいなぁ、ていう』
『まあ、そうだな』
『それって、小学生くらいの頃ならだれもが持ってるものだと思うんだ。でも高校生くらいになると、その目標の達成がどれだけ難しいことかがわかってくる。だから、高校生になるとあんまり夢を口にしなくなる。葉助が言ったのはそういうことだよね?』
『……ああ』
『でもそれは、夢を諦めたから、ってことじゃないと思うんだ。もちろん中にはそういう人もいるかもしれない。でも、高校生になって、目指す目標の高さが明確に見えたからこそ、どうすればそこに辿り着けるのかがわかるようになるんじゃないかな。そうしたら、今度はそこに辿り着くためにやるべきことを、小さな夢を一つずつかなえていけば、最終的にその目標は、夢は叶うじゃん』
 ……それで、夢は小さな夢の集合体、ってことか。唄葉にしてはなかなかいいことを言ったんじゃないだろうか。きっとこのラジオを聞いている夢を諦めかけていた生徒たちの心にも火が再燃した事だろう。少しだけ唄葉を見直してしまった。夢に対してネガティブな思考しかできなかった俺とは違うな。
『まあ、全部お母さんの受け売りだけどね』
『台無しだ⁉』
 やっぱり唄葉は唄葉だった。俺の感心を返せ。無駄に見直してしまったじゃないか。
『っと、ちょっと一つ目の話題が長くなりすぎちゃったね。じゃあ、次のにいこうか。まあ、時間的にあと一つが限界なんだけど』
 ……もうそんなに時間がたってたのか。
『……よし、これ!』
 一つ目を選んだ時からそのままになっていたアンケート用紙の中から一枚を手に取り、先程同様俺に差し出してくる。やっぱり俺が読むのか……。
『ペンネーム、春宮唄葉さんから』
『何でに連続でペンネームがまともじゃないの⁉ しかもこっちのは超恥ずかしいし‼ なにコレ⁉ 私への嫌がらせ⁉』
 唄葉が顔を真っ赤にして叫んだ。俺にキレられてもなぁ……。俺もお前と同じくらい恥ずかしい思いをしてるわけだし。とりあえずいえることは、こいつはもっと友人を選んだ方がいいということだけだな。
 ブース内の空気はかなり気まずいことになっていたが、ラジオで黙ってしまうと放送事故なので、気まずさに必死に耐えつつ俺はアンケート用紙の続きを読み上げる。
『私の友人はすごくいい人なんですけど、周りには全く理解されていません。私はその友人の魅力をみんなに知ってもらおうとするのですが、本人にその意思がないのでもどかしい毎日です。なので、私の友人魅力をこの場を利用して伝えてください。お願いします』
『ペンネーム全く関係ないし‼ そして、その友人とやらが誰だかわからないから伝えようがないし‼』
 ペンネームって基本そういうもんだろ。一枚目もそうだっただろうが。そして後者についてはまったくその通りだよ。用紙にはそれ以上の情報は何も書いてないし。これでどうしろというんだ……。
『これ書いたやつ、天然だな……』
『天然で済まされるレベルじゃないよ⁉』
 ここまで重要な部分をすっぽり書きもらすなんて、天然か、さもなくば嫌がらせだろう。……あれ? ペンネームの件もあわせて考えると嫌がらせの説のほうが有力だぞ?
『……まぁ、その友人さんの魅力を伝えることはできないけど、この人には共感できるなぁ』
 唄葉がなんとか話題をつないでくれたので、俺もそれに乗っかる。
『そうか? 俺はこの友人さんと同意見だけどな。本人が望んでないことを無理にする必要はないだろ?』
『そんなことないよ! だってこれ、自分だけはその人がいい人だって知ってるけど、周りは知らない、誤解されてるってことだよ? それってやっぱり気分悪くない?』
 それは……確かにそうかもしれない。友人さんからしたらこの人は少々おせっかいっぽく映るのかもしれないが、この人からしたら自分の友人がまわりから誤解されてる、ってことなのだ。自分に置き換えて考えてみると、あまり気分のいいものではない。例えば唄葉が周囲から誤解されているとしたら、やはり気分は悪いし、なんとかして誤解をとこうとするだろう。
『確かに、その通りだとは思う』
『でしょ?』
 しかし、だ。二連続で唄葉に言い負かされてハイ終わり、というのも気分はよくない。
『だが、それはこの人から見たときの意見だ。今度はこの友人の立場から考えてみろよ。この友人だって、自分のことが誤解されてるのは普通気分悪いだろ?』
 よっぽど他人に興味がないなら話は別だが。
『そりゃそうでしょ』
『だろ? じゃあ、何でこの友人は、友達が手を差し伸べているにもかかわらず、積極的に誤解をとこうとしない?』
 気分が悪くなるようなことを放置しておく理由はない。せっかく友達が助けようとしてくれてるんだ、普通は頼る。でもこの友人はそうはしない。理由は簡単だ。
『誤解をされてても、気分が悪くないからだよ』
『……どゆこと?』
 首を傾げる唄葉に、俺は答える。
『つまりこの友人には、この人という理解者が一人いればそれで充分なんだよ。たとえ万人に理解されなくても、この人一人が自分を理解してくれている。この友人は、それで充分なんじゃないか?』
『…………』
『理解者も友人も、たくさんいればいいってもんじゃない。上辺だけの会話しかしない友人、外面だけは理解した風を装う理解者。そんなのが何人いようと意味なんかない。それよりも、心から何でも話し合える友人、心から理解し合い、信頼し合える理解者が一人いる方が、よっぽど価値があって、大切なことだろ?』
 ……なんだからしくないことを口走ったな。クラスメイトとかに笑われてないだろうか。やべーすげー心配。
『……さすが葉助! 私が相方に選んだだけはあるね!』
 お前の手柄になるのかよ。
『……まあ、な。ちなみに今の、俺がは○ないから学んだことだ』
『台無しだよ⁉』
 先ほどの仕返しである。
『それとそのネタ、いったい何人のリスナーに伝わるの⁉』
 ……意外と伝わるんじゃないか? まあ、略称だったので、知らない人には何のことだかさっぱりわからないだろうが。
『っと、おい唄葉、そろそろ時間だぞ』
『流したな⁉ ……まあいいや、確かに時間だし。さてみなさん、ラジオ部のお昼の放送はいかがでしたか? ちなみにつまらなかったなどの意見は受け付けません』
『理不尽だ⁉』
 それじゃあ消去法でいい評価しか入ってこないじゃないか。
『まあ、次回からもこんなノリでお送りするので、よろしくねー』
『え、次回もあんのこれ⁉』
 もうこんなノープランフリートークウィズ唄葉は勘弁なんだが。
『そりゃあるよ、部活動だし。でも毎日だと大変なので、週二回、火曜日と金曜日にお送りしまーす!』
『それでも十分大変そうなんだが』
 せめて週一にならないのか。きついぞ、主に話題とか話題とか話題とかが。
『確かに、話題がなくなりそうだよね。でも、そんなあなたにこれ! アンケート用紙と回収ボックス!』
『なぜに通販風……』
『今回は私の友人からの募集だけだったけど、次回からは公募にします。今日の放課後から、これを昇降口にセットするので、なんでもいいからどんどん投稿してください。お悩み相談でも構いませんが、今日のラジオの雰囲気も考えて相談してくださいねー』
『なんでもいいんじゃなかったのか……』
『さあ、もう残り時間が三十秒となりました。葉助、どうだった?』
『すごい疲れた』
『ストレート!』
『だってお前、この十五分で俺が一体何回つっこんだと思ってやがる』
『何回なの?』
『知らねえよ!』
 また一回増えたし……。
『とまあ、こんな私たちですが、今後もよろしくお願いしまーす! 次回はゲストもあるかも⁉』
『唄葉は私の嫁さんだな?』
『それだけは勘弁して‼』
 と言ったところで、唄葉が合図をよこしたので、スイッチをオフにする。ピンポンパンポンという音の後が流れ、第一回目の部活動が終了した。時計を見れば一時五分ぴったりだ。
「いやー、お疲れー!」
 ブースの椅子に座ったまま軽く伸びをする唄葉。男の前でそんな胸が強調されるようなポーズとるなよ……。天然なのか、それとも幼馴染の俺は男として認識されていないのか……どっちもありそうだな。
「どう、葉助? 楽しかった?」
「……まあ、それなりには」
 リスナーがどんな反応をするかは分からないし、やる前はどうなることかとひやひやだったが、終わった今となっては素直に楽しかったと言える。
「そっか。なら良かった」
 そう言って満足そうに笑う唄葉。
 ……このまま気付いてないふりをして、何も聞かずに終わってもよかった。でも、俺は聞く。その理由を知るために。
「……なあ、唄葉」
「うん? なーにー?」
 身体を伸ばしながら、適当に返してくる唄葉。
「これ書いたの、お前だろ」
 唄葉が伸びをやめ、こちらを向く。その視線の先には、俺の手に握られた、二通目のアンケート用紙。
「……何言ってるの?」
「この字、お前のだろ」
 幼稚園からの幼馴染で、宿題の移しっこなんかもしてきた俺が、唄葉の字を間違えるはずがなかった。本当は用紙を裏返してペンネームを読んでいる段階で気付いていた。でも、ラジオの放送中に言いだせるはずもなく、黙っていた。
「それにこの内容。お前と俺に似てるよな」
 俺も、友達は多いほうじゃない。と言うかむしろ少ない。下手すれば片手で事足りる。それでも俺は十分だったのだが、それで納得しないのが唄葉だ。なんとか俺の友達を増やそうと、度々いろんなことを画策してきた。俺がそれに積極的ではなかったために、成功した試しはなかったが。
「……あーあ、まさかばれるとはなぁ」
 ついに唄葉は、自分が書いたことを認めた。
「どうしてこんなの書いたんだよ」
「んー……葉助に、知ってほしかったから、かな」
「……?」
「私が普段、どんな思いをしているか」
「……あ」
 今日のラジオを踏まえて考えるなら。こいつにとってはずっと、幼馴染が誤解されているって状況なわけで。
「葉助って、仲良くなってみると、すごく面白くて、一緒にいると楽しい人なんだよ。それは私が一番知ってる。でも、学校では誰かと積極的に話したりしないから、誰もそんな葉助の姿を知らない。それどころか『あいつっていつも一人だよな』とか『いつも一人でいるとか、気持ち悪いよな』とか、葉助のことをよく知りもしないくせに適当なことばかり言ってる。私はそれが、我慢ならない」
 そんな状況を、唄葉が心地よく思うはずもなかった。
「だから私、ラジオ部を作ったんだよ」
「ゑ?」
 思わぬところに話が飛び、変な声が出た。
「もともとこれは、葉助の本当の姿を知ってもらおうと思って、始めたことなんだよ。葉助があんなに全力でつっこんだりボケたりする人なんだって、多分全校生徒が初めて知ったんじゃないかな」
 ……だろうね。いままで学校であんなに全力で叫んだことなんてなかったし。
「これをきっかけに、葉助のことをもっと知ってもらって、友達が増えてくれればなぁ、と思って始めたんだよ」
「……たかが幼馴染のために、そこまでするのかよ」
 軽口を叩くように、半笑いで言った。
「するよ」
 対して唄葉は、今までで一番真面目な声で返してきた。
「私にとって葉助は、それぐらい大切な人だもん」
 ……そうだな。俺もお前と同じ状況にあったら、方法は違えど、唄葉と同じくらい大胆なことをしてでも現状を何とかしようとするだろう。俺にとっても唄葉は、それぐらい大事な存在だ。それ以上の理由は、いらないな。
 ……しかし、なんだか真面目な雰囲気になってしまったな……これは、俺たちらしくない。
「なんだか、告白みたいだな」
「にゃっ⁉」
 唄葉が変な声をあげた。
「それにお前が書いたアンケート用紙のペンネーム。あれも……」
「にゃーっ‼ あっ、あれはそのっ、あの、違うの!」
 唄葉がだいぶ取り乱している。だいぶ取り乱している唄葉面白いな。
「何が違うんだよ?」
「だ、だからっ、そのっ、あれは私の夢なのっ‼」
「……え? なに、俺プロポーズされてんの?」
「にゃあー‼ 違う、ぜんぜん違うの‼ このペンネームなら私だとばれないと思ったのっ‼ まさか筆跡でばれるとは思ってなかったのー‼」
 やばい、唄葉がちょっと涙ぐんできてしまった。ちょっとやりすぎてしまったか?
「……そういう葉助こそ、私が書いたの知ってて、あんなこと言ったんでしょ? それこそ、告白みたいじゃない?」
「う……」
 痛いところをつかれた。あれを変換すると『お前さえいれば十分だよ』とか言ってるように聞こえる。やべー、俺も何口走ってたんだ⁉
「よ、葉助は、わ、私さえいれば、いいいいんでしょ?」
 恥ずかしいなら言うなし‼ 俺も恥ずかしいし‼
 と、ここで昼休み終了の鐘が鳴った。この五分後には午後の授業が始まる。これ幸いと俺は逃走を図る。
「ほ、ほら、唄葉! のんびりしてると授業始まるぞ!」
「こらっ、逃げるな‼」
 しかし、ブースの出入り口近くにいた唄葉に逃げ道を塞がれてしまう。
「このまま二人で遅刻なんてしたら、今後この部活動できなくなるぞ!」
 部活やってたせいで授業に遅れました、などと言おうものなら部員が二人しかいないこの部なんか即刻活動停止である。
「それは困る‼」
 俺の指摘でようやくその事実に気付いたのか、唄葉が慌てて荷物をまとめ始める。と言っても、机に広げたアンケート用紙を鞄に突っ込むだけなので大して時間はかからない。一方の俺は、ここにはもともと弁当を返してもらいに来ただけだったので手ぶらだ。って、そういえば今日弁当食ってない‼
「よし、準備完了! 葉助、行くよ‼」
「お、おう」
 弁当を食い忘れた事実に気付き、午後に授業を思って憂鬱な気分になったが、授業に遅刻するわけにはいかないのでなんとか足を動かし、先に走り出した唄葉を追う。そういえば来た時も思ったんだが、どうして放送室の鍵は開いていたのだろうか。そして閉めなくていいのか。
「鍵はあとで顧問が閉めてくれるから平気だよ!」
「顧問いたのか……」
「そりゃいるよ⁉ いなきゃ部活として成り立たないよ⁉」
「走りながらつっこむとか……疲れないか?」
「じゃあつっこませないでよ‼」
 またつっこんでるし……。
 でもまあ、これでいいんだよな。俺たちの日常は、ラジオでも全校生徒にお届けしたようにこんな感じなんだ。それはきっと、これから何年たとうが変わらないだろう。いや、変わらないでほしい。……そうだな、とりあえずはそれを唄葉が言うところの『夢』ってことにして『小さな夢』とやらを叶えていこうか。差し当たっては、今日から始まった俺たちの新しい日常、ラジオ部を守るために、授業に遅刻しないことか。
「って、おい唄葉! 教室はそっちじゃない‼」
「え⁉ そうだっけ⁉」
 ……放課後は、学校案内かな。
 そんな調子で、俺たちの日常は過ぎて行く。今日芽生えた夢に向かって、一歩ずつ。

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