さらし文学賞
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切れかけの蛍光灯

切れかけの蛍光灯 

 今日も私の病室の蛍光灯は点滅している。私はいつもそれをぼんやりと眺めえている。もう五年になるだろうか。中学入学して、すぐにこの病室に入院することになってしまった。自分としては何も不調な部分はなかったのだが、春の健康診断の後、私の体に異状が見つかったらしく、大きな病院で一度検査を受けたあと、この有様である。
 詳しいことはお医者様もお母さんもお父さんも話してはくれない。多分、相当に重い病気なのだろう。学校は中退させられ、当然のごとく、高校にも通えない。時々、窓から見える同じ年頃の制服姿の子たちを見ると、とても羨ましく、妬ましく、そして自分が惨めに思える。友達と談笑しながら帰宅する人たち、手をつないで歩くカップル、部活帰りでぐったりしながら帰る男の子達。同じ年でどうしてこんなに境遇の差があるのか、なぜ自分だけがこんな目にあわなくてはならないのか。入院当初にはそんなことばかり考えていた。今ではだいぶ少なくなったが、ふとそう思うことがある。そんなときはそういう星の巡りなのだろうと思うことにしている。
 この生活はひどく退屈だ。私はまともに友達も作る間もなく、こうなったため、お見舞いに訪れる人もいない。一度だけ、担任とクラスの代表をして女の子が来てくれたが、当たり障りもない定型文を並べるだけで帰ってしまった。それから訪れるのはお医者様と看護師さんと両親だけになってしまった。することいえば、睡眠、食事、体調の検査、読書、それと運動機能を劣らせないための簡単なエクササイズ。それが私の生活サイクルだ。毎日同じことがひたすら繰り返される日々。
 そんな毎日にもある日変化が起きた。私の体調が悪化し、それと同時に蛍光灯が切れかけ始めたのだ。そりゃ消耗品だから、いつか寿命が来るのだろう。いつから変えられていないかは知らないが、たまたま私の時に切れるのだろう。特に気にすることもないのでわざわざ変えてもらうこともなかった。
 蛍光灯も蛍光灯でなぜか私が一人でいる時にしか点滅しないのだ。まるでまだ使えますよ、と虚勢を張るかのようにしている。まるで私が辛い時でも人前では元気に振舞っているのと同じように。いつしか私は自分の命を蛍光灯に重ねて考えるようになっていた。似たような話だと葉っぱだろうか。最後の葉っぱが全て落ちたら自分の命が尽きてしまうのではないかと考えるように、私もこの蛍光灯が切れると死んでしまうのではないのかと考えるようになっていた。
 私の体調がいい時には蛍光灯は点滅しないし、逆に悪い時には点滅する。私の体調の指標になっているみたいだった。それとも、蛍光灯を見ることで、私の気分が変動しているのか。どちらにしろ私と蛍光灯はリンクしていた。
 そして、初雪が降った寒い冬の日の夜、私の病態は急に重くなった。いつも通りに本を読んでいたはずなのに、始めに胸が苦しくなり、それから体全体に痛みが広がり、それと同時に気だるさ襲う。体を思うように動かせない。呼吸さえも辛い。声も出せない。今度ばかりはやばいと感じた。すぐにナースコールを押そうと手を伸ばしたが、届かない。すぐそこにあるのに。早く早くと、心は焦るのにどうにもならない。そして、蛍光灯も激しく点滅している。それがより私を急かしているようだった。私の意識が遠のいていくと同じように、ぼんやりとしてきた視界では蛍光灯の光も徐々に弱くなっているように感じた。
 もうだめだ。そう思うと同時にバリンッ、と音が聞こえた。その音を聞くと、私の最後の一線が途切れたように意識を失った。

 目を覚ますと一面にお花畑や川があることはなく、見慣れた天井だった。ふと横を見るとお母さんが泣いていた。私が目を覚ましたのを見ると、途端に笑顔を見せ、大丈夫、辛くはない、などと矢継ぎに質問を私に投げかけたあと、落ち着きを取り戻すこともなく、そのまま看護師さんを呼びに行った。
 どうやら私は生きていたようだ。お母さんがお医者様と看護師さんを連れて戻ってくると、両方とも驚いた表情で私を見ていた。どうやら私は当分目を覚まさないと診断されていたらしい。それでも、私は一週間以上眠っていたのだが。それから様々な検査を受けて、落ち着いたあとにあの日のことを聞いた。
 偶然にも私の病室のまえを通った看護師さんが部屋から何か割れる音を聞き、部屋を覗くと、私がベッドから崩れていたのを見つけたそうだ。それからすぐに緊急治療室へと運ばれ、即座に手術が行われ、一命は取り留めたが意識の回復はほとんど見込めないということだったらしい。
 目を覚ましてからは私の体は安定して回復していった。もう少しで退院ができるらしく、私はこれからの生活が楽しみでしかたなかった。そんなはしゃぐ気持ちを押さつけて、寝ようと天井を向く。そこには新しい蛍光灯が付けられている。寝るためにその明かりを消す。私はあの蛍光灯が私を助けてくれたのだと思っている。自ら割れることで、私の危険を看護師さんに知らせてくれ、私の代わりに死んでくれたのだと、そう考え、そう信じている。他人に話せば、ただの偶然と済ませられるだろう。もちろん、私はそれを否定はしない。この考えを受け入れてもらうとは思わない。私一人がそう思い続ければいい。だって、そのほうが素敵なことだと思うっから。

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