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さらし文学賞
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線香花火

 自分の住む小さな村では、毎年夏の終わりに祭りが行われている。川沿いにある広場に村の人たちがいくつか屋台を出して、村の人々が集まって交流をするのが目的の祭りだ。
 今までであれば、近所で一番年上の自分が食べ物をねだる騒がしいこども達を連れていたのだが、今年は最大の悩みの種である女の子といる。誰かに見られていないか心配なところだ。この小さな村には自分の友達は誰もいないため心配することではないのだが、今のこの光景を友達が草むらの中からのぞいているのではないかと思ってしまう。
 彼女と家の前で一緒になってから広場へ向かう道を歩いているのだが、付かず離れず微妙な距離を保ったまま進んでいるのが気まずい感じだった。黙って歩いているうちに目的地の近くまで来てしまった。
 少し歩けば川の近くまで出ることができ、右に曲がって林の中に入ってすぐのところに広場がある。広場の中は田舎とは思えないような、都会に一歩も引かない活気があった。
 今までは静かなところで少し気まずい感じがあったのだが、この活気に満ちた場所では話しかけていくことができそうだ。まずは勇気を出して一言発するところから。
「なんか、今年は盛り上がってるね」
 彼女はその言葉を聴いて少し驚いた様子だった。突然話しかけたからだろうか。
「うん」
 彼女はすぐにもとの無表情に近い状態に戻って歩き始めた。向かうのは盛り上がっている中心部ではなく、普通の世間話などをしている人の多い静かな隅のほうだった。
 彼女はほどほどに静かになっているあたりで立ち止まった。どちらかというと盛り上がっているほうに行けば何となく話しかけやすくなると思っていたので、隅のほうに行ってしまうのはあまり良くないのではないかと思う。何となく中心部のほうへ向かうようにするにはどうすれば良いか。
「もうご飯食べたか」
「……ううん。まだ」
 彼女は首を横に振りながら言った。それならば簡単だ。
「そうか、俺もだ。じゃあ何か食べるか。とりあえず屋台のほうに行こう」

 彼女とはこの狭い村で幼いときから友達のように仲良くしている。それは先週まで10年以上続いていたものだった。
 それが先週、親同士の取り決めによって婚約することになり、これから付き合うことになったのだ。いまどき親同士の取り決めで婚約ということはあるのだろうか。今思い出してみれば、たしかに何か含みのあるような話をされたことはあったがそこまでのことに気づくことはできなかった。
 婚約について最初に言われたとき、彼女とその両親も一緒にいた。最初は下手な嘘だと思ったものだが、雰囲気の厳かさで本当なのだと悟った。その日はすぐ彼女側が家に帰ったのだが、あのときから今日までにも何回か顔を合わせている。しかし、どうしても意識がそのことに行ってしまい今までどおりに振舞えない。歩くときの距離感などは、かえって広がってしまっていると思う。
「何にする」
「んー……私はあれにする」
 彼女は近所の熱いオヤジが毎年やっているお好み焼き屋の方へふらふらっと歩いていった。それについていく。
 近くに行くとお好み焼きを焼くいい音が聞こえてくる。特にソースをかけて、少し鉄板のほうに落ちたときの音がたまらない。それに元気のいいオヤジの声。こういうのを見るたびに、ここは本当に良い田舎だと思う。
 札に書いてあるお好み焼きの値段は二百円となっている。かなりしっかりしていて量もあるのに、この値段で平気なのかと思う。原材料だけで二百円分はありそうだ。さらにガス代などを考えると赤字なのではないか。向こうから言わせればそんなこと大きなお世話だ。
「いらっしゃい! ……もう聞いとるで」
「ひとつください」
「あ、もうひとつ追加で」
 彼女に追加で自分も頼むことにする。特別食べたいというものは無いため、どうせなら同じのにしておくのがいいかもしれないと思った。
「あいよ!」
 オヤジは作っておいたのではなく、できたてを二つ準備してくれた。自分は小銭入れからさっと200円を出して、オヤジに渡した。
「ん、『ひとつ』二百円やで」
「えっ」
「おまえ、ついてんだろ」
 そう言ってオヤジは彼女に分からないよう、手提げを弄っているときに股間のあたりを叩いた。
 ……あぁ、そういうことか。
 彼女は持っていた手提げから財布を出して今にも開けようとしていたため、それを片手を使って無言で制した。
「あっ、いや、でも……」
 そんな彼女は無視して、持っていた二百円をしまって、代わりに五百円玉を出してオヤジに手渡した。

 店から少し離れて回りを見渡すと、広場の隅のあたりに丁度よい感じに座れそうな丸太がいくつかあった。とりあえずそこに座って食べることにする。
「…………」
 座ってみれば完璧に向かい合ってしまっていた。目の前にいるのは何とも緊張するもので、ほとんど会話の無いままお好み焼きを食べ終わってしまった。結局変わっていない気がしたが、変わったことにして気持ちを切り替えた。
 彼女はゆっくり食べていたので皿の上にお好み焼きがまだ残っていた。その食べているのを見ていても良かったのだが、2回も目が合ってしまったときにはやめて、それからはただ祭りの様子を眺めていた。
 あるとき、走り回っていた子供のうちの一人が近付いてきた。
「ねぇお兄ちゃん。この辺で花火やっていいかな」
 突然の声に少し驚いてしまう。声をかけてきたのは自分よりも小さい小学生くらいの身長の子供たち。小さい村だから、ほとんどの人を知っている。実際にみんな小学生だ。
「あぁ、いいよ」
 こどもたちはライターと蝋燭を取り出してと花火で遊び始めた。時々盛り上がりすぎて人のいるほうへ行ってしまった時は止めたりしながら、いつの間にかお好み焼きを食べ終わっていた彼女ときれいな花火の様子を眺めていた。
 花火をしている中で半端な数の花火があったのか、花火をしているこどもの一人が手に何種類かの花火を握ってやってきた。
「これあげる」
 子供たちがくれたのは線香花火や不思議な形をした花火だった。
 花火といえば打ち上げ花火、火花が飛び出るようなもの、あとは線香花火のようなものしか分からないため、実際に自分で火をつけて遊ぶような小さい花火はバリエーションが多いのだと感心した。
「うん、ありがとう」
 自分が言おうと思っていたことを言ったのは彼女だった。自分には見せることのない優しい笑顔がそこにはあった。普段はほとんど無表情に近い彼女の新しい一面が見えて嬉しいものだ。
「じゃあ、使わせてもらおうか」
 こどもたちの使っている蝋燭の火を使わせてもらって花火をすることにする。火をつけて何も無いほうに向ければ祭りの夜を一層彩る音と光の舞踏が始まる。
 夏の夜にすることといえばこれか肝試ししかないと思う。後者は本当に怖かったり面倒だったりするので実際にするのは花火しかないだろう。彼女は今までの少し気まずい感じが嘘であったかのように純粋に花火を楽しんでいた。こどもたちの笑い声に混じって彼女の笑い声も聞こえてくる。自分は特別なことは何もしていないが彼女が楽しそうで幸せを感じるひとときだ。そして、楽しいときはすぐ過ぎ去るものであるのは誰でも分かることであり、気がつけばもう花火は後ひとつになっていた。
「線香花火ってシンプルだけどきれいだね」
 美しい花を咲かせすぐに散ってしまう一輪の花。もしかしたらこういう時は盛大な打ち上げ花火よりも、彼女とこのようなものを一緒に楽しむ方がいいと思う。
「でも、すぐに散ってしまうなんて、ちょっと寂しいかな」
 彼女と少し目が合う。先ほどは少し目が合ってしまっただけで気まずくなってしまっていたのに、今は不思議と見つめあう時間ができてしまう。
 今なら何か少し前に進めるかもしれない。そう思うと勝手に動いていた。
「っ……」
 彼女は最初はかなり驚いた様子をしていた。しかし、それも一瞬の間だけであり、すぐに差し出した手を優しく握り返してくれた。
 広場の隅のほうで静かに線香花火をしている男女は、他人から見れば奇妙に思われるかもしれない。
 意識のほとんどは手に持っていかれていたが、照れながらも花火を見て嬉しそうにしている彼女の顔はしっかり見ていた。それをみて自然と笑みがこぼれてしまうのだ。

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