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さらし文学賞
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私の主人

私はハク。猫のようなもの。
 私はいま古い神社の縁側の下にいる。今日のような良く晴れた夏の昼間は涼しいところですごすに限るのだ。
 縁側の上には雄高という男の子が座っていて、私のところからは雄高の足だけが見える。
「あー……宿題かったるい」
 そんな気だるそうな声が聞こえてきて、見えていた足が引っ込んだ。ほどなくして寝息が聞こえてくる。特別何かやることがあるわけでもないので、私も少しのあいだ眠ることにした。

 私は自分のほうに近づいてくる足音に気がついて眼を覚ました。その足音は神社への階段の方から聞こえてきて、ここに向かって上ってきているようだ。
 足音以外にも不思議なを力を感じた。それで私は誰が来たのか確信した。
 階段を上って見えてきたのは予想通り、私の主人である稲子という女の子だった。
 私は主人のほうに向かって走り出した。階段を上りきったところで座って待ち構える。主人が来たところで私が鳴き声を上げると、主人は屈んで私の頭や背中をなでた。
「あれ、ハク。ここにいたの」
 主人はそう言って微笑むと神社の建物のほうへ向かった。私は後ろについていく。
 主人は雄高の寝ているところまで行くと、背中を何回かやさしく叩いた。私は縁側に乗ってその様子を見ていた。私もたまには主人に労ってほしいものだ。
「雄高、かえるよー」
 主人が呼びかけると雄高はようやく目を覚まし、情けなくあくびをして上半身を起こした。眠気でうつろになっている眼をこすりながら稲子の方を向いた。
「うー……、稲子か」
「早く立って、靴はいて。ごはんだよ」
 主人は雄高の手を引っ張って立ち上がらせようとした。しかし、主人が引っ張るのに対して雄高は起き上がろうとしなかったため、引かれた方向に転がってしまった。
「ほら、ちゃんとして」
 雄高は主人に叩かれて、よっこらせと老いたような情けない声を出して立ち上がる。主人がそろえた靴に足を入れて、そのまま固まった。
 私は気になって雄高のほうへ近付いた。私はすぐ足元で鳴き声を上げたが無視され、私のほうではなく主人のほうを向いた。
「ねえ稲子、家までのせ……」
「やだ」
 そう言って主人は階段に向かって歩き出した。主人の返答が早すぎたのか、一方で雄高は少し呆けていたため、どうしようかと思っていたところ、雄高が何かに縛られていたのから開放されたかのように急に動き出して主人を駆け足で追い始めた。私は少し驚いたが、後ろから走って追いかけていく。
 階段の中ほどで雄高は主人に追いつき、隣に並んで歩き始めた。私はその後ろについて下りていく。特に会話の無いまま一番下まで下りて立ち止まった。
 階段を下りてすぐ左側の一軒家が主人と雄高が住む家だ。稲子が入り口の扉を開けて中へ入っていった。

 日が昇ってまださほど時間が経っていない頃、私は雄高が家から飛び出して階段を上っていくのを見た。私は特にやることも無かったため、ついて行ってみることにした。
 雄高は軽く息を上げながら、駆け上るように階段を登っていく。一番上につくと一回深呼吸してから神社に向かった。
 昨日は縁側の下で寝ていただけで中には入っていなかったが、今日は雄高が正面の入り口を開けて中へ入っていったので一緒に入った。一緒に入ったところで私がいることに気付いて、少し驚いているような表情をした。
「なんだハク、ついてきたのか」
 私は抱き上げられて、頭や背中をなでられた。そして、何も無かったかのようにすぐ下ろされた。
 ところどころ壊れかけている古い神社、しかし、中は掃除されていて古さが趣深さを醸し出している。祭壇だけは比較的新しいもので作られているようで、きれいな木材や磨かれた宝具などが置かれている。
 雄高はそれらの物に意識を向けることはなく、隅のほうに積んであるいくつかの冊子を拾い上げた。
 雄高は安堵したように大きく息を吐いて、周りを見渡した。何か気になるものを見つけたのか、祭壇のほうに歩いていく。雄高は祭壇のところに落ちていた虫の死骸を拾って、近くにあった戸をあけて外に投げ捨てた。そして、虫を取るとき祭壇の上に置いておいた冊子を取り上げたとき、雄高は何か事が起こっていることに気がついたようだ。祭壇のものを動かしたり、引き出しなどを開けてみたり、狭いところを覗いたりしていた。その慌てようは、この世の終わりかと思ってしまうほどで、その並々ならぬ様子に危機感が募ってくる。
 その様子を見て私も気がついた。祭壇の一番中央にいつも安置されている御神体がなくなっていることに。雄高は神社を飛び出して、階段を駆け下りていった。私もそれを追った。

 私は雄高に続いて家の中に入って、そのまま雄高の部屋に向かう。部屋に入って私は机の上に陣取った。まさに普通の男の子の部屋といった空間の中にひとつだけ浮いている大きな籠があった。その籠の中にはふかふかの毛布が敷かれ、五十センチほどの狐、わたしの主人が眠っていた。
「稲子おきて、稲子」
 雄高は主人を抱え上げて揺らすようにして目覚めさせた。ようさく目が覚めた主人は雄高の手から抜け落ちるようにして地面に降り、後ろ足のみで立ち上がった。その姿から体が光り始め瞬く間に形が変わり、主人は気がついたときには既にシンプルなワンピースを着た女の子になっていた。
 私の主人は稲に関わる狐の妖怪だ。私はその使いのようなもの。といっても、私も主人もこの土地に来る前のことは何も覚えていないため、その他の事については分からない。妖怪としての能力も変化する以外のものはほとんど見たことが無い。
「稲子、耳と尻尾が消えてないよ」
「え、本当か。失敗なんて初めてかも、無理に起こすから。しくしく……」
 雄高の言ったとおり主人の頭の上のほうには先の少しとがった三角形にちかい形をした耳がついている。先の方には黒っぽい毛が生えていて、だんだん薄くなっていき、付け根あたりでは茶色い髪の毛と同じ色になっている。膝くらいまでのスカートの後ろ部分が不自然に盛り上がって、髪と同じ茶色でふさふさの毛並みの尻尾がその中から伸びている。
 主人は壁にかけてあったキャペリン帽子を取って頭にかぶった。これで耳は隠せているが、まだ尻尾が残っているのはどうするつもりだろうか。
 主人は物入れの中から数少ない主人の服が入っている箱を取り出してきて、長くてふわふわとしているスカートを上からはいて尻尾を隠した。これで腰の辺りの不自然な盛り上がりもごまかせている。
「というより、別に人間の格好じゃなくてもいいよね」
「昔はわかんないけど、最近はこの格好ばかりだからこの方がいい。寝るときはあの方がいいけど」
「ふーん……。てか、そうじゃない。祭壇の御神体が無くなったんだよ」
「へぇ、そうなの」
 私の主人は軽くうなずくだけであまり話は聞いておらず、耳や尻尾がちゃんと隠せているかどうが触ったり体を捻って見てみたりしている。
 例の無くなった御神体となっている宝玉は主人の拠所になっているから、それが無くなってしまうのは一大事だと私は思う。何しろ遠くなってしまうと妖怪としての力が使えなくなってしまう。
 それにしても、なぜ主人があまりそのことを気にしていないのかが気になる。普段は雄高に触らないで祭壇の上に置いておいてくれとまで言っているのに、無くなったとなれば何かしらの動きがあってもいいかと思うのだ。
 しかし、私だけでは何もできないので、成り行きを見守っていき、力になれるときだけ主人を助ければいいのだ。
「……って、本当か。まずいね、それは」
「そうだよ。とりあえず神社に」
 そのやりとりをきくと、実は主人が何を言われたかしっかり分かっていなかっただけらしい。何か思うところがあったのか、神社に行く流れで促すようにして雄高を部屋の外に追い出してしまった。
「ちょっとまってて」
 主人は扉を閉めてしまい、私もその中に残される。
「なぜか分からないけど、不思議と使い方だけは覚えているものなのよね」
 主人は着ていた服を脱いで私を胸の高さまで抱え上げた。人間としてはまさにこどもの体形だが無駄がなく美しい。これは変化で作られたものだから、無駄なく作るのは当然とも言えてしまう。
 変化ならばどのようにもできるはずなのだが、主人いわく中高生ほどの身長でこどもの体形が一番動きやすいとの事らしい。
「ちょっと我慢してね」
 そう聞こえたとき、急に体中が熱く、息苦しくなった。それが主人に強く抱きしめられていると気付くのに時間はかからなかった。
 抱えられていると、少しずつ息苦しさがなくなり体が浮かんでいくような感じになる。そのまま一瞬意識が途切れた。
 気がついたとき、私は主人の手の中にいた。

 私は主人と共に部屋の外に出た。雄高は廊下にはおらず、トイレの明かりも消えていたため、リビングの方へ行ってみると椅子に座って麦茶を飲んでいた。
 それは結構な事だと多少あわてていたのにのんきなものだと思ったが、水分補給であるし仕方ないものだということにする。
「大丈夫か、行くよ」
「ちょっとまって、今いく」
 主人が言うと雄高は出していたお茶をテーブルの上においてあった水筒に入れた。そして、玄関にかけてある家の鍵を取って外に走り出た。
 私は主人に連れられ外に出た。そこまで暑くなくても、せみの鳴き声がかなり大きくなっていて鬱陶しい。まずは右に曲がってすぐ階段を上り、神社のほうへ向かった。
 神社の中に入り祭壇を見てみると、確かに御神体の宝玉がなくなっていた。その他のものは何も変わっておらず、きれいに整理されている。
「いつからないの」
「朝に宿題を取りに来たときにはなかった」
 主人はその言葉を聞いて、私を祭壇のほうへ向けて輪を描くように回した。私の動いた軌跡に光の粒が残り、宝玉が置いてあった祭壇から一番近い戸口の辺りに疎らに広がっていった。
「たぶん、他所から来た妖怪の仕業か。あの玉には結構な量の私の力が宿っているからね。でも気配は大したことないから何とかなりそう」
 そう言って戸口のほうをにらんだ。すでに光の粒があった跡は光を失ってなくなっている。
「ねえねえ、稲子いがいにも妖怪ってそんなにいるもんなの」
 隣にいた雄高が聞いた。雄高は主人以外の妖怪を知らないのかもしれないと思った。考えてみれば、この土地には主人以外の妖怪の気配はないし、何回か出会ったことはあるが大体は大人しくて無害な妖怪で、雄高がいるときは見たことがない。
 主人は雄高の言葉を聞いて少し意外そうな顔をした。おそらく私と同じことを思っているのだろう。
「結構いるよ。大体は人間から離れて生活しているから、普通の人は一生知らないことが多いけど」
「ふーん。それって悪い妖怪なの」
「んー。人間と同じで完全に悪い、善いっていうのはないかな。そのとき次第だったりするよ。大体の妖怪は悪いこともいいこともする」
「へぇ、稲子以外の妖怪は初めてだなぁ。ちょっと楽しみかも」
「油断はするなよ。それより、この辺りの山の道って分かるかな。残念ながら、わたしは飛べないんだよね。相手の妖怪もたぶん飛べないようなのだと思うから歩いていって問題ないと思う」
「分かるよ、お任せ」
 私たちは外に出てまず神社の裏の道を進んでいった。木のまばらな明るい散歩道から、木が増えて胸の高さ辺りまで藪の生い茂る暗い森になるのに大した距離は無かった。主人は宝玉の方向が感覚である程度は分かるため、それと雄高の道案内で森の中を進んでいく。雄高は森の中の道がどこで分岐して、どの道がどのように曲がって伸びていくかほとんど分かっているらしい。折れ曲がって違うほうに進んでしまったと思っても、いずれ望んでいたほうへ進んでいく。
 山がだんだんと近づきつつあった頃、足が止まった。目の前には明るく開けた場所が広がっていた。広く平らな場所だが木が生えておらず、胸の高さほどあった藪も無くなり、十センチほどの短い草と多種多様な花が咲き乱れる美しい花畑があった。
「秘密の場所なんだ。来るとは思わなかったけど」
「そうなの、きれいなところね。この辺で何か、洞窟とか動物がいそうな場所、知らないかな」
「えっとね……。たしか向こうの端のほうに良く分からないけど穴があった」
 指差された先には確かに不自然なこぶができていた。雄高が先導してそれに向かっていく。
 私は主人が髪の毛の一部を逆立てて殺気立っているのを感じ取っていた。私には分からないが例の妖怪がそこに隠れているのかもしれない。十メートル程のところまで近づいたところで雄高が言っていた穴が見えてきて、主人は雄高を止めた。そこにいるように言って、主人だけが近づいていった。
「このしびれる感覚。覚えている限り初めてのはずだけど、懐かしい感じがするわ」

 私は責を外され、主人の手から前方に投げられた。要を軸に骨を広げ、主人の書いた多数の術式が書いてあるほうの扇面を前に向けた。びっしり書かれている数々のうちのひとつの式が動き出し、私の周りを回転する小さな白い光の玉が何百と出現した。この術式は私でも主人の力の一部を利用できるようにかかれたものらしい。主人いわく、特に意識はしていなかったが気がついたときにはたくさんの術式が書けていたそうで、感覚的にどうすればいいかわかるようだ。
 主人が一歩近付いたとき、一瞬だけ穴の中に光が見えた。私は光の玉を反射的に操り、多くの光の玉を主人と雄高を守るように展開させた。主人は姿勢を低くして両手を地面に叩きつけるようについた。反射的に動きをとった直後に穴の中から土の様な核を持つ火の玉のようなものが飛び散るように無数に現れた。その多くは何も無いところに落ちたり、木に当たるなどして小さな爆発を起こし、枝を落とし土を舞い上げた。私や主人、雄高の近くに来たものは私の術式の火の玉が進路をふさぐように移動し、触れた瞬間に火の玉が現れたときと同じ術式が現れて、吸収するように消える。それはあまりにも多く、爆発や数々の術式によって一瞬だけ視界が奪われる。
 視界が戻ったとき、穴のあったところは主人の出現させた凶悪なとげを無数に持つ植物で埋め尽くされていた。主人の出した植物を回避するために外に飛び出てその姿を曝した妖怪は猪のような姿をしていた。
「ハク、雄高をそとに」
 主人のその言葉を聞いたとき、私はすでに主人につかまれ、雄高のいるほうに投げられていた。私はとっさに主人にもらった術のひとつを発動させて、数メートルある巨大な純白の羽を出現させて雄高を乗せた。そのまま滑るようにして私たちが入ってきた広場の入り口辺りまで移動する。何が起きているのか理解が追いついていない様子の雄高をそこに置いて私は主人のほうへ戻った。
 投げられてから数秒しか立っていないため不思議ではないが、私が戻ったとき主人と妖怪はまだにらみ合っていた。妖怪が後ろに飛んで下がったとき、主人も同時に動き出して再び地面に手をついて植物を妖怪の飛んでいった先に出現させた。妖怪はそれに気がついて、頭のほうを下げるようにして植物のほうを向いて大きな火の玉を吐いた。火の玉は現れた植物をすべて焼き尽くして地面を灰色に染めた。
「植物系は効かないね。ハク、後ろの守りは任せるわ」
 主人は戻ってきた私をつかんで一回閉じてから強く握りしめた。主人の力によって私を柄とする一メートル程度の光の刀が出現した。私は光の玉を再び出現させて、邪魔でないように後ろに展開させた。すでに迫り来ていた妖怪の大量の火の玉を妖怪に向けて突っ切り掻い潜るように避けていく。回避しきれない火の玉は刀を振り回すことはなく、引き付けてから中心に刀をまっすぐ当てるようにして綺麗に切って消滅させていく。
 一瞬のうちに近付き、高く構えたままからまっすぐに突き出す。切るよりも速い一撃を妖怪はギリギリのところで跳んでかわし、至近距離から大玉の火の玉を吐き出した。主人はそれを刀を体のほうへ少し引くだけで刃を火の玉の中央にぴったり当てて真二つに切る。それと同時に後ろに跳ねて距離をとった。
 炎を使う妖怪に対しては、植物は燃やされて終わりのように私には思えたが、主人は植物での攻撃をもう一度行った。一回目の攻撃は妖怪の後ろから細い植物ですばやく攻撃する。当然のように全て焼き尽くされたが、一瞬妖怪の意識は後ろに向けられていた。主人はその隙をついて二回目の攻撃を始めて、瞬間に全速力で突撃した。2回目の攻撃は主人のいるほうを除いた全方向から囲い込むような攻撃。妖怪は二回目の攻撃を処理しようとしたとき主人の存在に感づいて、主人の捨て身の攻撃を処理して植物に捕まるか植物を焼き尽くして主人にやられるかを一瞬迷ったように見えた。それが勝負のついた瞬間。主人の渾身の一撃をかわし、植物の攻撃をうまく避けて捕まりもしなかったが、その凶悪なとげを
受けて傷を負った。
「わたしの勝ちね」
 植物から一歩離れて、傷を受けた妖怪をみていた主人はニヤリと笑って私から出ていた刀の刃を消した。妖怪は傷を受けた瞬間から動きが鈍くなり、あっという間に動かなくなった。
「あの植物には私の力を込めた特別な毒が塗ってあるのよ。よくも大切な植物をさんざん燃やしてくれたわね。毒で死にたくなけれ言うことを聞きなさい。まだ喋れるわ」
「はい……」
「わたしの片割れを返して。それだけね」
 観念した妖怪は宝玉を口の中から吐き出した。主人は光を反射して七色に輝く玉を拾い上げて、私に擦り付けるようにして埋め込んだ。私の中にとてつもなく大きな力の塊が入り込んできた。それはまさに無限にあるようで、使っても使ってもなくなる気がしないほどの量だった。
 私は広場の端のほうに放置していた雄高を迎えにいった。
「何かよくわからなかったけど凄いね」
 私は興奮気味の雄高を羽にのせて連れていこうとしたところ、先程は地を這うような動きしかできなかった羽は宝玉の力が加わったのか空高く舞い上がってしまった。ついに制御が利かなくなってしまった羽はゆらゆらと揺れながら落ちていった。
「ハク、頼むよー」
 私は言葉を発することはできないため、扇を上下に振ってお辞儀をするようにして雄高に謝った。端から見るとただ風を送っているだけに見えてしまうのが少し嫌ではあった。
「……これで毒は消えるわ。さて、あなたどこから来たの。この辺りに妖怪はわたししかいないはずなんだけど」
「自分は元々武蔵の国と呼ばれていたところから来ました。かつて人里近くの小さな山の様々な生き物を統べていましたが、人間の手によって動物はいなくなり、妖力の源である森も失って彷徨っていました。そのとき、この地にものすごい妖力の塊を見つけたので来ました。明らかに自然に存在しているものでないのは分かりましたが、そのときは生きるのに精一杯で、その妖力を制御して見張る者もなにもなかったので使わせてもらいました。いきなり攻撃したのは、いままで様々な妖怪に様々な土地から追い払われてきたので、つい反射的に……。すいません」
「他の妖怪の気配がなかったから、そのまま放置していたのが良くなかったね。……さて、わたしの力を使った使用料は高いよ」
 主人はニヤリと笑った。そのまま逃がしてあげる気は全くないらしい。
「……あの、非常に勝手な、お願いなのですが。しばらくここに居させてくれませんか」
「えっ……そう来ますの」
「行く当てがなくて……どうかお願いします」
「……雄高、どうする」

 我が家には妖怪が二人居る。狐の妖怪、稲子と猪の妖怪、亥久だ。稲子の本当の名前は稲狐というらしく、女の子と自分で言っていて、両親がこどもの時から居るそうだ。亥久が言うには妖怪に性別はないようなもので、稲子が勝手に人間に当てはめているだけらしい。亥久は数日前に我が家にやってきた。弱ってこの地に逃げてきたところで稲子の力を勝手に使い、稲子に怒られたのだ。
 妖怪ではないらしいが稲子の使いのハクも忘れてはいけない。稲子の力を借りて様々なことができるらしい。普段は猫の姿をしていてよく一緒に遊んでいる。
 今日は先日荒らしてしまった広場をきれいにする為に出かける。妖怪の力を使うらしいので自分が行く必要はないかもしれないが、愛着のある自分の庭なので手伝いたい。
「稲子、いつまで寝てるの。そろそろ行くよ」
「……はぁ、俺は暢気に寝てるこいつに負けたのか。私も年老いたな」
 いつの間にか横に亥久が来ていて驚いた。亥久はまさに近所の厳ついオヤジといった格好をしている。人間の格好をするのならば、それが山の生き物たちを統べるために威厳もあって一番良いらしい。
 稲子を抱えあげて揺するとようやく目を覚ました。すぐに人間の姿に変化したのだが、そこからまた呆然と立っていた。
「……男は出てって。女の子は大変なのよ」
 今日の稲子は寝起きが良くないのか、不機嫌そうな顔をしていた。亥久と一緒に部屋を追い出されて廊下で待たされていた。
「あそこ、僕の部屋なんだけど……」
「……困ったお嬢さんだ」
 稲子が出てくるまでの時間、亥久とリビングで麦茶を飲んでいた。
 例の場所まではハクの出した羽に乗って一気に移動した。今までは力が足りなかったようで高くは飛べなかったのだが、宝玉をハクに埋め込んで管理している関係でハクの力が一気に増大して飛べるようになったらしい。蝉の喧騒から逃れて、鳥と並び優雅に空を舞った。
 広場にはひっくり返された土の塊や灰、凶悪なとげを数多く持つ稲子の出した植物が残っていた。まずは亥久の炎でとげの生えた植物をすべて焼き払った。土の塊などは亥久が踏み潰して平らにしていき、灰と化したものは稲子が力を使って一箇所に集めた。
 荒れた土地は瞬く間にきれいに整地された。しかし、まだ失われた植物は元に戻っていなかった。家に貯めてあるものを持ってきた、この近辺によく生えている植物の種を出して、ある程度は場所ごとに種類をまとめて埋めていった。中にはここにしか生えていなかった花もあったので、それを戻すことはできないのが非常に残念だった。
「稲子、終わったよ」
「はいはーい」
 稲子は扇子の姿になっているハクを手にとって太陽のほうに向けた。何回か扇子の先端を回すように動かすと、扇子のその先に太陽並みの強い光を放つ白い玉のような何かが現れた。
「豊穣神とはいかないけど、稲狐をなめるなよ」
 稲子は扇子を先ほど種を植えた辺りに向けて振り下ろした。あまりの眩しさに、ほとんど見ることはできなかったが、玉の光は地面に強烈に当てられ、光の持つ力によって種は急速に成長して花を咲かせた。
 光が消えたとき、そこには元通りにかなり近いような多種多様な草花が生きる花畑が広がっていた。
「すげー。本当にこんなことできるんだ」
 あまりの光景に目を疑い、つい声が出てしまった。それほどに成長の具合が著しく、普通ではありえないほど美しかった。
「素晴らしいね。ただの居眠り狐だと思ってたけど見直したよ」
「うるさい。寝たいんだからいいの」
 そして稲子は僕の手をつかんで、家のあるほうに向かって走り出した。
「さぁ、家に帰るよ。そこの猪は置いていくわ」
 羽に乗って帰るほうが楽なはずなのに、森の中を稲子に手を引かれて駆け抜けていった。

あとがき
こんな感じの書くのは初めてなのでなかなかうまく行きませんでした。勘弁してください。



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