さらし文学賞
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神は祈りに応えます。

 海のどこかに大きくも小さくも無い、自然の豊かな島があります。そんな島にある日、一艘の船が流れつきました。
 船には生まれ故郷を追われた人たちが乗っていました。彼らは信仰を認められずに迫害を受け、ついには海へと逃げ出さなくてはならなくなったのでした。
 神は人のすることに手は出さないと、数千年前に決めましたが、彼らの信仰はいと高き所へ在るこの神にも届く物でしたから、少しだけ、彼らに手を向けてやろうと思いました。
 まずは、彼らを安住の地であるこの島へ導きました。この島には人はいないので、彼らの祈りを妨げるものは何もありません。

 彼らは島での安寧に感謝して祈りました。神は満足します。

 森には動物がいました。当然、猛獣もいます。彼らのうち何人かは猛獣に喰い殺されてしまいました。彼らは猛獣がいなくなるように神に願いました。幼い息子を失った母の悲痛な祈りを神は聞き届け、猛獣を消し去りました。

 彼らは身の安全に感謝して祈りました。神は満足します。

 島には果樹が繁り、端の方には少ないながらも麦の自生する場所もありました。彼らは土を耕し、麦を増やそうと努力していました。
 夏季になると、この島は雨がよく降ります。彼らの故郷はどちらかというと寒く、雨もあまり降りませんでした。神はそのことを思い出すと、雨を止めました。しかし今度は渇きが彼らを弱めました。麦も枯れてゆきます。彼らは雨よ降れと天を仰ぎます。喉の渇きで声も出ない彼らの叫びを神は聞き取り、再び雨が降るようにしました。

 彼らは雨に濡れながら感謝をささげました。神は満足します。

 雨による湿度と、夏季の暑さは蚊を発生させます。それは病を運びました。彼らの多くが病に倒れ帰らぬ人となりました。何人かがこれは試練だ、我々の信仰が足りなかったのだと云い、彼らはより厳しい宗教生活を送るようになりました。

 彼らはより信仰の熱信を深めました。神は満足します。

 彼らが島に来て十年以上が経ちました。島に来た頃の子どもは大人になり、また何人もの子供が増えていました。
 しかし島の緑は少なくなっていました。肉を喰らう猛獣を消したことで草食獣が増え、草木を減らしていったのでした。
 彼らを指導する立場にあった何人かは森の共有地を独占しようとしました。何人かは草食獣に脅かされる畑の番を請け負うことで対価に収穫の配分を増やすようにと主張しました。
 ごく一部は、生活が厳しいのは試練だ、我々はまだ信仰が足りなかったのだ、規律を厳しくせよ、と求めました。大部分は厳しすぎると反対しました。
 こうして彼らは意見をたがえ、神に祈ることも忘れて争いあいました。そうしていよいよ争いがどうしようもなくなった時に、彼らの皆が、「神に敵対する不信心者に罰を」と祈りました。
 呆れた神はそれでも皆の祈りにこたえることにしました。平等に罰を与えることにしたのです。雨はまた降らなくなり、病が広がり、再び肉食獣が現れて彼らを襲いました。
 彼らは絶望に嘆き、悲しみ、憔悴して、神に救いを求めてすがりましたが、神はもうこたえようとは思いませんでした。そうしてすぐに島は無人島へと戻りました。
 人の声が途絶えた後、静かになった島からは別の声が聞こえてきました。それは果樹が、麦が、草食獣が、肉食獣があげた安堵の声でした。

 彼らは島の安寧に感謝して祈りました。神は満足します。

 これで良いのです。
 神は何もしなくて良かったのです。

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