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さらし文学賞
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 残念、本当は殺してやりたいと思っていたんだけどね。それよりも、もっといい方法をね、思い付いちゃったんだ。だから命に心配はないよ。それは保証する。ただ、君は今この瞬間、この選択をしてしまったこと、それだけをこの後もずっと後悔し続ける。それこそ死にたくなるほど後悔すると思う。寧ろ殺してくれ、とそう願わずにはいられなくなるほどに。
 でもね? それって仕方のないことなんだよ? 私が君から受けた、死ぬほどの屈辱に比べれば、命が助かっただけまだ全然いいほどなんだから。
 私はね、君が殺したくて、殺したくてたまらなかった。その太い血管が通る首をナイフでつーっと突き刺して、返り血を浴びながら膨れた腹を裂いて内蔵を抉りとって、何もかもを抜き取った君の脱け殻をプラスチック容器にぎゅっと詰めて黒くてぐちゃぐちゃの粗大ごみ置き場の異臭が充満する地下の奥深くまで、捨てて埋めてやりたかったんだよ。たくさんのごみの中で跡形もなく溶けて形のわからなくなった君の死体を、遥か上の安全地帯から見下ろして、「ざまあ見ろ! 屑は屑らしく、そうやってごみに埋もれてればいいんだ!」って唾を吐いてすっきりした気持ちで自分の家に戻って行きたかったんだ。けど、それができるほど私には力がなかった。私が君に今からするのは、その代わりのほんの些細な、イタズラに過ぎないんだよ。くだらないと思うか、逆に私を殺したいと思うほどになるかは、君の考え方次第だね。もしかしたら、粗大ごみ置き場に骨を埋めるよりは全然よかった、と思うかもしれないし、もっと他のひどい仕打ちを受けた方がマシだった、って床に拳を叩きつけるほど悔しく思うかもしれない。
 でもきっと、いや、絶対に君は後悔するよ。私は君の全てを知ってるんだ。だから君がされて嫌なことも、当然分かっちゃう。君は私のことをもう馬鹿に出来ない。今からすることでそれを痛感することになると思うよ。

 どうせ最後だし、本題に入る前に、少し私の本音を聞かせてあげるね。
 君というやつは最初から実に下らないやつだった。こちらが話しかけているというのに返事は「うん」とか「わかった」しかない。たまに話題に食いついてきたと思ったら、私が話す余地もなく異常なほどに喋りまくる。会話のキャッチボールができない。お前が今日の昼の食ったパスタのこととか、好きなアニメの話とか、モー娘。から何か別のアイドルグループが独立したとかなんてどうでもいいし興味ねえよ。この間買い変えたらしい携帯電話の機種の話何かされてもさっぱり理解できないし私には何の関係もない。そんなことよりちゃんとその焦点の定まらない目をこっちに向けて話せよアホ。話の内容以前の問題だわ。
 なんてことを直接いうと、君のガラスよりも繊細な神経はズタズタに引き裂かれて再起不能になってしまいますね? ハートブロークンですね? ショックを受け過ぎて怒る気力も失せますね? というわけで、私はそれをあえて無視することにしました。どんなにつまらない話も「そっかあ、よかったね」って言ってニコニコ笑って聞き流してたの、多分君はそれを会話のキャッチボールに付き合ってくれてると勘違いしてたんだろうね。また喋ること喋ること。でも私は「へえ、もの知り何だね」って相槌を打ってあげます。寛大、寛大。見逃してあげてることにも気づかず、まだ君は、掲示板で見た悪口のこととか、どこの誰か書いたかわからない小説の話とか、家族が髪の毛を乾かすときの癖とか、どうでもいいことを話していますね。実にくだらない。さっきからあなたの話に耳を貸さずに適当な相槌しか打っていないということにまだ気付かないんですね? 相変わらず、目はお空のどこにいるかも分からないフェアリーを見つめたまま。そのまま魂抜かれてどっかいっちゃえよバカ。
 はい、ここまでが去年の夏休みに初めて一緒に行ったプールでの感想ね。君の側からは「楽しかったねー、また来ようね!」なんて言ってかわいいピンクのフリルの水着でイルカさんの浮き袋を抱えながらはにかんでいた女子学生が写っていたことでしょう。幻想ですそれ、全部幻想。あれ、まさか本気にしちゃいましたか? 何それ超ウケるんですけど。君みたいにまともに人と顔合わせて喋れない人間と一緒にどこか行きたいと思うような変人いるわけないじゃん? ましてや女なんて余計に寄り付かないでしょ。身の程弁えようね。

 さて、何となく始めた同棲生活は思ったより楽しめましたね。人とまともに会話できない君も長いこと一人暮らししていたおかげで家事全般はかなり得意なようで、炊事も洗濯も掃除も、私は全部君に任せっきりだった。代わりに私は汗水垂らしてあくせく働いて、お金を我が家に入れていたわけだけれども、これって普通に考えたら男女の立場逆なんじゃないかなって思わないこともなかったかな。それには君も十分気づいていたことでしょう。でも相変わらず君は私の目を見ようともしない。視線の先にはいつもパソコンかスマホのディスプレイ、もしくは実態のない妖精さんがいるばかり。だから私は侮蔑の意味も込めて君にあだ名をつけて心の中で呼ぶようになった。もちろんそのあだ名を君の前で言ったりなんかしなかったけどね。そんなことすると君のガラスハートは木っ端微塵に涼しい音をたてて崩れ去ってしまうだろうし、そんな小汚ないあだ名を言おうものなら、表で可愛い清楚系アイドル演じてる私の顔にも傷がついてしまうしね。君と同棲してるってだけでも職場の仲間からは割りと評判悪くなってたんですけど、君はどうせ私のことをこれっぽっちも理解する気がなかったんだろうから、もちろんそんなことには気づいていないのでしょう。「なんであんな人と」っていうのはもう何回も聞いた台詞だわ。仲間たちが向ける冷たい視線を思い出すだけで、君との数年は実に穢れていたなと思わざるを得ないわけです。確かに家事はしてくれたけど、それだけで君のこれまでの汚名が返上されるわけではないの、わかってるよね? 職場での白い目に、苦痛に、五年近く耐えてきた気持ち、働いたことがない君にはわからないだろうね。
 わかってるならさっさとこっち見ればよかったんだよ、変態キモニートが。

 さて、視線をあわせることができない君でも、唯一私の方を向いてくれる時間がありましたね。そう、君の趣味であるカメラを通した場です。考えてみれば私と君との出会いもそこから始まったんだよね。今となっては思い出すのもおぞましいくらいなのだけれど、私はあのときまだ全然売れない駆け出しアイドルで、日々を食い繋いでいくのも大変なくらいだった。そこにたまたまやってきた君が私を武道館で歌ってる超売れっ子アイドルもかくやという勢いでフラッシュを焚いて撮影しまくっていたわけだ。私は趣味で来ているだけだった君のことを仕事で来ていたプロカメラマンだと思い込んで、色んなポーズを決めては撮影されていた。今思うとどうして君があの撮影所にいられたのか、不思議でたまらないんだけど、もうその答えを聞く機会もなさそうだね。あのとき私は誰にも相手にされなくて寂しかったせいで、カメラで撮られることそれ自体にとても興味があった。カメラを向けられてることが本当に嬉しくて、水着で脇の下見せて背面から微笑んだり、クマのお人形みたいに両足開いて間に腕を垂らして座りこんだりというちょっとマニアックな君の注文にもあっさり答えちゃってたよね。多分、あの時の写真、まだ君の手元に残ってるんじゃない? で、そこから何回か現場に現れた君と、とんとん拍子に仲良くなって、というか、仲良くしているつもりで、いつの間にか付き合うことになって、付き合ってから暫くして、君がプロカメラマンじゃなくてただのファンの一人だってことに、やっと気付いたんだよね。
 ああ、もう思い出しただけで自分の馬鹿さ加減に腹が立つんだけど、ここから先は私が君にこのメールを送った理由の全てね。一方的に送りつけてるから質問もできないとは思うけど、何で、と思う所は、自分の胸に手を当ててよく考えてみてね。普通、こんなこと、誰かに言われるまでもなく、人として最低限のマナーとかモラルとかってそういう話になると思うんだけど、君はそういう、人として最低限のマナーもモラルも守れないで犯罪じみたことをやってしまったんだから、殺されるほど私に恨まれるのは当然だと思うよ。君は妖精さんなんて言うかわいいものじゃなかった。強いて言うなら、矮小で脆弱で、何かにすがっていないと生きていけない実につまらないゴミムシだったんだ。それが分かってから私は君につけたあだ名を変えたよ。もちろん繊細な君にそんな卑俗なあだ名を直接ぶつけるなんてことはなかったけどね。
だから初めてその名前で呼んであげる。君は正真正銘の、ゴミクズ寄生虫だよ。

 この五年間、私は君をカメラがないところで自分に振り向かせたくてたまらなかった。あの手この手で空中にいる妖精さんから自分の方に振り向いて欲しくて、色仕掛けまで試したんだよ。
 なのに君ときたら、ちっともこっちを見てくれない。それどころか、とっておきの色仕掛けでさえ、君はカメラのファインダーを通してしか見てくれなくて、私の裸を何枚も写真に収めるなんていう奇行を働いた。最初のうちは男の人でもそういう趣味の人がいるって聞いたことがあったし、特に君はカメラに異常なほど執着を示す人だったからプレイの一種くらいに捉えてた。いつか自分を素でみてもらうために必要な、ちょっと恥ずかしい思い出、くらいに考えていたんだよ。
 けどさ、そうじゃないって気付いたのは、君が私に黙って金を家に持ってきた時だよ。今までアルバイトすらしたことがない、働くつもりもなかったはずの君が、どこからか大金を手にして、「見てよ、こんなに稼いだんだ」って自慢げに言ってきた。あの時君は今までに見たことがないくらい誇らしげだったよね。しっかりと私の目を見て、とても嬉しそうに、僕が初めてお金を稼ぎました、みたいに胸を張ってた。そのお金、どうしたの、って聞いたら、今まで撮った写真を出版社に持って行ったら、高く売れたんだ、ってまるで子供みたいに目を輝かせて言うんだもの。ずっとプロを目指してカメラに色んな写真を収めて、それがやっと世間に評価されたんだね、ってその時は思ったんだけど、よくよく考えればどこの馬の骨ともわからない素人が撮った写真なんて、そんな高値で出版社が買い取るはずがない。ましてやその後出版社がうちに何の話も通してこないなんて、どう考えてもおかしい。君は私のことを馬鹿な女だと思って高をくくってたみたいだけどいくらなんでもそのくらいは私にだって分かるよ。
 だからその後、君がどこからそのお金を持ってきたのか、少し調べさせてもらった。預金通帳にカタカナで書かれた振込主の名前だけど、あれをネットで検索したら一発で架空請求業者の名前が出てきたよ。その架空請求業者が何回か変えた名前を検索していくと、最後にはアダルトサイトの運営に辿りついた。そこでは素人からプロまで偽造でなければどんな画像でも買い取ると豪語している裏サイトで、特にセミプロより有名な裸体の画像は結構な高値で売買されるらしいことを知った。中には一枚当たり数万なんて値が付くのもあるらしい。馬鹿馬鹿しいよね、ただの電子データに数万円だよ? 君は私がアイドルとして段々売れ始めたのをいいことに、私とのプレイ画像をそのサイトの業者に売り渡してあんな大金を手にしてたわけだ。私に見つかることを恐れて自分のパソコンのネット閲覧履歴を几帳面に消してたみたいだけど、そんな小細工しても君がその人たちに送ったメールに私の画像が添付してあったのだから間違いないね。メールの本文に私の個人情報まで載せて送り出すなんて、そんなにお金が欲しかったわけ? 確かに君は働いたこともない駄目なニートだったけど、あんまりお金に困っているようには見えなかったのに。ちなみに、君のメールアドレスのIDとパスワードを割り出すのなんて造作もなかったよ。これでも結構、そういうの得意なんだから。意外だったでしょ?
 君が元架空請求業者のアダルトサイト運営者に送り付けた画像と個人情報、それから写真は、あっという間にネット上に広まって、アダルトサイトの閲覧ランキングでトップテンに入るくらい有名になった。その頃にはすっかり有名になっていたからその写真のお陰で週刊誌から散々取材が来て大変なことになったし、事務所からもこっぴどく叱られる羽目になったよ。ようやく波に乗りかけていたはずの私のアイドル生命も君が訳の分からない連中に餌を捲いたおかげで何の落ち度もないのにぶっちぎられることになって、一時期は心身共に疲れ果てて自殺も考えたくらいだもの。私が死ねば君は少しは反省してくれるかな、って考えたんだ。何だったら、君の目の前で自殺して一生分のトラウマ植え付けてやろうかなって、そう考えたこともある。どっちにしろ私の人生はここからやり直せない。ネットの闇の中で有名になってしまった元アイドルなんて、この先誰が雇いたいと思う? せいぜいそんじょそこらの風俗嬢かキャバクラ嬢になるくらいしか残されてないよ。もちろん、元アイドルなんて肩書き、どこに行っても白い目で見られるだけだしね。
 だけどさ、他人の一時の過ちのせいで自分の命まで投げ出してしまうのは、さすがに馬鹿馬鹿しいと思って考え直した。ましてや君みたいなゴミクズ寄生虫にこの先の人生潰されて命まで奪われるなんて、考えただけで気持ち悪いし吐き気がする。だから最初に言ったとおり、私は君に復讐することにした。本当は、殺してやりたかったんだけど、もっといい方法を思いついた。君と私の関係は、これでもって文字通り全部終わりだよ。
 このメールの最初に、私は君が絶対後悔することになる、って書いたよね。あれどういう意味だか、そろそろ分かってくれた? ここまで読んでくれたならそろそろ裏で君のパソコンのHDDのデータの消去が半分くらい終わってる時間だと思う。君が今までに撮った私の写真も、どこかで撮ったお気に入りの何かの写真も、今使ってるパソコンの中に保存してあるデータも、今私の思い出と共に全部壊してあげたよ。大切な資料とか、気になってたゲームのデータとか、その他これまで溜めてきたデータ全部、このメールを開いたと同時に自動ダウンロードされたウイルスによって、きれいさっぱりお掃除しておいてあげたからね。君は私を馬鹿にして何もできない女だって決めつけていたようだけど、実際はそんなことない。そういう油断が、一番の敵になるんだ。調べて気付いたんだけど最も危険なウイルスって案外、簡単なプログラミングで出来たりするんだね。まあ、私が送りつけたのは、それを改造した、もっと危ない奴なんだけど。
 そろそろ時間かな。最後に一つ言わせてほしい。私は君を今でも許してないし、今後許すつもりもない。今回はこんなイタズラを仕掛けさせてもらったけど、それはあくまで君が反省するための材料であって、気が済まなかったらもっと手ひどい方法で、君の人生ズタズタに引き裂く壮大なイタズラを考えると思う。女は嫉妬深い、ってよく言うけど、これは嫉妬なんかじゃなくてもっと深い恨みに根差した復讐だよ。最後だから言いたいことを言いまくって、君に後腐れなく私を嫌いになって欲しかった。私も君のことなど嫌いだから下手な裏読みなどせず、さっぱり私を恨むといい。
 全データが消えるまでにはなかなか時間がかかると思うけど、せいぜい何度もこれを読んでそのときを待つと良いよ。そうすれば、今まで自分のしてきたことの反省、少しはできると思う。言い忘れてたけど、これのダウンロードと同時に、予め仕組んでおいた個人情報とこれまで君がしてきたこと、とある掲示板サイトに流れるようにしておいたよ。誰か本気にしてくれる人がいると嬉しいな。警察ってああいうどうでもいい書き込み、チェックしてたりするのかな。
 ね? こういうの、なかなかいい暇つぶしになったでしょ? ああ、まだ反省もしてなくて、面白くなかったっていうなら、今度はもっと素敵なプレゼントを用意してあげるよ。私の今までの人生全部を掛けて、君の全てを、いや、君の周りを含めた全てをずたずたに引き裂いてあげる。人付き合いはそこそこ得意だったおかげで、ニートの君じゃ絶対知り合えないような怖い人たちのところまで人脈ができたんだ。でも最初に言ったとおり、命は取らないよ。だってそれじゃあ詰まらないもの。君には残された人生を、私の何十倍も何百倍も、痛い思いをしながら、怯えながら、苦しみながら、死にたいと思いながら、過ごして欲しいの。
 それまでどんなことがあっても頑張って生き抜いてほしいな。
 じゃあね、社会のお荷物さん。

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