FC2ブログ
さらし文学賞
スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |


イレギュラー


 空から女の子が降ってくることなんてありえない話だろうけど、あったとしたらその下にいるのは大抵同じ年頃の男の子で、その少年が何か手段を講じることなくとも少女落下の衝撃は和らげられ、普通のようなボーイミーツガール的展開から物語が発展するものである。ところで僕の場合が、そんなヤワな話にはならなかったことは、この前振りから察せられるところであろう。
 しかも、降ってきたのではなく、ほぼ突き刺さったと言っていい。僕の身体目がけて、地面と平行に腹部へ目がけて、彼女は体当たりしてきた。箒に乗って、それなりのスピードで。僕の身体をクッション代わりに使ったということは、後の彼女の証言から得ているので、悪意はないにせよ迷惑な話である。
 突撃された僕は悲鳴にならない悲鳴を挙げて案の定吹っ飛び、家の近くに生えている大木に叩きつけられ、内臓という内臓を潰して辺りにぶちまけてしまった。大木はさすがに倒れはしないものの、大きくへこんだ。
「大丈夫ですか」
 自分の姿を見なくてもわかるほど大丈夫じゃない。大丈夫じゃないよ、これ。
「今、治しますね」
 そうして、僕の視界の隅で手を当てた美少女の姿が霞んで消えるまで、意識の汀でただ「可愛いなあ」と思っていた僕の異常性は言うまでもない。


 彼女は郵便屋さんか何からしい。ポーチの中に小包が入っていた。まさに魔女の宅配便。宅急便は商標登録されているので、黒猫が登場しない限り使えないそうである。彼女には相棒と呼べる黒猫がいないようで、僕は残念である。
 治療はものの数分で終わり、気付くと心配そうな顔で彼女が僕を覗き込んでいた。ボロボロになっていたはずの僕の身体はすっかり治っていて、その速さには治療を施した彼女自身も驚いているらしい。
「わたし、治癒魔法は得意なんです。いつもサポート役ばかりだから」
 大きな仕事を任されたときは、後衛をやらされる立場は僕も同じである。そのことを話すと、同情したのか、ちょっと照れくさそうに彼女は笑ってくれた。
「すみません、本当に。わたしが未熟なばっかりに、自分の乗っていた箒を折っちゃって、その代わりの箒を用意していただけるなんて。この箒に魔力を供給すれば、供給分だけなら飛ぶことが出来るので、この先なんとかなると思います」
 なんとかなるとは。
「ええ、あの、お届け物をしてるんです。大事なものなので、明朝までに間に合わせないと、チームのみんなが困るらしくて……」
 そんな大切なモノなんだ。ふうん。この小包かい。へえ、ふうん。大変だねえ。
「でも、これもお仕事なので」
一晩飛ぼうと思ってたってことは、この先どこかで少し休憩しようと思ってたんだよね。なら、何かの縁だ。ここで休んでいくといいよ。狭苦しくて小汚い家だけどさ。
「そ、そんな、悪いですし」
 いいよ、僕も独り身で寂しいし、ときどきはやっぱり賑やかな方がいいんだ。
「そうですか。うーん、そうですね、じゃあ、少しだけお邪魔させていただきます」
 畏まらなくてもいいのに、ペコリと僕に向かってお辞儀する彼女が可愛くて、僕は嬉しくなってしまう。久し振りの外からの刺激というのはいいものだ。
「それなら、出会いがしらにあんなことになっちゃいましたし、結局こうお節介になってしまいましたし、わたし何かお手伝い出来ることはありませんか?」
 健気でいい子だなあ。なら、少しだけお願いしようかな。
「はい! 何でも言ってください!」
 それじゃあ、そうだなあ。掃除でもお願いしようかな。
 彼女は嬉しそうに笑って、ぺこりとお辞儀した。


 僕の家は基本的に汚い。よく使うところは綺麗にしておこうとは思うけれど、それだってなかなか出来ないので、何かのきっかけがないと掃除を始められないのだ。
「あ……えと、すごい、ですね」
 浴槽を見て、あまりの汚さと匂いに絶句している彼女も可愛い。というか、この表情を見るためにお願いしたと言えなくもない。
「何年洗ってないんですか」
 もうずっとだね。何年かなんて忘れちゃったよ。
「そ、そうですか……」
 しかし、意を決したように表情が変わって、彼女は強くブラシを握りしめた。
「少し魔法を使わせていただきますので、リビングでお待ちください。三十分ほどで綺麗にしてみせましょう」
 ほうほう、それは頼もしいですね。
「おくつろぎ下さいませ」
 そう言うと、彼女の右の掌が薄く緑色に輝き始めた。
「水垢水垢水垢、このにっくき水垢め」
 ぶつぶつ言いながら、蛇口を思い切り捻って水をドバドバと入れ始めた。それから、光り輝く掌を浴槽に向け、目を閉じて集中する。すると、水がゴポゴポと湧きあがって風呂場が火山のように噴火し始める。彼女の目つきは真剣そのもので、むしろこんなに汚い浴槽の掃除を楽しんでいるようなちょっと近付きがたい人の姿にも見えてしまう。そんな彼女の姿もいいものだ。
 僕はリビングに戻ることなく掃除の一部始終を楽しく覗き見させてもらう。


「おわりましたあ」
 浴槽を洗い終えてリビングへ戻ってきた彼女に、お疲れ様、と出して上げた麦茶を、彼女は一息で飲んでしまった。
「もう少しかかりそうですね、箒」
 床に小さく書かれた魔法陣の上に置いてある箒をみて、彼女が呟いた。魔法陣を介して、周辺に満ちているマナを集約して箒へ送り込み、乗り物として使えるようにする魔術。僕なんかは箒など使わないから、そういう知識は持っていても、実際に見たこともやったこともなかったから感心して見ているだけだ。
「そんな、わたしはチームのみんなに比べたら、全然力不足なんです。何をやっても上手くいかないし、足手まといになっちゃうし、だから必死に回復魔法だけは頑張ろうと思って、それで沢山修行したんです」
 確かに、君の治癒魔法は凄いよ。その、チームのみんなに劣るようなものじゃないさ。
「そうでしょうか。わたしの魔法よりも、優れた道具はいろいろありますし、だから、わたしの魔力が足りないから、まだまだみんなの支えには、なりきれてなくて」
 リビングのソファに腰掛けて、彼女はややうつむき加減に愚痴をこぼした。麦茶をついであげると、いちいち軽く会釈をしてくれる。優しい子だ。
「もっと強くなりたい。もっと強くなって、みんなの力になれて、みんなと一緒の目的に向かって走りたい。まだ、そんな未熟者です、わたしは」
 僕も。僕もそうだ。いつもいつも、役立たずと言われながら前線に投入され、瀕死の状態で帰って来るものの、やはりここは帰ってくるべきところではない。それは家の中の生活感のなさにも表れてるし、家の中に誰もいないことも証拠になる。仲間と言える相手だって、それは戦友というか、同類がいるだけで、チームと呼べるのかどうか。意思を同じにする相手とは、到底言えないのかもしれない。
「……そうですね、仲間がいることは、わたしの、唯一の誇りです」
 いい仲間に出会えたんだね。
「はいっ!」
 満面の笑みを浮かべる彼女を、やはり僕は「可愛い」と思ってしまう。思ってしまうのだ。ダメだ。そんなことを思ってしまったら、もう戻れなくなる。
 僕は、他の奴らとは違うんだ。


 コンコン、と扉をノックする音が聞こえる。
「お客さんですか、こんな真夜中に」
 彼女らにとって真夜中でも、僕らにとっては普通の活動時間なのだ。だから、当然、ノックした相手も僕の、仲間と呼べるかどうかわからない、そういうグループの一人のはずで。
 ――よう――
 地響きのような声が、部屋を揺らすほどの低音で僕の耳に届く。
「え、あ、えっと」
 彼女は困惑した様子で、そのノックした魔人イフリートと僕とを見比べる。きっと、僕とイフリートの関係を考えているんだろう。イフリートは確かに彼女の敵で、その敵が訪ねてきた家に住む僕は。
 ――おい、こいつ、奴らの仲間じゃねえのか――
 ああそうだよ。イフリートに返事する僕を、彼女は瞠目して口元を押さえていた。あまりの驚きに言葉が出ないと言ったような様子で。この展開は、最悪の結末に繋がる。そう僕は確信してしまう。
 ――つまりよぉ、おめえは捕まえてここに捉えておいた、っつうことだよなぁ――
 そう、なるよね。言いたくはない。認めたくもない。僕は怪人で、イフリートの配下にいて、そして人間の敵対勢力でもある。つまり、人間である彼女たちと、戦う相手でもある。
「わたしを、騙したんですね……っ」
 騙したわけではないんだ。ただ、敵陣に単身で突っ込んできて、僕を初っ端から殺そうとして、それなのに治癒魔法を施してくれて、しかも喋ることが出来ないただ人の形をしているだけの僕の心を読んで会話してくれる彼女の、一連の行動が僕にはよく理解出来なかったから、彼女のことが気になってしまっただけなのだ。気になってしまったことを、人間の彼女には到底理解してもらえるはずがないのはわかっている。元々人間だった僕が言うのだから間違いないのだ。可愛いとか、愛でたいとか思う感情が食欲に直結する僕の気持も、きっとわかってはくれない。
 ――御託はいいんだぁ。こいつ一人なら、今までの憂さ晴らしくらいはできらぁ――
 今まで幾度も戦ってきて、その部下や同族を沢山やられてきたイフリートだ。こういった機会を逃すはずもない。彼女の魔法では太刀打ちさえ出来ないだろうから、嬲られ弄ばれ、さんざん痛めつけられた後にやられてしまうに違いない。
 僕はどうだろう。改造され洗脳され、怪人になってしまったものの、まだどこか魔人たちのような人間に対する激しい感情は湧きあがらないのだ。人間から改造される際、感情を失くしてしまったのが原因だろう。彼女のような人間から、もっと話を聞ければ何か得られるのかもしれないと思えたから食欲も抑えられた。でも、今更人間に戻れないのはわかっているし、だから、イフリートに逆らうなんてことは出来るはずもないのだ。
 ごめんよ。喋れない僕は自分の頭を割って、粘液に塗れたバッカルコーンのような触手を出す。これで捕食するのが僕だ。僕という、怪人である。
彼女はその場にへたり込んでしまった。その表情には絶望しか、見られない。
「こんな、ことって……」
 ごめんよ。僕の触手が彼女の身体を締め上げて、空中へ釣り上げる。ばたばたと暴れても、彼女の力では何もできない。
 ――いい眺めだな、魔法少女よ――
 イフリートが鉤爪で、僕の粘液にまみれた彼女の身体を切り裂く。
「きゃあっ」
 悲鳴を上げる彼女の服が切り裂かれ、あちらこちらに素肌が見え、ところどころから血が流れる。如何に艶めかしいかは、僕の必死に抑えている食欲が示していた。
「こんな、ことって――」
 ――お前らに刻まれた古傷が、勇み喜んで疼くわ。このような魔境に仲間など来るはずはない。全ては俺が仕組んだことなのだ――
「仕組んだ、ですって」
 小包の中から麻薬の匂いがしていたのは最初から気付いていたことだったし、そもそもイフリートのような上級の魔人が、一介の怪人に過ぎない僕の家へ訪れたときから気付いていた。だから、これからどういう展開になるのかもわかる。
 ――誰も来ない、誰も助けない。さあ、泣け、喚け、命乞いをしろ、そして堕ちろ――
 その言葉に合わせて、僕は触手で彼女を縛り上げる。彼女が苦痛の表情を浮かべる。それを見て、イフリートが表情には出さないけれど喜ぶ。
 こんなことではダメだ。僕の中に残っている人間の心が囁く。そういう思いがあるけれど、なら僕はどのような行動に出ればいいと言うんだ。人間界で生きられないのなら、魔界でしか生きていかれないのなら、僕はどうすればこんなことしなくてよくなるんだ。
 さらに締め上げると、苦痛の表情が絶望の表情になり、抵抗する力が小さくなってくる。瞳から色が失せていく。腕が垂れる、脚に力が無くなる。ああ、可愛い。なんて可愛いんだろう。食べてしまいたい。苦しめずに、ひと呑みにしてしまいたい。胃の中で丸ごと消化してみたい。ああ、ああ。
 パリン、というガラスの割れる音が聞こえて、僕の触手から感覚が消える。何かと思えば、僕の触手は途中で切れていて、そこから体液が噴出していた。彼女は床に叩きつけられ咳き込んでいて、斬られてしまった僕の触手がトカゲの尻尾のように彼女の周りで暴れていた。
「そこまでよっ」
 彼女とは違う女の子の声が聞こえて、さらに高出力の魔弾が飛んでくる。イフリートは一歩後ろに下がって回避したが、僕にそんな余裕はなかった。家の天井を突き破ってきた光の魔弾に身体を突き抜かれ、僕の身体が腰のあたりで真っ二つになって床へ転がった。
 せっかく、彼女に治してもらったのに。
「マリカを返してもらうわっ」
 赤い服の少女が、魔力の灯った剣をイフリートに向けて立っていた。その背後では、青と黄色の服の少女が、彼女の両肩を持って立たせようとしていた。
「まったく、なにやってんのよ、こんな魔境の辺境の、オンボロ小屋で」
「あんた、ホンマに無茶し過ぎやで」
「もうちょっと、自分のことを考えてもいいのですよ、マリカ」
「みんな……」
 赤、青、黄、三色三人に声を掛けられて、彼女の目に光が、希望が戻っていくのが、僕にも目に見えてわかった。
 これがチームか。彼女の言っていた、誇りであるチームか。
 ――何故ここがわかった。お前らに足止めを食らわせてたはずなのだがな――
「あんな足止め、うちらには空気も同然や」青の少女が言う。
「みなさん、今頃はゆっくりお休みしていただいてます」黄色の少女が言う。
「あとはお前だけだ、イフリート!」
 うおお、という叫び声を上げながら、赤の少女が魔法剣をイフリートへ叩きつける。しかし、それを両腕で受け止めたイフリートはパッと横へ弾いて、赤の少女を壁に叩きつけた。
「がはっ」
家の壁を破壊して、赤の少女は外へ飛ばされた。穴のあいた壁の先に、一発でボロボロになってしまった赤の少女が地面にうずくまっていた。
 ――魔境では我々の力が勝るのだ。今こそ、積年の恨み晴らしてくれようぞ――
 どすん、どすんとイフリートは赤の少女に近付いて行く。
「やめえっ! サクラになにすんのやっ」
「マリカ、ここにいてください」
 青の少女が空間から槍を取り出して、イフリートに向かっていく。その後を黄の少女が双剣を持って追っていく。
 その後ろ姿を見ながら、彼女は唇を噛んでいた。
 戦闘には役に立たない、無力な自分を呪っているのだ。
 でもきっと、彼女には出来ることがあるはずである。その能力があることは、僕にだってわかる。そのくらい強力な力なのに、彼女はそれを自覚出来ていないのだ。
 そんな彼女だから、自覚出来ていればどれだけよかっただろう。比べて僕は、何かされたことはあっても、自分が何かを成した例さえない。いつも無力で、いつも脆弱で、しかし存在しないことは許されない。こうしてやられ役に専念しなければ、何物にもなれないのだ。そういうことを自覚しているけれど、怪人以上の役は務まらないことも自覚している。やられることが僕のすべきことで、僕の存在理由になってしまう。だけど、彼女は違う。
 初めは柔らかな光のように感じた。視界に緑色の光が溢れたと思うと、光源である彼女はあの、浴槽を洗ったときよりも鋭い目つきでイフリートを、戦う自分の仲間たちを見詰めていた。
「あたしの、仲間を――」
 空間から取り出すように、伸ばした手を引きもどすと、彼女の手には大きな弓が握られていた。その弓に矢を番えると、その矢じりは緑色の光に包まれる。
「――返してえええええっ!」
 放たれた矢はイフリートへ向かって一直線に飛んでいく。
 だが、避けられてしまう。
 ――ふはは、当たらぬなら意味はない――
 地響きのような声で嘲け笑いつつ、青と黄色の少女をまるで遊んでいるかのように相手する。魔境で力が解放された状態のイフリートは、やはり彼女らでは太刀打ち出来ないほど強力なのだろうか。
「狙いは、あなたじゃない」
 緑色の服になった彼女のキッと睨む先には、初めに僕が叩きつけられた大木がそびえ立っていた。矢はその、先ほど僕が叩きつけられて弱くなった部分に当たって刹那、緑色の光が周囲へ飛び散り、大木がイフリートの前に倒れる。倒れると共に、大木から地に垂直に太い枝が伸びて生え、万里の城の如く大きな壁となって、少女たちとイフリートを分断した。
「今よっ。カンナ、リリア」
 彼女が、緑の少女が、イフリートから隔絶させた仲間に向かって叫ぶ。
「ほい、きたあっ!」
「任せて、マリカ」
 黄の少女が大きな魔法陣を展開し、青の少女は赤の少女の肩を掴んで運んでいく。
「準備は出来ました。撤退します」
 黄の少女が魔法陣を展開しきった直後、枝で作った大きな壁をイフリートが焼いて身体の半分が見えて彼女らへ乗り出していた。
「行きます」
 魔法陣の上で固まっていた四人に向けて吐かれたイフリートの業火は、寸でのところで虚空を切る羽目になった。
 ――逃げられた、か――
 余興がまた先に延びた、というだけの話だとでもいうふうに、そしてむしろ喜んでいるように呟いたイフリートは、どすん、どすんと僕を見向きもせずに去って行った。
 残されたのは二つに裂かれた僕と、大破した家と、倒れた大木だが、このような状況は雑魚キャラにとっては当然の待遇で、今までにどれだけ経験してきたかわからないくらいのものである。
 大きく僕はため息をつく。離れて転がっている下半身がすでに細胞分裂を始め、上半身を形成し始めている。上半身である僕の方はすでに足が完成しかかるほどの再生を果たしていたため、やっとの思いで立ち上がった。
 また、家を作り直さないとな。戦闘から帰って来て、眠れる場所がなければ、やはり辛いものがある。せめて、休める場所があればいいんだ。家の周りは鬱蒼と茂る樹海で、死者の森とかと呼ばれているくらいだから、木材はいくらでも手に入るのだ。
 しかし、一体今のはなんだったのだろうか。イレギュラーとも呼べるような今回の事態は、いつものようなこちら一辺倒のやられ方ではなく、むしろイフリートから仕掛けたような事件だった。とはいえ、今回については、おそらくこの先ずっと何も知らされることはないだろう。それが悪の組織というもので、情報伝達や指示伝令は上層部でのみ限定的に行われるのだ。僕らは所詮、ただの駒である。下半身で再生を終えたもう一人の僕が立ちあがって、僕に「やあ」と挨拶する。僕も「やあ」と返す。喋らないけど、伝えられる。こうして駒がまた増えてしまった。こうして僕の存在価値はまた下がった。
 そういえば、彼女は箒を置いて行ったままだった。家の奥には、魔法陣の上に置かれ、魔力の供給を受けている箒が一本。これ、どうしよう。僕は別に空を飛べなくたっていいし、この箒で掃除するのかと聞かれると、今までしなかったのだから、しないようにも思われる。
 まあ、それなら二人で分担すればいいんじゃないの。
 分裂した片割れがそう言う。なるほど、と僕は納得する。僕には彼女のような仲間は出来ないけれど、僕には僕自身がいるじゃないか。
 そう考えると、なんだか分身した僕が可愛らしく思えてきた。自己愛だろうか。
 僕は躊躇いなくその僕を食う。存在価値が元に戻った。

スポンサーサイト

第二十四回さらし文学賞 | trackback(0) | comment(0) |


| TOP |

comment











管理人のみ閲覧OK


trackback

trackback_url
http://pilloryofprize.blog57.fc2.com/tb.php/226-b2a5b1ff

| TOP |

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。