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さらし文学賞
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マギアンシャフト 〝ブレイク〟


一章 ~ようこそ魔法の世界へ おいでませマギアカデミア~

「わわわわ」
 小学校への登校中。突如白く輝く私の体。
 あわわ、みんなそんなに見ないでよ……ああ、もうなんなのこれすごく恥ずかしい。
「おい、あれってもしかして」
「ばか、声が大きいって」
 ヒソヒソ話してるけど、ばっちり聞こえてるし。わわ、人がどんどん集まってきた。光収まらないし、もうなんなのこれ……。
「ああ、もうみんな見ないで! どっか行ってぇえええ!」
 恥ずかしさで頭がいっぱいになって、気がついたら言っていました。いっそう光は激しくなり何にも見えなくなりました。そして光が収まった時、私の目の前には二人の女の人がいました。
「すごい逸材、発見♪」
「へ……?」
 だれこのひとたち?
 戸惑う私を余所に、お二人は何やらよくわからないことを話し始めました。聞き取れたのは、魔法がどうとか、マナだとか、実験だとか。
「何がなんだかわからないって感じね」
 女性が苦笑しながら言いました。
 あたりまえです。こくりとうなずきました。
「まぁ簡単に言うとね、あなたはこれから私たち魔法使いの仲間入りってことよ♪」
「はあ……え?」
 理解不能、と諦めて停止していた私の思考が動き出しました。
「って、魔法使い!?」

「そんな夢を今朝見たんです。起きた時は思わず笑っちゃって」
 ふふ、と上品に笑う望月さん。マナが発現した時点で入学するから、一一歳でマナを発現した望月さんは最上級生(四年生)だけど、私との年齢差は二歳。なのに、私より頭一つ分くらい高い背と、落ち着いた物腰のせいか、この生徒会長さんはすごく大人びて見えるなぁ。
「おもしろい夢ですけど、もしかしてその夢って……」
「そう、私の過去……魔法使いになった日のことです。そんな夢を見た日にあなたのマナが発現したから、なんだか運命みたいなものを感じました」
 
 今でも鮮明に思い出せる、三〇分前の出来事。
 中学校の入学式を終えて、帰宅途中の私の体が、いきなり光り出した。薄い桃色の光だった。興奮と嬉しさのあまりあたふたしていた私の目の前に、突然この人は現れた。
「マギアカデミア日本校の生徒会長、望月星羅です。マナを発現したあなたは、ただ今をもって我が校への入学が義務付けられました」
 手を差し出しながら、望月さんは言った。
「……」
 まだだ。今話し中。こらえろ、私。
「一緒に、立派な魔法使いを目指しましょう」
 その言葉で私の我慢はあっけなく終わりを迎えた。
「やったああああああああああああ!」

 そして、望月さんに連れられてこの生徒会室までやってきた。あの後お母さんと一緒にマギアカデミア日本校に来たのに、手続きがどうとかでお母さんどっか行っちゃうし。取り残された私は今ここで、望月さんと一緒に時間を潰している、と。
 一通り自分の状況を整理してみたけど、夢みたい。
「それで、カノンちゃん。どうですか? マギアカデミアへの入学が決まったいまのお気持ちは」 
「えっと……さっきはしゃいじゃいましたけど、今は実感沸かないです。でもそれは、きっと、ずっとずっと魔法使いに憧れてたからなんです。その夢が叶ったのが、嬉しくてしょうがないです」
 なんだかめちゃくちゃだけど、言葉にして、やっと実感が沸いてきた。それと共に、また小走りでもしてはしゃぎたくなってきた。
「そう……カノンちゃんは、どんな魔法使いになりたいですか?」
 現界の日以来、世界的に魔法使い人口は急増した。当時幼かった私は、それ以来ずぅっと魔法使いになることを夢見ていた。そして二年前……今目の前にいる望月さんが考案したマギアンシャフトが開催された。テレビ中継で観戦した私が思ったことは、ただ一つ―――。
「私、マギアンシャフトの選手になりたいです!」
 その時望月さんが浮かべた笑みに、既視感を覚えた。

「それにしても、カノンにマナが宿るなんてなぁ」
「見ててよね。立派な魔法使いになってみせるんだから」
 当然と言えば当然。夕飯中の話のネタなんてそれで持ちっきり。
 仕事から帰ってきたお父さん、話聞いたらすぐ食いついてきちゃったもん……こりゃしばらく抜けられないかぁ。
「そういやカノン、中学校はどうするんだ?」
「通えるよ。マギアカデミアは夕方から授業が始まるからね」
 マナの特性上、魔法使いになるのは小中学校生がほとんど。マギアカデミアはそこを配慮して、普通の学校の授業が終わってから通えるようにしている。中学校の授業を終えてから、マギアカデミアの授業。大変そうだけど、がんばらなくちゃ。
「でも魔法使いになったことは……クラスの皆には、内緒だね♪」


二章 ~魔法使いの、楽しい一日~

「はい、これで帰りのホームルームを終わります」
 二つの学校に通う生活が始まって、今日で二週間かぁ。最初の数日間……中学校の放課後のこの時間はくたくただったのになぁ。慣れってすばらしい。
「花咲さん、今日の塾は早いほうだっけ?」
「うん、そうだよ。また明日ね」
 表と裏、二つの顔がある方が魔法使いっぽくていい。最初の頃は、塾行ってるって嘘つくのは心苦しかったりしたんだけど……慣れってすばらしい。

「ただいまー」
「おかえりー。部屋に制服出しといたわよー」
「ありがと!」
 制服から制服への変な着替えを終えて、再び玄関へ。玄関の壁に設置された全身鏡で、身だしなみをチェック。うん、大丈夫。右手に魔法の源であるマナを集める。薄い桃色に輝く右手で、鏡に触れた。
「とうちゃーく」
 視界が一瞬光でいっぱいになり、その後目を開ければそこには、マギアカデミア日本校の校門前。転移魔法のポータルとなってるあの鏡から一気にここにこれるから、遅刻の心配もほとんどない。魔法文明万歳。
「Hi , Canon ! How are you ?」
 あれ、英語……?
 とりあえず振り返ると、金髪の白人少女。文字通り少女。
「リリィ? 私の言葉、わかる?」
 頭に?マークが浮かぶリリィ。
 そういえば二週間くらいが限度なんだっけ。めんどくさいなぁ。
 右手を挙げてハイタッチの体勢。リリィが手を合わせてくる。薄い桃色の光とライトブルーの光が小さく交差する。入学式当日、初めて習った初級魔法、コネクト。
「リリィ、私の言葉、わかる?」
「うん! 二週間くらい毎にこれやらなくちゃだ!」
 マナを交換することで一定時間、お互いに伝えたいことが伝わる。日本校にも多少いる外国人との会話のために習った魔法。
 
「よし、今日も一番乗り!」
「ふっふっふ、カノン、君の目は節穴かね……?」
 後ろから話しかけられる。リリィじゃない、佳奈だ。
「なっ、……あっ!」
 よく見たら佳奈の机に荷物が乗ってるし! 私の連続一番乗り記録の更新がストップした!
「やっほー、佳奈」
「ありゃ、魔法が解けてる」
 ライトブルーとエメラルドグリーンの光の交差。
 佳奈はいつも通り、茶髪のポニーテール。制服もうまく着崩していて、だらしないというよりカッコいい。
「リリィ、クラス中のみんなとやんないとね」
「三〇人かー、めんどくさいなぁ」
 うちのクラスだけなら三〇人。クラス合同の授業とかもあるし……大変だけど、それで言葉が通じる。初級とはいえ、やっぱり魔法なんだ。私たちは……魔法使いなんだ。

「では、先週のおさらいからいきますね」
 今日は四コマの授業。一コマは六〇分。長いと思ったけど、授業おもしろいし、あんまりそんな感じしない。んで、最初は魔法学の授業。おもしろさでいけば最大☆五つとすると三つかなぁ。
「魔法には二種類あります。魔法使いなら練習すれば誰でも扱える普遍魔法と、一人の魔法使いその人しか扱えない固有魔法。そして、固有魔法は基本的に、誰でも一種類発現します」  
 私には、どんな固有魔法が発現するだろう?
 いつ発現するのかは人それぞれ。一年生最初の数週間で発現する人もいれば、四年生になるまで発現しない人もいる。稀に発現しないで卒業しちゃう人もいるらしい。それは嫌だなぁ。
「さて、では今日の本題であるマナの話にいきましょう。みなさんご存知の通り、マナは魔法使いの生命力であり、魔法の源。テレビゲームなどで言うところの、HPとMPを合わせたようなものです。そしてマナは、十五歳以下の人間に、何らかの要因で発現するのです。これについては――」
 ということは、六歳とかでマナが発現したら、その時点でマギアカデミアに来るのかな。同級生に六歳児……めっちゃなごむ。

「ふぃー、中休みだぁ~」
 二限、初級魔法の授業が終わって、四〇分間の中休み。
「佳奈おつかれ~。お弁当食べよー」
「そだね。あれ、リリィは?」
 家から持ってきたお弁当を広げながら、周りを見渡す。リリィ発見。クラス中歩き回ってコネクトしてる。
「大変だねえ」
「日本語話せてよかった。時間かかりそうだし先に食べてようよ」
 マナがある限り生きていける魔法使いにとって、食事は必要不可欠ではないって先生が言ってた。でも……。
「おいしー」
 味はわかるし、食事をする喜び(?) みたいなものもわかる。何より、食事はマナの回復にも繋がるらしい。そんなだから、食事をしない魔法使いはあんまりいない、と。うん、復習終わり。
「ねぇカノン、次の初級魔法の授業ってたぶん演習だよね?」
「たぶんね。体育館集合って言われてるし」
 たった二週間だけでパターン化できるかわかんないけど、体育館集合の時は演習だ。直前の授業で扱った魔法の。すなわち――
「よしっ! なら今日はショットとフライトのはず!」
 ショット……マナで球体を生成して対象に放つ攻撃魔法。
 フライト……名の通り空を飛ぶ魔法。
 と、さっきの授業で説明されている。でももちろんそれだけで使えるようにはならないから、演習は必要。パターン化したこともあるけど、次の授業が演習なのは筋が通っているからほぼ間違いない。
 それよりも――
「佳奈、なんでそんなに嬉しそうなの?」
「言ってなかったっけ? あたしね、レースの選手になるのが目標なのだよ!」
「え、そうなの? なるほどね、ショットもフライトも、レースの基礎の基だもんね」
 魔法競技大会、マギアンシャフト。私もその選手になるのが目標だけど、佳奈みたいに出たい種目が決まっているわけじゃない。自分が何に向いているかわからないし。
「そそ。カノンはマギアンシャフトでやりたい種目、ある?」
「うーん……私は――」
「たっだいま~、何の話?」
 所要時間は二〇分くらいかな。中休み半分終わっちゃってる。
「マギアンシャフト、でたい種目はあるかって話」
「おー、リリィはバトル一択!」
「リリィも決まってるんだ……うらやましいなぁ」
「おやおや? カノンは特にないんだ?」
「え、うん……マギアンシャフトに出たい、とは思うんだけど」
「変なのー。きっかけはなんだったの?」
「え……あー、あれ? なんだっけ?」
「いや、あたしに聞かれても」
 たしか、テレビ中継で見たときに……いや、違う。もっと別の、もっと強い理由があった……ような。
 〝――く――く――です〟
「えっと……く……く……?」
「はちじゅういち」
「いや、そうじゃなくてえーっと」
「まーまー、決まってないならバトルやろうよ!」
「あはは、う~ん、考えとくね」
「てか、このおちびちゃんはまじでバトルなんですかね?」
「しんちょーは関係ないだろ~!」
「あははは」
 ……ほんと、なんでだっけ。すごく大切なことだった気が……。

「はい、今日の授業はここまでです。金曜日に確認するので、自信のない人は休み時間などに復習しておいてくださいね」
 ふぅ、これで今日の授業は終わり、と。ショットはそこそこうまくいったけど、フライトは浮くのでやっとだなぁ。飛び回るなんてまだまだ。少し練習が必要、かな。
 授業内容を振り返っていると、近づいてくる二人の足音。
「カノンおつかれ~」
「佳奈もねー」
 そういえば佳奈は張り切ってたっけ。どうだったんだろう。
「うまくできた?」
「うんうん、あたしのイメージ力なめたらいかんのですよ。普段からレースで活躍するあたしの姿を妄想しまくりですから!」
「な、なるほど」
 魔法は自分のイメージが明確なほどうまくできる。魔法の動力源であるマナが働きやすくなるんだとか。
「ふたりともおつかれー」
「リリィもおつかれ。どうだった?」
「ショットはいいんだけど、フライトがだめだめ~」
「私もフライトがダメだった……リリィ、今度いっしょに練習しよっかぁ~」
「うん、金曜日までに、なんとかしないと!」
「まぁ、せいぜい精進してこの佳奈様に追いついてみせるんだな、はっはっは~」
 リリィと目が合った。言葉に出さずとも伝わる。これぞまさにアイコンタクト。
 〝金曜日までに、なんとしても佳奈を出し抜いてやる〟
「「うん、がんばるよ」」
 
「ただいま~」
 二つの学校を終えて、帰宅すると午後九時。十三歳の女の子の帰宅時間としては、遅すぎるね。
「おかえりー」
 お父さんより遅く帰宅する中学生の娘なんて、普通の家庭じゃ説教くらって当然。そう思えば、この遅い帰宅に対してさえも、ちょっとした特別感を味わえる。けど、その特別感のせいで、普通の宿題とか、これからやらなくちゃいけないし、けっこうきつい。それでも――
「カノン、今日も学校、楽しかったか?」
「うん! どっちの学校も、楽しかった!」
 ――どっちもおろそかになんてできない。それに何より、充実しすぎなくらいの学校生活は、とっても楽しい!


「それで、水野先生。花咲カノンさんはどんな感じですか?」
 カノンたちの入学から一か月ほど経ったある日、望月星羅は、カノンのクラスの担任教師と生徒会室で話していた。水野が生徒会室に資料を取りに来たところを引き留めたのだ。
「あー、彼女か。良い生徒だよ。欠席、遅刻もしないし、何にでも積極的に、一生懸命取り組む。たまに空回りしたりもするみたいだけどね。彼女のような生徒は、伸びるのが早いし、将来化けることも考えられるだろうね。それに――」
 思いのほか長く語り始めた水野に対し、星羅は終始笑顔でいた。担任とはいえ、これほど教師が語れる生徒というだけで、いかに立派な生徒かわかるというものだった。
「ただ、今回の二者面談で、少し悩みがあると言っていたな」
「悩み、ですか?」
「なんでも、マギアンシャフトに出たいのだが、出たい種目がわからない、だとか。おかしな話だと本人も笑っていたがね。それでも、マギアンシャフトに出るってことに執着していたな。まるで義務……または果たさなければいけない約束のようだった」
「! そう、ですか」
「ところで、どうして君が彼女のことを気にするのだね?」
「いえ、彼女のマナが発現した日、私が迎えに行きまして、そこで初めて彼女を見た時に、なんとなく、この子には何かがあるって思ったんです。それ以来、少し気になってしまって」
 内心の動揺を悟られないように、星羅は嘘をついた。普段滅多に嘘をつかない星羅だが、仕方なかった。


三章 ~追憶~

「はぁ」
 思わずため息がこぼれたなぁ。
 今の生活はすごく楽しいけど……私にはマギアンシャフトに出るって目標がある。何で出場したいのか、それはわからないけど。
 ……前に佳奈も言ってたけど、明らかにおかしいぞ、私の心理。
「ふぅ」
 そういえば、マナが発現したのもこんな時だったな。中学校からの家への帰り道。夕暮れの感じもほとんど変わらない。まぁ、今日は日曜日。中学校からじゃなくて、ただのおつかいの帰り道だけど。
「おいあんたあぶねえぞ!」
 あの時は、なんだっけ。望月さんが来て、それで――
 〝危ない!〟
「!」

 あれ……ここどこだ……?
 たしか私は……車に轢かれそうになって……そしたら目の前が真っ白になって……。
「考え事ですか?」
「え?」
 気づかなかった。私以外の人がいたなんて。
「危ないですよ。いくら魔法使いとはいえ、車に轢かれでもしたら回復にかなりのマナを要しますし、何より痛いですよ?」
「え、あの、私……あれ、ここどこですか?」
 言いながら顔を上げて、ようやく気付いた。ここが昔よく遊んだ公園だということ。そして、目の前にいる人が誰なのか。聞き覚えのある声だと思ったら……。
「それに、望月さんはどうしてここに……?」
「私とあなたが、二人で転移したからですよ。散歩していたら、あなたが轢かれそうになっていたから、焦りましたよ……」
 え、えーと。そうすると、私は……。
「す、すみません! 助けてくれて、ありがとうございます!」
「いいえ、人助けは魔法使いの本懐ですから」
「さ、さすが生徒会長……」
 私とこの人、二つしか歳の差がないって信じられない……。
「あれ……?」
 なんだろうこの違和感。望月さんの姿が歪んで見える。

「約束ですよ、カノンちゃん。私が、約束を果したら――」
「うん、星羅ちゃん! そしたら私、必ず――」

「……星羅ちゃん?」
「! まさか、カノンちゃん……思い出したんですか?」
 そうだ……私がマギアンシャフトを目指したのは、あの日交わした、星羅ちゃんとの約束だったからだ。
「でも、その姿……」
 私の記憶にある星羅ちゃんに比べると、育ちすぎてる気が……。
「……あれから四年経っていますから。それに魔法で一手間――」
「よ、四年!? そんなに……」
 そんな昔だったのか。私は……
 あれ? 
 昔、ここで星羅ちゃんと会って、ここでマギアンシャフトにでることを約束して――
「す、すみません。私、昔ここで星羅……さんと会って、マギアンシャフトに出るって約束しました。でも、それしか思い出せなくて」
「それを覚えているだけでも異常なのですが――」
「え?」
「いえ、なんでもありません。でも、あの約束を大事に思っていてくれてとても嬉しいです。さてカノンちゃん、私はひとまず約束を果たしました。あなたが提案したマギアンシャフトを形にすること。今度は、カノンちゃんの番ですよ」
 我ながらとんでもない約束をしたんだ。全世界レベルでそれを実現させた星羅さんっていったい……。あぁもう、なんで思い出せないのかなぁ。もっともっといろんなことを話したはず。
「はい、そのつもりです。でも私、何に出たら良いか、自分でもわからなくて」
「(水野先生から伺った通りね) じゃあ、約束を覚えていてくれたカノンちゃんに、一つ道しるべをあげます」
「星羅……さん?」
「二人の時は星羅ちゃんでいいですよ。生徒会長って立場になってから、そうやって気軽に呼んでくれる人が少なくなりましたから。そっちのほうが助かります」
「じゃあ星羅ちゃん! 私、どの競技に出ればいいのかな!?」
 しまった、呼び方だけじゃなくて口調まで……。あれ、でも星羅さん、別に気にしてないの、かな?
「ふふ、あなたが出るべきは、あなたが考案した種目ですよ」
「私が、考案した種目? そんなのあるわけ――」
 いや、ないわけない。覚えていないけど、星羅さんが言うには私がマギアンシャフトを考案したんだ。なら、自分で提案した種目があるのは自然なこと。思い出せ……私は、何を……?

「バトル、レース、シュート……ここまでは決まりですね」
「う~ん、なんか物足りないなぁ」
「確かに、少なくともあと二つは欲しいところです。そうですね……これらはどれも相手と競う競技です。記録をつけて競う……いわば、自分と競う競技があってもいいと思います」
「自分と競う……あ! お父さんが空手家でね、前に瓦割を見せてもらったことがあるんだけど、すごく迫力あった! あんな感じのを魔法でできないかな?」
「それは妙案です。となると、魔法で――」

 思い出した。そんなことも言ってたね、私。とすると、現在マギアンシャフトにある種目で、私が提案した種目というのは――
「星羅ちゃん、ありがとう!」
「思い出したようですね。なるほど」
「何がなるほどなの?」
「いえ、なんでも。ではそろそろ戻りましょうか。選抜大会、楽しみにしています」
「うん!」


四章 ~それぞれのマギアンシャフト~

「夏休みかぁ。カノンちゃんは塾の夏期講習あったりするの?」
「う、うん。香織は何か予定あるの?」
「家族と旅行に行くくらいかな。ごめんね、カノンちゃんは勉強頑張るのに私は遊ぶ予定しかなくって」
 本当に申し訳なさそうに言われるとけっこう困るなぁ。
「なーに言ってんの。私だって好きで行ってるんだもん、別に気にすることないよ~」
 あ、さすがに苦しい言い訳。好きで塾行く中一なんているわけないじゃん!
「そっかぁ、さすがカノンちゃん。私の自慢の友達だよ~」
 し、信じた……。何も疑うことなく信じた……さすが香織。
「あはは、私も、香織が友達で良かったよ~」
 魔法使いだってことを隠すのが楽だし、ね。

「佳奈の中学校も明日から夏休み?」
 夏期講習どころか、マギアカデミアは中学校とはスケジュールが違うから、長期休暇まではあと一か月少しある。
「うん、明日からは魔法に専念できるね。選抜大会も一か月後に迫ってきたわけだし、頑張るぞぉ!」
 今年の冬、二回目が開催されるマギアンシャフト。学生の部に出場する選手を選抜するための大会が開催されるまで、あと一か月。
「カノンは選抜大会出るんだよね? 何に出るか決まったの?」
「うん。そんなわけで練習、練習!」
「そーなのかー。 何に出るのかリリィは聞いてないぞ~?」
「あたしも聞いてないぞ~?」
 そういえば誰にも言ってなかったっけ。隠してたわけではないんだけど……言うタイミングも特になかったし。
「ブレイク」
「へ?」
「ブレイクだよ、ブレイク」
「ほー?」
「なに、その反応?」
「別に~。ただ、あたしらうまい具合にばらけたと思ってね」
「言われてみれば」
 同じ種目になれば選抜大会では敵になる。いや、ライバルか。そんなことに気をつかうような面子じゃないけど……まぁ、ちょっと気は楽かな。
「じゃあ皆で代表目指してがんばりますかっ」
「あたしは余裕だけどね。がんばりたまえよ~」
「リリィもがんばるよ~!」
 個人種目は各学校上位二人がマギアンシャフトに参加できる。一年生が代表になるなんてほとんどないだろうけど……やるからには、優勝以外狙わない。星羅ちゃんも見ててくれる。
「みんなで日本校代表、とっちゃおう!」
「「「お~!」」」 

「広い……」
 マギアカデミア日本校が誇る自習室。実質演習室だけど。マギアンシャフトの練習に最適な演習室。連日予約で埋まっているだけのことはある。完全予約制で選抜大会一週間前にこことれたのはホントにラッキー。ラッキーなんだけど……
「うわぁお広いなんだこれ!」
「これリリィ達の貸切……わ~い!」
 なーに遊びまわってるんですかね~彼女たちはまったくもう。
「こら二人とも! 一時間しか借りられないんだからさっさとやるよぉ!」
「「あーい」」
 前途多難だなぁ。まぁでも、せっかくの機会だしあっちに構ってばかりいられない。私は私の練習をする。あの二人も私が始めれば勝手に始めるだろうし。
「えっと、ここか」
 演習室の奥の方、ブレイク練習用、と書かれている操作パネル発見。パネルで厚さを調節して防護壁を作り出す仕組み、か。試しに五センチから出してみるか。
「おぉっ」
 目の前に真っ黒な防護壁が展開。厚さも合ってるし、魔道具ってすごいなぁ。
 ……感心してる場合じゃない。早速やりますか。
「ふぅ」
 実際に防護壁に攻撃するのは今回が初めてか。私なりに考えた、最も威力のある魔法攻撃。いくつか候補はあるけど、この一時間で、どれが最強か見極める……!
「はぁっ」
 まずはシンプルなところから。ショットを作る。特大の。出来た。普通の十倍くらいの大きさの球ができた。思い切って防護壁に叩きつける!
「よし!」
 五センチの壁はあっけなく破壊。一五センチ、いってみよう。
 パネル操作により防護壁出現。同じ要領でやってみよう。
「たぁっ!」
 バシュン!
 小気味良い音なんだけど、傷一つついてないね。こりゃだめだ。
 マナをもっと込めて、もっと大きなショットを作れば砕けないことはない。けど、燃費悪すぎ。あの大きさで一五センチも砕けないならダメだ。
 んじゃ次は……。

「はぁ、はぁ……」
 目の前にそびえたつ分厚い壁。
 いろいろ試したけど、五〇センチの壁は砕けないか。ヒビをいれるので精一杯。一昨年開催された第一回マギアンシャフト。ちょっと前調べた結果、ブレイクの日本代表は八〇センチくらいまでいってた。そして優勝したアメリカ代表は一一〇センチ。
 選抜大会まであと一週間、か。
 一週間で三〇センチ以上伸ばすには、どうすればいい?
 私が扱える魔法は、授業で習った初級魔法のいくつか。中級・上級魔法の使える上級生とはその点で大きな差がある。競技名にもなっている壁破砕の初級魔法、ブレイクが使えないのもかなりきつい。頼みの綱は固有魔法だけど、まだ発現していない。
 一年生のこの時期、ブレイクでの出場はよく言えば絶望的。悪く言えば、論外。でも――

 〝今度はカノンちゃんの番ですよ〟

 ――諦めない。星羅ちゃんが見てくれる。佳奈も、リリィも応援してくれると思う。何より、一度目指した目標は、達成するまで捨てはしない。
 まず、最大の四五センチまで砕けた方法は――
「おっ、カノンは休憩か~?」
 考えようとしたところ、リリィによる妨害。
「そうだけど、リリィも?」
「うん! これ何センチ? ヒビ入ってるじゃん」
「五〇センチ。ヒビは入ってても、砕けなきゃ意味ないよ」
「まぁね~。んじゃ二回目でもヒビか~、大変なんだねー」
「二回目?」
「ん? ブレイクって、二回の攻撃で何センチの壁を砕けるかを競うんでしょ?」
「え……ああぁぁぁぁぁ!」
「え、なに、忘れてたの? 馬鹿なの?」
 ひ、否定できない……? リリィに馬鹿って言われて、否定できない! どれだけ馬鹿なの私? いや、別にリリィは馬鹿ってわけじゃないけど……! ってそうじゃなくて、ルールを見落としてるってどんだけだよぉぉ!
「あー、もう!」
 やけくそ気味に撃ったショットで、あっけなく五〇センチの壁は崩れ去った。

「おつかれー」
 利用時間が終わって、演習室から出た。時間はちょうどお昼時。夏休みで中学校に行かなくてもいい上に、マギアカデミアの授業はいつも通りだから、こんな時間がフリータイム。
「学食でお昼食べよっか。お腹も空いたし」
「賛成~」
 マナを消費するとお腹が空く。回復すればお腹も満たされるから、睡眠とかでも食欲を満たせるという不思議。
「それにしても、佳奈には驚いたよ」
「ん? 何が?」
「一時間のうちに三回くらいはちょっかい出してくるの覚悟してたんだけどね~」
「心外な~。あたし、これでもレースに対しては真剣なんだぞ~」
「うん、今日見ててそれがよくわかった」
 はしゃいだのは最初だけで、練習を始めてからはほとんど休憩もとらずに練習に明け暮れていた。表情も引き締まっていて普段の佳奈からは想像もできない真面目っぷり。意外な一面が見れて今日は豊作だね。
 会話しているうちに学食に到着。二〇〇人は入れるはずなんだけど、大繁盛中につき、空いてる席が見当たらない。みんな練習熱心だねぇ。
「佳奈とリリィは先に注文しといて。私が席確保しとくから」
「あ~い」
「カノンありがと~」
 うちの学食は頼めば即座に料理がでてくるから、あまり時間ない……こともないか。注文のほうもすごい列だし。まぁでも、さっさと席見つけないとね。
「……」
 ない。どこにもない。一人か二人分なら空いてるところもあるんだけど、三人分はないな……。
「あら、カノンちゃん?」
 肩を落としながらキョロキョロしていると、後ろから、聞き覚えのある大人びた声がした。振り返るまでもなくわかる。
「あ、星羅さん。こんにちは」
 持っているお盆には、ご飯とみそ汁、冷しゃぶに野菜サラダ。私たちと同じくこれから昼食の様子。
「席が見つからなくて困っているのですか?」
「そうなんです。三人で来たのですが、どこも空いてなくて」
「では、私と一緒に生徒会室でどうですか?」
「え、いいんですか?」
「もちろん。注文を受け取ったら、お友達を連れて学食の入口に来てください」
「はい!」
 注文して料理を受け取り、佳奈たちと合流。入口で待つ星羅さんのところに着いた。
「お待たせしました」
「こ、こんにちは、会長」
「こんにちはー、かいちょーさん!」
 意外なこと(本日二回目)に、佳奈がちょっと緊張している。いつもの軽いノリが、なりを潜めている。
「ええ、こんにちは。それじゃ、転移するから、じっとしててね」
 直後、地面から発光。見てみれば、四人全員が一つの魔法陣の上に乗っている。そして、輝きが一段と強くなり、目の前が光でいっぱいになった――と思ったら、そこは既に生徒会室の中。
「他の役員は今いないから、そこのテーブルで食べましょう」
 星羅さんが指さした方向には、大きなテーブルに六人分の席。いつも会議で使っているんだろうな。
 しかしまぁ、広いなぁ。入るのは二回目だけど、この広さには圧倒される。なにせ中学校の教室くらいの大きさがあるし。壁沿いにずらっと並べられた本棚には、何のものかわからない資料がぎっしり置かれている。私たちがついたテーブルは、合計三台もある。大きなスクリーンもあるし、生徒会が普段どんな活動をしているのか興味が尽きなかった。
 でも、なにはともあれ。
「「「「いただきます」」」」
 まずは昼食っと。
 せっかく四人で食べるわけだし、なんかおしゃべりでもしたいところなんだけど、星羅さんが入ると、いったい何を話せばいいのやら。
「そういえば二人とも、まだお名前も聞いていませんね」
 迷っていると、星羅さんが切り出していた。
「あ、は、はい! あたし、早見佳奈って言います。一年生で、レースで選抜大会に出場したいと思っています!」
「レースですか。選抜大会、楽しみにしていますね」
「はい! ありがとうございます!」
 何やら妙にかしこまった様子。こんな佳奈はレアだなぁ。
「あなたは?」
「リリィ・フローレスです! 選抜大会には、バトルで出場します!」
「ふふ、バトルですか。がんばってくださいね。楽しみに、していますから」
「はい!」
 星羅さん、佳奈の時とはちょっと違う感じ。同じ「楽しみにしている」でも、秘められた意味が違うような。なんなんだろう?
「あ、あの、会長、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「もちろん。あと、役員じゃないんですから、気軽に名前で呼んでもらって結構ですよ?」
「あ、はい……えっと、望月先輩。先輩はどうして、マギアンシャフトを開催してくれたんですか?」
「どうしてそんなことを聞くのか、教えてくれますか? ただの興味本位では、なさそうですし」
「興味本位ですよ。ただ……あたしのお母さんは、マギアンシャフトのおかげで救われたんです」
「!」
 驚いた。佳奈からこんな話を聞くのは初めてだ。佳奈のこんな顔を見るのも、初めてだ。
「うち、昔から貧乏で。しかも、四年前にお父さんが病気で死んじゃって……」
 重い! ランチタイムに気軽な感じでする話じゃない! けど無理やり流すのも難しい。星羅さんがうまくやりすごしてくれると信じるしかない。
「それで、ついにお金が無くなって、借金にまで手を出し始めたんだけど……返すあてもないのに、取り立てはどんどん厳しくなっていきました。そんな時に、お母さんが魔法使いだってことを知ったんです。それまで知らなかったんです」
 そのタイミングで正体を明かした……? まさか。
「お母さんは魔法を使ってお金を得るつもりでした。もちろん犯罪です。でもそれで、少なくともあたしは助かるって。何度も説得したけど、その翌日、お母さんは行動に移そうとしました」
 魔法犯罪。それは今の時代では自殺行為にも等しい。マギアカデミアに入学した時点で自身のマナがリストに登録される。そこから逆探知され、GPSのように位置が特定されてしまう。つまり、容疑者が絞り込まれることがそのまま逮捕に繋がる。魔法警察から逃げ延びるのは、まず不可能。
「でもその時に、第一回マギアンシャフトに向けて活動していた、実業団が来たんです。お母さんの学生時代の友人がリーダーだったそうで」
「なるほど、それがレースのスター選手、早見理沙さんのスタート、というわけですか」
「うそ! 佳奈って早見選手の娘だったの!?」
 佳奈はうなずく。
 早見理沙選手。前大会で三位にランクインした日本レース界のエース。日本で唯一のメダル獲得者。マギアカデミアの生徒なら、知らない人はいないだろうね。
 そんなすごい人の娘さん? 佳奈が? し、信じられない……けど、佳奈がレースに真剣に取り組んでいる理由は、やっとわかった気がする。
「おかげで借金も解消できました。先輩がマギアンシャフトを開催してくれたから、お母さんは道を踏み外さずに済んだんです」
 佳奈の星羅さんを見る目には、感謝だけじゃなくて憧れの色もでているように見える。いや、実際憧れているかぁ。とするとさっきの慌て様にも合点がいくし。
「長くなりましたけど、こういう背景があるだけで、あとは単に興味本位ですよ」
「お話を聞けて良かったです。私がマギアンシャフトを開催した理由の一つは、まさにそのことなんです」
「え?」
「マギアカデミアを卒業した人たちがどのような進路を歩むか、あなたたちはご存知ですか?」
 えっと、確か……。
「魔法警察への就職か、マギアカデミアの講師、マギアンシャフトの選手……くらいですかね、魔法を活かしたものは」
「そうです。でも以前までは、警察と講師だけ。他に魔法を活かす職業がないんですよ。魔法を習っておきながら。それってもったいないことですし、危険なことなんです」
「あ……」
 そうか、理沙選手がそうなりかけたように、持て余した魔法は、悪事に利用される確率が高まる。本人に悪意はなく、あくまで仕方ない状況だとしても、悪事を働けば即、逮捕。
「だから私は増やしたかったのです。魔法使いの進路を。これが最たる理由の一つです」
「……」
 唖然とする佳奈……と私。私との約束以外にもそんなすごい理由があったなんて知らなかった。
「すごい、です……そんなことまで考えて、だったなんて」
 とは言ったけど、すごいなんてレベルじゃない。当時星羅さんは一一歳。その歳で、こんな……。
「すごくなんか、ないですよ。私は、そういう任務で……あ、いえ、なんでもありません」
 言いよどんだ部分は、よく聞こえなかった。ので、星羅さんは、めちゃくちゃすごい。結論。オーケイ。
「さてと、話しているうちに食べ終わってしまいましたね。食器を下げに戻りましょうか。カノンちゃん、佳奈さん、リリィさんを起こしてあげてください」
「え?」
 やけに静かだと思ったら、寝てたのね。


終章 ~壁~

「ではこれより、第二回マギアンシャフト出場選手選抜大会を開始します。最初の競技はブレイクです。選手のみなさんは集合場所に移動してください」
 練習に明け暮れる日々を過ごすこと一週間。あっという間にこの日になってしまった。
「トップバッターはカノンか。幸先よく決めてきなよ~」
「リリィたち、観客席で応援してるからね!」
「うん! 花咲カノン、がんばります!」
 二人と別れて集合場所へ向かう。ちょっと緊張してきた。こういう時は、練習のことを思い出して自信を……つけられるほどの成果はでてないんだった。漫画ならガーンって効果音がついてるところだよ……。
 二回攻撃すれば、なんとか七〇センチまではいけた。リリィいわく、ブレイクも使えないのにそこまで砕けるとかカノンすごすぎる! 自信もちなよ! だそうなんだけど。前回の選抜大会優勝者は八〇センチいってる。あと一〇センチ以上いくにはどうしたらいいか……試合の中で見つけないと。
 なんて思っているうちに到着。
 ざっと数えて三十人くらい。男女比はだいたい一対一。ネクタイやリボンの色を見るに、青や黄、緑がほとんどで、赤は男の子一人だけ。つまり一年生は私を含めて二人。あとは全員上級生。
 予想はしてたけどね。ブレイクを習っていないんだから、一年生はまず出場してこない。一人いるだけびっくり。
「よぉ。どうやら一年生は俺とお前だけみたいだな~」
 せっかくだから仲良くしようと近づいたら、すぐに話しかけられた。絡みやすい感じなのは助かる。
「そだね。一年生同士、がんばろうね」
「おう。負けないからな!」
「こっちだって負けない!」 
「へえ、女にしては良いノリじゃんか! 気に入ったぜ! 俺は神崎レオだ。お前、名前は?」
「花咲カノン。よろしく、神崎くん」
「おう、よろしくな、カノン」
 良い友達になれそう。
「はーい、では点呼始めまーす。みなさんこちらに集まってくださーい」
「よし、いこうぜ」
「うん」

 点呼を終えて、競技場に到着。一年生はやっぱり私と神崎くんだけ。欠場者はいない。総勢三二人。
「第二回マギアンシャフト選手選抜大会、最初の競技、ブレイクが今! 始まろうとしています! 本日の実況は私、剛元猛が務めさせていただきます。ブレイクの解説には、プロ選手の神崎健介さんをお招きしています。神崎さん今日はよろしくお願いします」
「よろしく」
 実況と解説までつくんだ……。
「それでは競技を始めますが、ルールを再確認しますね。二回の魔法攻撃で防護壁を破壊してください。最初の厚さは五センチで、五センチ刻みで厚みを増していきます。五〇センチまではパスすることが可能です。いいですね?」
 大丈夫。緊張はしているけどルールの見落としはない。五〇センチが破壊できるのは立証済み。パスを続けて五〇センチからスタートだ。
「では、競技開始です。五センチから挑戦する選手は、挙手してください」
 誰も手を挙げないか。まぁ、五センチからスタートする人はさすがにいないよね。
「では、一〇センチからスタートする選手!」
 まぁ、誰も挙げないよね。

「次は五〇センチですので、パスはできません。最初は天野選手です。準備してください」
「はい」
 まさかの全員五〇センチスタートとは。一昨年の大会では、三〇センチくらいからやっている人もかなりいたのに。
「なんと全員が五〇センチスタート! 一昨年よりハイレベルですねー」
「当時に比べると、競技が発足してから時間がかなり経過していますからね。有効な破壊法が増えているのは自然ですし、その影響で全体的にレベルが上がっているのも当然と言えるでしょう」
 解説の人、ありがとうございます。それなら納得がいく。
 なんて、解説聞いてる場合じゃない。今にも天野先輩が壁を破壊しようとしている。リボンの色は緑。四年生。参考にさせてもらおうかな。
「……」
 天野先輩の右手が群青色に光り輝く。右手にマナをためているのは一目瞭然。やがてマナは拳を中心とした半径一〇センチほどの球を形成した。
「トップバッター天野選手! ここはセオリー通りブレイクで攻めるか!」
 これが、ブレイクか。そんなに難しい魔法ではなさそう。見よう見まねでやってみるか……?
「やぁっ!」
 天野先輩が拳を壁に叩きつけると、拳は壁の中心くらいににめり込んだ。そして球を形成していたマナが一気に弾けて――
 バァン!
 爆音がなり響き、壁はあっけなく崩壊。一撃で瓦礫の山へと成り果てた。私がどう頑張っても二発使わないと崩せなかった、五十センチの壁を、一撃で。
「ブレェェイク! 紹介が遅れましたが、現在五〇センチを粉砕した天野綾香選手は生徒会の役員。マギアカデミアの最高峰たる五人のうちの一人なのです!」
「納得の一撃粉砕ですね」
「なお今大会、全ての種目に一人ずつ生徒会役員が配置されているようです」
 生徒会役員……! マギアカデミアの生徒会役員は講師たちの推薦で決まる。道徳、責任感、魔法……どれか一つでも欠けていては選ばれることはない、名誉の称号。それが生徒会役員。五人全員が素晴らしい魔法使い、ということ。星羅さんを見ていればそれがよくわかる。
「では次、井上選手準備してください」
 競技は続いていく。ハ行まで結構時間ありそうだし、他の選手をしっかり観察しなくちゃね。
 
「では次、神崎選手どうぞ」
「はい!」
「神崎くんがんばって!」
「おう! ばっちり決めてやるぜ!」
 さて、同じ一年生の神崎くん。何気に一番参考にしたい選手。今までの選手は全員ブレイクを使った。天野先輩のように一撃で破壊した人はいなかったけど。でも神崎くんは私と同じく一年生でまだブレイクを習得していないはず。どう砕く……?
「え?」
 右手にマナの収束……まさかブレイク?
「おっとこれは……ブレイクか!? 一年生の神崎選手は、まだ授業で扱っていないはずですが……どうでしょう、神崎さん」
「授業で扱っていなくとも、彼にブレイクを伝授する者がいたということでしょう。そう、たとえば――家族とか」
「神崎……もしや神崎レオ選手は……!」
 まさか、神崎くんも佳奈と同じ?
「でやぁっ!」
 バァン!
「ブレェェイク! 天野選手と同じく、一撃で破壊したぁ!」
「練習の成果が出ているようで、安心しました」
「そしてただ今情報が入りました! 神崎選手は現在解説にお越しいただいている神崎プロの一人息子です!」
 やっぱり! ただの一年生ではないと思っていた。
 しかも天野選手と同じように一撃破壊……相当な腕前とみて間違いない!
「よっし、良い感じだぜ」
 噂の本人様、ご帰還。
「神崎選手の息子さんとはね……びっくりしたよぉ」
「へへ、まぁこうなると思って言わずにおいて正解だったな。父ちゃんが見てる中で神崎の名に泥はつけられねえ。俺は絶対、優勝するからな」
 優勝するために私が砕く壁の一角は――間違いなくこの神崎くんだ。

「では次、花咲選手どうぞ」
「はい!」
「よし、一発かましたれ!」
「うん!」
 待ち時間長かったな……まさか最後だとは思わなかった。五〇センチは全員砕いた。一発は天野先輩と神崎くんだけ。
 でも――忘れよう。今はただ、目の前にそびえたつこの壁を、砕くことだけに専念する。
 初級魔法エレメントを使って、大きな水球を生成。壁に叩きつけて壁全体を水浸しに。次に大きめのショットを生成し、エレメントによって火属性を付加。
「いっけぇ!」
 放たれたショットが壁に衝突すると、一瞬で壁全体が燃え上がって崩れ去った。練習通り、マナの消費を最小限に抑えた方法で砕けた。
「これは知的! テクニカル! 力技が光るブレイクにおいて、なんとも画期的な破壊法だぁ!」
「最初の水で壁を水属性に染め、そこに弱点たる火属性を付加したショットを打ち込む……なるほど、これなら燃費も良いでしょうね。見事です」
 水が火に弱いってのは、魔法使いじゃない人には理解しにくいかも。エレメントによって付加されるのは、ある種概念的な地水火風。火は水に強く、水は火に強い。そういう概念のもと生成される特殊なもの。相反する属性は受けに回ると弱点となる関係。
「へぇ、お前おもしろいな! ブレイクなしでどこまでやれるのか、俺も楽しみだぜ! 勝つのは俺だけどな!」
 順調な滑り出し。佳奈、リリィ、星羅ちゃん、みんな見ていてくれたかな。
「では次に五五センチです。天野選手、準備してください」


「では七五センチ、最後の挑戦者、花咲選手。準備してください」
「はい」
 七五センチ……私にとって、正真正銘の壁。でもどうやら、私にとってだけではなかったらしく、この七五センチでかなりの脱落者がでた。残り人数は私を含めてあと一〇人。天野選手と神崎くんは突破済み。さすがに一発ではないけど。
「あ……」
 いけない。こんな時に他の選手のことなんて考えてたらダメだ。ただ目の前の壁を砕くことに集中しないと。
 とはいえ、練習では一度も砕けなかった。一応、マナの消費は抑えてきたし、マナ残量は問題ない。けど、エレメントコンボを最大威力のショットで決めても、破壊には至らなかった。
 どうする……?
「いっけーカノン! ぶちやぶれ~!」
 束の間の静寂を切り裂いて聞こえる、佳奈の声援。
「カノン~! がんばれ~!」
 そしてリリィの声。二人とも見てくれている。
 あ……そうだ。そういえば昨日――

「なるほど~、考えたねー。エレメントをそんな風に使うとは」
「でもこの方法は、一撃目は壁に属性を付加するために使うから、実質攻撃は一度しか行えないって欠点がある」
「一撃目もショットじゃダメなの?」
「うん、純粋なエレメント弾じゃないと対象の属性を変化させられない」
「なんで?」
「え、なんでって……なんでだろうね?」
「調べてないんだ……カノンって基本的に優秀なのにたまに抜けてるよねぇ」
「なんか演習室の一件以来リリィに馬鹿にされる頻度が高まった気が……! これはピンチだ……早急に調べないと」
「そだね~」

 ――そうだ。調べた結果原因もわかった。通常のショットの特性。衝突後はただ消滅してしまうから、エレメントが壁に行き渡らない。対象全体を染め上げないと属性付加はされない。
 そんな大事なこと、なんで今の今まで忘れてた? やっぱり緊張してるのかな……?
 でもリリィたちのおかげでリラックスできた。ぶっつけ本番で、やってみますか……!
「おっと花咲選手、今回は一撃目からショットを生成しています。水属性を付加しているようですね」
「七五センチは、一撃の攻撃では威力が足りないと判断したのでしょう。しかしショットで属性染め……できるのでしょうか」
 魔法の基本……マナを自分のイメージ通りに働かせる。衝突後消えてしまうのが問題なら、せめて――
「はあっ!」
 ボン!
「弾けたぁ! 花咲選手の放ったショット、壁に衝突した瞬間、まるで花火のように弾けました!」
「これは……」
 ――せめて壁全体に水を撒かせるように、散らせる!
 染まりきったかどうかはわかんないけど、火を付加して特大のショット生成。
「これで、どうだぁ!」
 火球が衝突すると、一瞬うすい桃色の光が弾けて……壁が炎上して崩れた。
「ブレェェイク! 花咲選手、七五センチ突破ァ!」
「(今の、染めきっていなかったはず)……いやー、ますます興味が沸きましたね。おもしろい選手です」
 ふぅ……なんとかやれたぁ……。
 観客の方を見ると、リリィがこっちに向かってVサインを繰り出している。
 恥ずかしいなぁ、もう。でも――
「いぇい!」
 リリィへのお礼も込めて、笑顔でVサインを返した。

「ついに九〇センチです! 既に前大会の優勝記録、八五センチを突破しています! そして残った選手はまだ三人もいます!」
「何センチまでいけるのか、見モノですね」
 そっか、もうそんなスコアなのか。こうなったらやれるだけやってやらないとね。
「では天野選手、どうぞ」
「はい」
 天野綾香選手……マナの色と同じ群青色の髪の毛。佳奈よりかなり長いポニーテールからは、まだ疲労の色が見られない。防護壁に向かうその姿は五〇センチの時から変わらず凛としている。
 そして、五〇センチの時から変わらないのは、それだけじゃない。
「天野選手、やはりブレイクのみでいったぁ! そしてやはり二撃決壊! 九〇センチ突破ァ!」
「何の工夫もなく、ただただブレイクだけでこの九〇センチも突破……おそろしい選手です」
 まだブレイクしか魔法を使っていない天野選手は……全然底が見えない。
「負けるかよ……」
「神崎くん?」
 かすかな声だったけど、はっきり聞こえた。その声が少し震えているのも、わかった。そうだ、神崎くんもきっとわかっている。天野選手の底なしの実力。私たちよりも数段上だということ。たぶん神崎くんも私と同じで、八五センチは自己ベストだったんだ。
「俺は、神崎健介の息子だ……生徒会役員だろうがなんだろうが、負けるわけにはいかねぇんだ!」
「……」
 まずい、と思った。最初から何度も思ったけど、大した実力だったから大丈夫だと流していた。
「では次、神崎選手、どうぞ」
 最初、神崎くんは佳奈と同じような人だと思った。でも違う。佳奈は真っ直ぐレースに向き合っている。それはあの演習室での佳奈を見れば一目瞭然。でも、神崎くんは違う。
 この人は……お父さんの背中しか、見ていない。
「神崎くん」
「あ?」
「ブレイクの競技中に見るべきは、砕くべき壁だけだよ」
「んなことわかってる」
「わかってない! 神崎くんは健介選手……お父さんしか見てないもん!」
「! なんだよ、わかった風な口聞きやがって……お前に何がわかるんだよ!」
「あ……神崎くん!」
 そう言われても仕方ないとは思うけど……今の状態で競技に臨んだら……。
「うおらぁぁぁ!」
 一撃目。七五センチを越えたところで使い始めた、神崎くんの助走。どういう原理かわからないけど、助走距離約二〇メートルのうち、一〇メートルに達したあたりで足元が爆発。壁までものすごい速度で跳び、その速度を力に変えてブレイクを放つ。
「揺れているな……」
「え? どういうことでしょうか神崎さん。たしかに神崎選手のブレイクを受けて、壁は揺れていますが……」
「レオの心です。意識が壁に向いていないようです。ここまででしょう」
 二撃目。一撃目と同じように助走、さらにインパクトの瞬間に体を回転させて威力を高めた。けど……。
「くそっ! 何で砕けねえ! 畜生! 畜生!」
 何度も何度も、壁に拳を打ち付けて、神崎くんは泣く。
「父ちゃんに……恥かかせられんのによぉ……!」
 ことここに至っても、神崎くんにはお父さんしか見えていない。

 神崎くんが競技場を去って、私の九〇センチへの挑戦。マギアンシャフトへの出場権は、二位以上で獲得。つまり、神崎くんが砕けなかったこの壁を砕けば、決まりだ。
「では花咲選手、どうぞ」
 集中、集中……。九〇センチを砕くにはどうすればいい? さっきの八五センチは、感覚的にかなりギリギリ。砕けたのが不思議なくらいだった。次は砕けないと見て間違いない。けど、代案もない。何か、手段は……。
 〝がんばってください。突破口はあなた自身の中にありますよ〟
「!?」
 星羅さんの声……。頭の中に直接響いてきた。
 どんな魔法か知らないけど、わかったことは二つ……星羅さんがちゃんと見てくれているってことと、星羅さんがお節介焼きだってこと。競技中の選手にアドバイスって……まったくもう。
 でも……あなた自身って? 私にしかできないってこと?
 となると、そうか、固有魔法のことか。でも私はまだ発現してないし……。いや、そういえば、さっき水属性ショットを散らしたあとに火属性ショットを当てたとき……あのうすい桃色の光は、私のマナの色。普通、相反属性の衝突であんな光はでないはず。なら……
 これにかける!
「おっと花咲選手、ここにきて再び新しいパターンですね。火と水のショットを一つずつ生成してきました」
「彼女は独特のセンスの持ち主です。今回もどのように壁に挑むのか、楽しみです」
 ショット軌道を内側に調節。同時発射!
 二つのショットを、壁に到達する前に衝突するように軌道調整してある。後は二つが交わった瞬間を見定めて、マナを――
「ここだ!」
 ――送る!
 二つのショットは交わり、一瞬うすい桃色の光が出る。そして一つの大きな球になって壁に衝突。けど壁はびくともしない……失敗か……。
「えぇっと……神崎さん、彼女は何をしようとしたのでしょう」
「わかりかねます……相反属性が付加された攻撃魔法同士が衝突すれば属性は互いに打ち消し合ってなくなります。あれでは単に二つ分のマナを込めただけのショットですよ」
 そう、失敗すればその程度にしかならない。いや、成功してもどうなるかわからないけど。チャンスはあと一回。次で、決める。
「はぁ、はぁ……」
 息が上がってきちゃったか。七五センチからは結構派手にやってるし、マナ残量もあんまりないんだろうな。
 でも……この壁は、なんとしても砕く!
「さぁ、花咲選手の二撃目、またしても火と水の二つのショットを作り出した!」
「いったい何を見せてくれるのでしょうか」
 佳奈の真摯な態度に感化された。リリィには背中を押された。星羅さんは道を作ってくれた。
 みんなの協力で得た力を全部あの壁に叩き込む!
「発射!」
「二つのショットはまたもや同時発射! 軌道も先ほどと同じ!いったい何をしようというのでしょうか!」
 ぶつかってからじゃ遅い。なら、交わるその直前に――
「これで、どうだっ!」
 ――相反する二つをつなぐマナを送り込む!
 衝突の瞬間、二つのショットと私の体がうすい桃色に光り輝いた。未知の感覚……そうか、これが――
「二つのショットが衝突! しかし、これは……!」
「固有魔法!? しかし、それにしたって、こんな馬鹿なことが!」
 成功……!
 水と火……決して混じり合うことのない二つの属性を合わせもつショット。
 その光り輝くショットが壁に激突。
 それと同時に私の固有魔法の制御が解けて、合わさっていた二つのエレメントがはじけ飛ぶ!
「ブ……ブレェェイク! 衝突とともに弾け飛んだショットは、先ほどよりも美しく大きな花火となったぁ!」
「驚きました……いったい何が起こったのか、しっかり解析したいですね」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 砕けた……。やったよ、みんな。
「はぁ……あ……」
 あぁ、我ながら、きれいな花火だな……。
 きれいなのに、ゆがんでる……あれ、真っ暗に……。


エピローグ

「ん……」
「あ、起きた!」
 目を開けて、最初に視界に入ったのは、今にも泣きそうな金髪ロングの美少女――リリィ。
「ここは……」
「マナの消耗が激しすぎて、倒れたんです。覚えていますか?」
「星羅さん……」
 だんだん思い出してきた。あの壁を破壊してから、急に全身の力が抜けて……マナの消耗が原因なら、納得できる。
「佳奈は……?」
「レースの点呼だから、って行っちゃった」
「え……! 星羅さん、今すぐ佳奈に、私が起きたことを伝えてください! できますよね!?」
「えぇ、わかっています……伝えましたよ」
「ふぅ……」
 もし佳奈が私のことを心配してレースに集中できなかったりしたら嫌だ。星羅さんがいてくれて助かった。
 一息つくと、保健室(今気づいた)の扉が開いて、男の子が入ってきた。
「お、起きたか」
「神崎くん? あ、そうだ試合はどうなったの?」
「天野先輩が一二〇センチのスコアたたき出したよ。でも記録に差はあってもお前が二位には変わりない。マギアンシャフトは、天野先輩とお前で出場だ」
「そっか、よかった」
 一二〇センチか……途方もない数字たたき出したなぁ。あの人と肩を並べて日本代表として試合……。
「とりあえず、おめでと」
「おめでと~!」
「おめでとうございます」
「うん、ありがと!」
 そっか……とりあえず私、やれたんだ。星羅さんとの約束、果たせたんだ……。
「なぁ、カノン」
「うん?」
「あそこで思いっきり泣いてからさ、お前の言葉がようやく頭に入ったんだ……俺、ずっと父ちゃんしか見てなかった。お前に負けるのも当然だったってわけだ。気づかせてくれて、ありがとな」
「神崎くん……」
「でも次は負けねえ。俺の真の実力、次こそ見せてやるぜ!」
「うん!」

「佳奈さん、一回戦一位通過です」
「よっし!」
 どんな魔法使ってるのかわからないけど、星羅さんにはここ保健室から会場の状況が見える。
 さっき神崎くんが帰ったから、保健室には私たち三人だけ。ということで星羅さんに佳奈の様子を見てもらっていた。
 何はともあれ佳奈も好成績で良かった。星羅さんの話では、決勝戦までには私も動き回れるくらいマナが回復するそうだし、佳奈には頑張ってもらわないと。
「そうだ、かいちょーさん、最後にカノンがやったアレ、固有魔法ですか?」
「えぇ、そうですね。カノンちゃんの体も光っていましたし、間違いありません」
「ねぇカノン、どんな固有魔法なの?」
「えぇっと」
 実のところ、私にもよくわからない。火と水を融合できる? それとも相反する属性を融合する?
「本人でもわからないなんてことあるんですか?」
「えぇ。固有魔法は抽象的なものが多いですから、むしろその方が多いです。そのため、マギアカデミアに固有魔法研究科があります。固有魔法を発現した生徒は一時的に研究科に入り、自分の固有魔法の正体を探らなければなりません」
「ってことは、大会終わったら私はそうなるんですね」
「えぇ、そうなります」
 大変そうだけど、自分のことだし、避けては通れない道だよね。
「ちなみにかいちょーさんは何か予想たててますか?」
「そうですね……法則や定理を覆す……ような魔法でしょうか。火と水は打ち消し合うという法則を覆したのですから」
「なんかすごそーです」
「まぁ、あくまで予想です」
 どんなものかはさておき、固有魔法を使いこなせるようになれば、ブレイクの記録もさらに伸ばせる。マギアンシャフトまでは三ヶ月くらいあるし……もっともっと、伸ばせる。
「カノン? ニヤニヤしてどしたの?」
「固有魔法を制御できれば、もっと記録伸ばせるわけだよね。そう考えたら……わくわくしてきちゃって」
「頼もしい限りですね」
 大会が終わったら、マギアカデミアは長期休暇に入り、中学校だけ生活になる。けど研究科での活動は行われるはず。
 うん、また楽しい日々になりそう!

「佳奈さん、準決勝も一位通過です」
「よぉーし!」
「佳奈すごいね~、このまま優勝しちゃうんじゃないかな」
「ふふ、それはどうでしょうか。佳奈さんはまだうちの桐野さんと対戦していませんからね」
 うちの、ってことは生徒会役員か。天野先輩が見せつけたように、生徒会役員の実力は本物。でも――
「佳奈は勝ちます。私とリリィで、思いっきり応援しますから」
「うん! 佳奈のレース、初めて見るから楽しみ!」
 微妙に食い違っている気がする……。
「それじゃリリィ、星羅さん、会場にいきましょう!」
 なにはともあれ、待っててね、佳奈。
 さっき届いた声援の分、今度は私が応援するから!
                            完

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