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さらし文学賞
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非日常のような日常の話

「ああ、ごめんなさいね。携帯は持っていないの。――次の講義遅れちゃうから」
 それは余りにあっけない、リンと私の十年ぶりの再会だった。
 

 昔、私は気が弱く泣き虫だった。友達なんて一人もできないし、男子からはしょっちゅういじめられていた。そんな折、小学校に入学する前後あたりに、近所にリンが引っ越してきた。リンと初めて会った時、私は彼女が年上かと思った。背は高く、まだ幼いながらもその表情には、彼女の名前「華凜」のように、凛としたものが感じられたからだ。
 私とリンが仲良くなるのにそれほど時間はかからなかった。いつも泣いている私が放っておけなかったのか、いつも私の側にいてくれて、大丈夫? と気にかけてくれた。頭をなでて慰めてくれたこともあった。リンは私にとっての姉のような存在だった。
 
 小学三年生のときに私は転校することになった。
「リンちゃん、私もうすぐ転校しちゃうの」
 リンは一瞬驚いたようだったけど、泣きじゃくる私の頭をなでた。
「……遠くへ行っちゃうの?」
「うん、ずぅっと遠く」
「もっと遊びたかったのに……」
 リンも涙を浮かべているのが分かった。
「もうリンちゃんと会えないのかな」
「……会えるよ、きっと、会える。私が会いに行くよ。もしかしたら、明日にでも会えるかもよ?」
 二人は一緒になって笑った。そんなのが無理なのは十分わかっていた。だから、「明日に会える」そんな突拍子もない言葉がたまらなくおかしかった。


 大学は毎日が楽しい。新しい友達もできたし、好きな人もできた。勉強も順調。前期の単位は大方取れたし。
 今日から後期の授業が始まる。長い長い夏休みを経て、久しぶりに出会う友達と夏休みの事を話す。それから、これからの授業の予定を話す。
 話を終え、友達と別れた後、一限目の講義室に向かった。この授業は後期から新しく取る教養科目で、他学部の学生もいる。だから、教室には知らない人ばかり。友達は少しでも多い方がいいと思う私は、近くの席の子に積極的に話しかけた。いくらか話した後、私はこう切り出す。アドレス交換しよ? またメールしようよ、と。この戦法(?)で交換できなかった人は今だかつていない。アドレスを交換することで、お互いに交流手段ができるわけで、安心できるのだ。いわば既成事実を作っちゃえ! ってこと。講義前に三人も交換できたので、この作戦は今回も功を奏したのだ。
 この講義は席が指定されるので、先生は座席表を回し、名前を記入してほしいと言った。私は順番的に最後の方なので、座席表をみて、知り合いがいないかとか、さっき交換した友達はどこにいったのかなとか、見ることができた。
 そこに、私の列の一番前の席に、彼女の名前「戸田華凜」が書かれていた。
 授業が終わり、私は一目散に彼女のもとに向かった。彼女がリンである保証はない。同姓同名だってあるかもしれない。でも、確かめない訳にはいかなかった。
「リ、戸田さん」
 危うくリンと言ってしまうところだった。それだけ私は彼女がリンであることに大いに期待していた。同時に十年ぶりに会う親友に会えることに私は興奮していた。もしかして、もしかしてって。
 彼女は顔をあげて、私の顔を見るやいなや、すぐ目線を下におとし、
「ああ、ごめんなさいね。携帯は持っていないの。――次の講義遅れちゃうから」
 と言った。そして私の顔をろくに見もせず、カバンを持って教室を出て行った。
 間違いない、リンだ。一瞬見ただけですぐに分かった。多少顔立ちは変わっていたけれど、昔のリンの面影が残っていた。でも、リンは私に気づかなかった……? いや、向こうはとうに私の事など忘れている……? まさかリンに限ってそんなこと……。
「待って、戸田さん!」
 今度はリンとは言えなかった。そう言ってはいけないような気がして。私は扉を開けて、廊下に飛び出した。しかし、リンの姿はもうなかった。

 その日、私はサークルに参加する気になれず、講義が終わってからすぐ、家に帰った。講義の間も自転車をこいでいる時も、ずっとリンの事ばかり考えていた。昔の記憶と今朝の記憶がリピート再生されて、何度も私の心を締め付ける。別にリンを恨んでるわけじゃない。ただただ悲しかった。泣きたいぐらい。

 母から電話がかかって来た。出たいとは思わなかったけど、何かあったと思われては面倒なので、渋々電話にでる。学校生活の様子とか、家事とか、そういう日常のことを話した後、私はついでのようにリンと会ったことを話した。
「え!? 華凜ちゃん優衣と同じ大学だったの!?」
「……もう、うるさいなぁ。そんな驚くことないでしょ」
「驚くわよ! なんせ十年……ぶりだっけ? 感動の再会じゃない! よかったわねぇ~。奇跡ってこのことを言うんだわ」
「そんなんじゃないって」
「え?」
「そんなんじゃないってば!」
 つい声が大きくなってしまった。
「――なにか、あったのね。話してみなさい」
 母にはいつも私の考えていることをよく見透かされる。私は観念して、今朝あったことを包み隠さず話した。
「それで? 優衣はどうしたいの?」
「どうするもなにも、向こうが忘れてるんじゃ、どうし」
「なに気弱なこと言ってるの! 今聞いた限りでは、とてもそうは思えないけど? 華凜ちゃんが優衣の事忘れてるって絶対は言えないじゃない。もしかして、たったそれだけの事でへこたれてるわけ?」
 言葉の途中で切られたうえ、説教じみたことを言われるので、私はかっとなって言った。
「何よ、何も知らないくせに! リンはあの頃のリンとはもう違うのよ! 私のことを本当に忘れてるかもしれないでしょ。そうしたら、私だけ覚えていて、そんなの……そんなの……」
 私はいつのまにか泣いていた。
「少しあなたを責め過ぎたみたいね。でも、これだけは母親の言葉として聞いておきなさい。人は変わっていくものよ。性格も外見もね。でもね、心にある一本の筋だけは変わらないものよ。人はそれを誇りとして生きていくのだから。優衣は華凜ちゃんのかわってしまった部分を見ただけよ。それか、もしかしたら、中身は全然変わってなくて、本心を隠しているのかもしれない。だから、今朝だけのことで決めつけるのはよくないわ。きっと彼女には彼女なりに思うところがあるのよ。昔はあなたが助けてもらったんだから、今度はあなたが助ける番よ」
 私は黙って母の言葉を聞いていた。自然と気持ちが落ち着いていた。
「……はは。お母さん、いつも説教じみたこと言うんだから」
「あら、またやっちゃったか……ははは」
「うん、でも、ありがと。私、頑張るね」
 私はそう言って電話を切った。今度は私の番、か。

 次の週の一限目、リンと唯一会えるこの授業に、私は望みをかけた。なにせ、学部さえも知らないのだから、貴重なこの時間を有意義に使わなくては。リンは授業が始まる五分前に来た。リンが席についたのをみて、私は席を立ち、リンのところに向かう。
「戸田さん、話があるの。少しでいいから」
 私の、先週とは違う真剣な表情を見たからか、リンは少し圧倒された様子ながらも、うなずいてくれた。よし、第一関門突破! 
 授業はいつもより、十分ほど早く終わった。少しは長く話せるかなと思うとうれしかった。私はリンを中庭に呼んだ。(廊下だと、ほかの人をきにしてしまうので)ベンチに座り、話を切り出した。
「ごめんね、急に。私は」
「優衣……でしょ? 成田優衣」
 また話の途中で切られてしまったが、リンは私の旧姓を言った。今は成田ではなく葉山だが、そんなことはどうでもよかった。
「お……ぼえてたの? だって、先週話したときは、忘れてたみたいだったのに」
「覚えてるわよ。十年前、一緒に遊んだこともね」
 リンは淡々と話している。別に懐かしくもない様子で、どこまでも事務的に。対して私はリンが自分を覚えてくれていたことにとても有頂天になっていた。
「ねぇねぇ、リン。今じゃろくに話す時間もないし、ゆっくり話がしたいな。今週暇? 本当はサークルあるけど、面倒だからサボっちゃえ! ははは!」
「……あなたはそうやって、大学生活を謳歌できてうらやましい限りね。何の心配事もなく、日常をただただ平凡に過ごしていける」
「ど、どうしたの急に」
「あなたがうらやましい。妬ましいほどに」
 リンは淡々と話続けるが、その言葉一つ一つには怒りが含まれていた。
「大学生活を満喫することの何が悪いの? 自由な大学生なら、思いっきり楽しまなきゃ損でしょ?」
 私はムッとなって言った。
「自由……ね。その時点であなたは幸せ者よ」
「ねえ、さっきから何なの? 私が言うこと言うことにつっかかってきて。そんな嫌味を言うなんて、性格変わったね、リン」
「それを言うなら、あなたも性格は変わったわよ。180度ね。昔はおとなしくてかわいらしい子だったけど、今はズバズバものを言うようになったもの」
 性格が変わったリンに対して起きる感情は驚きよりもいらだちだった。リンの言葉の意味が分からなかった。普通に過ごすことの何が悪いのか。
「……もう、いいよ。リンはやっぱりあのころのリンとは違う。あの優しいままのリンだと思っていたのがいけなかったみたい。――じゃあね、リン」

*****

「じゃあね、リン」
 優衣はベンチから立ち上がり、校舎の方へと走っていった。
 十年ぶりの再会だった。先週、優衣が話しかけてきたとき私は外見こそ違えど、彼女が成田優衣であることに間違いないと思った。十年ぶりに会えたのだ、私はとても嬉しかった。けど、今日優衣と話してみて合点がいった。この子は、毎日を楽しく生きている。私と違って。
 それがひどく妬ましかった。そして、この感情をよりにもよって優衣に対して出してしまう自分が嫌いだ。こんなこと、優衣のせいでもなんでもないのに……。
 私は一人ベンチに残され、茫然としていた。

*****

 私は後悔していた。リンはきっと何かを抱えているに違いない。なのに、自分の、リンの理想像を勝手に作って、彼女を責めてしまうなんて。ついかっとなって、リンにあんなひどいことを……。

 後悔ばかりでは先に進まない。次会ったらちゃんと謝ろう。そして、彼女の手助けをしよう。


「リン、先週はごめんなさい。あなたが何を抱えているのかも知らずに、ただ能天気に……」
 次の週、再び私たちは中庭のベンチに座った。私の誘いを、リンは今度はしっかりとうなずき、承諾してくれた。
「優衣、私も言い過ぎたわ。こんなこと、あなたに言ってもしょうがないのに。ただの八つ当たりだった」
「ねえ、リン。私たちまた十年前みたいに戻れるかな?」
「――それは、無理……かな。まだ再会してちょっとしか経ってないし。お互いのこと、知らないことが多すぎる」
「そうかな? 私はそうは思わないけど。ああ、でも、リンが抱えているものが分かるまでは、昔のようにはいかないかもね」
「私が抱えているの……。分かったわ、全部話す。今日の放課後空いているかしら?」
「うん」
「じゃあ6時に、またここで」

 6時ともなると、あたりは薄暗かった。少し風が涼しい。ベンチの近くには街灯がある。照らされた光の下に、リンはいた。私はそれをみつけ、手を振りながら彼女のもとに向かった。リンは左手を軽く挙げるのみで振り返してはくれなかった。
「じゃあ、話をするわね。今までの私のこと」
 話はリンの方から切り出された。そして、彼女の次の一言に私は唖然としたのだった。
「私は魔法がつかえるのよ」
 リンは私の次の言葉を待っているようだった。まるで相手の出方を窺っているような、そんな様子で。
「ごめんいきなりで驚いてるんだけど、魔法ってやっぱり、マンガとかで出てくるあの魔法だよね?」
「そうよ」
 とても冗談を言っているような目ではなかった。魔法を使えるということは色々便利ではないのか。そう思ったが、私は口には出さなかった。それはあくまで私が持つ、魔法に対する想像にすぎない。彼女の重荷となっているなら、魔法とはそんな万能器のようなものではないのだろう。
「魔法が使えるせいで、これまでに何か嫌なことでもあったのかな」
「魔法が使えて、すごいとか、あるいは、こんな突拍子もない話を笑ったりしないの?」
「だって、そのせいで嫌な思いをしてきたんでしょう? なら魔法ってそんな良いものじゃないことくらい分かるよ」
 リンは心底驚いているようだった。そんな答えが返ってくるとは思わなかったとばかりに。
「――やっぱり、優衣は他の人とは違う。他の奴らなんか、ただ私の能力を羨ましがるばかりで、誰一人として、私の気持なんて考えてくれなかった。優衣。あなたになら全てを話せる」
「いいよ、私には話を聞くことしかできないかもしれないけど、それで少しでもリンの心が和らぐなら」
「ありがとう。
 ――ふぅ。話すわね。この能力を得たのは、小学校6年生のとき。別に何か儀式をしたわけじゃない。ただ普通起きたら、もうすでに魔法が使えるようになっていたのよ。最初は喜んだわ。だって、テレビで憧れていた魔法少女に自分がなれたのだもの。当時、ずっと見ていた魔法少女のアニメがあってね。その主人公と同じことをよくやっていたわ。火を出したり、氷を出したり、とかね」
「そんなことやってたら大騒ぎにならない?」
「大騒ぎとまではいかないけど、少し騒ぎにはなったわ。私は治癒魔法が特化していたから、攻撃魔法自体はあまり強力ではなかったのだけれどね、まあ何もないところから炎とか氷が出たら驚かれるわよね。両親も、外では使わないようにって私にしょっちゅう言ってたわ」
「放火とかと間違えられると大変だしね」
「そう。小学校まではかわいいものよ。そして中学生になった。これから地獄の始まりよ。
 中学は地元。だから、私が魔法を使えることを知っていた子がいて、あっという間に広まった。人に会うたびに、魔法を見せて見せて、とせがまれた。そのころは他人にはない私の個性として、皆にみせるのがとても楽しかった。自慢したかったから。私は学校中の人気者になったわ。
 でも、分かるでしょうけど、人気者を妬む奴がいるのよ。そいつらは、私を憎み、嫌い、蔑んだわ。女のイジメって陰湿なのよね。暴力だけじゃない。噂が噂をよび、でたらめな噂話までとびかった。あいつは魔法を使ってカンニングして、テストの点数をあげているんだとかね。あげればキリがないわよ。私がどんなに誤解を解こうとしても、誰一人聞く耳を持たなかったわ。私はどんどん孤立していったわ。いじめられているのなんかと仲良かったら、今度は自分が標的にされてしまうかもしれないものね。次第にいじめはエスカレート。魔法が使える私が気持ち悪いとまで言われたわ。ついたあだ名が「化け物」。
 私は耐えられなかった。学校に行けなくなった。楽しい学校生活が嘘のようだった。……それが、一回目」
 私はまさかリンがいじめられていたなんて、想像できなかった。やはり淡々と話す彼女は、ずっと閉まっていた箱を一つ一つ開けていくように、慎重だった。その箱は宝箱ではなく、パンドラの箱。
「両親がみかねて、私を転校させたわ。もう私が魔法を使える事を知る奴はいない。学校では魔法を使わなければいい。そう思っていた。
 中3のころ、私は親友がいたわ。面倒見がよくて、かわいらしい子だった。最初に話しかけてくれた子だったから、色々と思い入れはあったのよ。その子には好きな子がいたの。私はその男子にその子が告白する前日に、こう言ったわ。
『私、魔法が使えるんだ。明日の告白が成功するようにしてあげる』当然、そんな魔法なんてないわ。でも、その子が緊張を少しでも和らいでくれるならってね。次の日、告白をしたわ。そしたらその男子は、その子ではなく、私が好きだった」
「その女の子はなんて?」
「お前が魔法をかけて、あの人を取ったんだ! お前のせいで、お前のせいでってね」
「そ、そんな……。ただの逆恨みじゃない」
「そうよ。今ならそう言える。けど、その時の私は本気で男子生徒に魔法をかけてしまったんじゃないかと思ってしまってね。その女の子のあまりの豹変ぶりにすごくショックをうけた。それが一番大きくて、正常な考えができなかったのかもしれない。この時はショックが大きかったわ。その女の子を恨んだんじゃなくて、自分が魔法を使えることを至極恨んだ。なんで私ばかりこんな思いをしなくちゃいけないのか。どうして私なのか」
「そんなことが……」
「それで終わりじゃないわよ」
「え?」
「自殺もしようとした」
「う……そ……でしょ?」
「首つりにリストカットに……。何回もね。でも、最初に言ったでしょ。私は治癒魔法に特化しているって。傷口は塞がり、飛んでいた意識が戻る。何度やってもその繰り返し。死にたくても死ねない。生き地獄よ、こんなの」
 私はリンを抱きしめていた。少しでも彼女を慰めてあげたかった。もし、その場所に私がいたのなら、こうして抱きしめていられたのなら、彼女はそこまで思い詰めることはなかったのだろう。
「ごめんね……。ごめんね……」
「優衣が謝ることないでしょ? ……フフ、優衣ってば、昔から泣き虫なんだから」
「だってぇ、だってぇ……」
「でも、こうして、優衣とまた会えたのだから、私は今幸せだよ」
「うん……」
 慰めるつもりが逆に慰められてしまった。

 落ち着いた後、私はリンに言った。
「覚えてる? 私がいつもリンに慰めてもらって、助けられたこと」
「うん」
「今度は私がリンを助ける番」
「え?」
「私は魔法の知識なんて何もない。けど、大学生活を楽しいものにしてあげられることはできる。困った時はいつでも相談に乗ってあげる。こんなことしかできないけど」
「ううん、十分。いや、十分すぎるよ。こんな……こと言われるの初めてで」
「あれぇ~? リン泣いてるの~?」
「う、うるさい!」
 二人は一緒になって笑った。あの頃のように。

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