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さらし文学賞
虫よけスプレー


 夏。
 夏といったら肝試し。ということで、肝試しをしよう、ということになった。というより、僕が言い出した。
「肝試し行こうぜ。」
 僕は友達に呼びかけた。すると、ケンが答えた。
「いいけど。どこでやるの。」
「林の近くに廃墟があるじゃん。そこでやろうよ。」
 僕は言った。
 するとユウトが、
「でも、そこって去年死体が見つかったっていう場所でしょ。しかも肝試しに行った小学生の。絶対何かいるって。」
 と、怯えた表情で言った。
 するとお調子者のマサキが、
「お前ビビッてんのかよ。俺は行くぜ。それでお化けをとっ捕まえてぶん殴ってやるよ。」
 と、豪語した。
「僕は遠慮するよ。」
 ユウトは言った。しかし、またマサキが調子に乗って、
「四人中三人が行くって言ってるんだから、多数決で行くに決まってるだろ。」
 と、理不尽なことを言った。
「でも……」
 すると、いつでも優しいケンは、
「大丈夫。お化けが出たら、倒してやるから。」
 と、言った。
「おいおい、お化けを倒すのは俺だよ。」
 と、マサキが言った。
 僕はユウトに、
「お化けなんていないと思うよ。皆雰囲気を楽しみたいだけだと思うよ。」
 と、言った。
 ユウトは頷いて、
「うん。じゃあ、行ってみるよ。でも本当にお化けが出たら助けてよ。」
 と、言った。
「おう。まかせとけ。」
 と、マサキが言って腕をまくった。
 なんだか可笑しくて皆笑った。

 肝試しには今週の土曜日の夜に行くことに決まった。その日の準備を早速始めながら、ユウトが言っていた、小学生の死体が発見されたときの報道を思い出していた。
 彼らは、僕らと同じように四人でその廃墟へ行ったらしかった。そして、その中でお化けが出てきたらしい。それで怖くなって逃げてきたら、三人になっていて、次の日の朝、そこに行ったら、いなくなった子の死体があったという話だ。
 僕は、本当はお化けなんて信じていなかった。いるわけないと思っていた。この前ユウトに言ったように、雰囲気を味わいたいだけだった。海水浴や虫捕りもいいけど、やっぱりあのスリルがいいんだよ。僕は行く前から一人で興奮していた。

 ついにその日になった。母親が、虫よけスプレーをしていきなさい、と言ったが、していかなかった。早く行きたかったからだ。その廃墟までは皆で歩いて行った。計画を立てた火曜日の昼休みから、この日のことを想像してどれほど興奮しただろうか。どうやら皆も相当興奮しているようだった。
 そうしているうちに廃墟に着いた。外は電燈のおかげで懐中電灯を点けなくとも十分だったが、廃墟の中に入ると真っ暗で、お互いの顔も見ることができなかった。僕らは懐中電灯を点け、中へと入っていった。

「おらぁ、出てこい、お化け。」
 マサキが叫んだ。中は静かだったので、遠くまで響いた。一歩一歩ゆっくりと進んでいく。
 一番前をケンが、次にマサキが、その次にユウトが、最後に僕が並んだ。道幅はそんなに狭くないのに、何故か自然と一列になっていた。
 さっきからマサキばかり一人で喋っている。ユウトと僕とで、マサキは、本当は怖がっているのではないか、とヒソヒソと話した。
 ケンは全然喋らないけど、心の中で燃えるタイプなので、おそらく内心は興奮しているのだろう。
 ユウトは、少し怯えているけれど、それ以上に興奮しているのが伝わってくる。
 どうやら皆この雰囲気を満喫しているようだった。
 
 しかし、時間が経つにつれ、皆の興奮は冷めていった。
「なんだよ。結局お化けなんていないんじゃねーの。もうすぐ二階も終わりだぜ。」
 マサキが言った。
「そうだな。やっぱり、お化けなんて嘘だったな。」
 ケンが言った。
 ユウトももう興奮していなかった。それどころか、恐怖さえも無くなっているようだった。
「でもまだ三階があるじゃん。最上階だから何かあるかもしれないよ。」
 僕は言った。
「そうだな。とりあえず最後まで行くか。」
 ケンが言った。
 僕らは階段を上った。

「結局三階も何もなかったな。」
 ケンが言った。
「あーあ。つまんねーの。なぁ、ユウト。」
 と、マサキが後ろに振り向いて言った。
「お化け倒せなかったね。」
 と、ユウトが冗談半分で言った。
 すると突然、
「お、お化け! 」
 と、マサキが叫んだ。
 皆振り返った。
 何か不気味なものが彼らの方へと迫ってきていた。

 皆は落ち着きを失って、出口へと一斉に走り出した。一番後ろにいたユウトは、他の皆の背中を追いかけていたが、途中で転んでしまった。顔を上げると、不気味なお化けがすぐ近くまで迫ってきていた。
 ユウトは怖くなって泣きながら、お化けを追い払おうとして、近くにあった棒のようなものでお化けを突いた。それはお化けに刺さり、お化けは動きを止めた。そのうちに、ユウトは出口へと走った。
 その廃墟の出口から少し離れたところに、ケンとマサキがいた。三人は怯えながら、月の明るい夜道を急いで帰った。

 翌朝。割れた窓から朝日が差し込む。頭に棒の刺さった小学生の死体には、夏だからか、すでに蠅が何匹か群がっていた。

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