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さらし文学賞
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白灰

 空から灰が降ってきた。
 砂よりも細かい灰が天から零れているのである。
 白い。
 その白い灰が木々に降りかかり、地に滑りては小さな山を作っている。
 その山を踏み砕き男は頂上を目指していた。
 男は一人であった。
 背に一抱えもする甕を背負っている。
 今朝方男は異変に気付いた。何やら空がえらく白い。単なる曇天であるわけでもなく、ただ、透けるように無であった。
 見上げていると顔に何かが降りかかる。
 それがこの灰であった。
 男は窓を閉め考えた。彼には女房も子もいない。両者とも数年前に死んでいた。彼は数分目を閉じて、やがて甕を背負って家を出た。戸を開けて外を見ると、灰が流れ込んできた。踏み出した足は少し沈んだ。風に吹かれて戸が啼いたが、男が歩き進めれば、やがてその音も聞こえなくなる。彼はそのまま道を進んだ。途中で鳥が落ちていた。青い鳥にも白は降り積む。
 それを彼は拾い上げ、甕に入れては再び歩いた。
 もう灰は幾ばかりか積もっていた。なんとか埋もれぬようにと彼は歩いた。黒い髪は白くなり、彼の眼もまた混濁した。掬えば余るほどの灰があったが、決して舞い上がりはしなかった。膨らんだ地にも窪んだ地にも、どのような地にも降り積もり、ただ平坦な世界ができていた。
 時折足を取られて倒れこみ、枝々に傷つきながらも彼は歩いた。そうしてやっと彼はてっぺんに来た。
 思わず彼は低くうなった。眼下はすでに平たくなっていた。家も山も川も海も今はなにも関係ない。男は黙って甕を降ろし、おもむろに蓋を取り去った。
 甕には灰が詰まっていた。道中の鳥も姿はない。ずしりと沈むその甕を、彼は抱えて崖からこぼした。
 灰が風に流れ舞う。
 さらさらと。
 さらさらと。
 男はゆるゆると甕を傾けた。そして甕が軽くなったとき、あるものが男の指に引っかかった。
 男はすべてをこぼしきり、その異物を確かめた。
 それは細君の服のきれだった。妻の愛した藍色が指に絡んでで冴えていた。
 男にはもう何も見えなかった。彼はそれを抱きしめて、そっと接吻して白と果てた。


 男は最後の一人であった。
 灰は今日も積もり降る。

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