さらし文学賞
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Disclose Criminal

 テレビの電源をつける。シャッターが閉め切られ、外の光が入ってこない、電灯の光が輝くこともない。真っ暗な部屋で古いブラウン管の光だけが眩しい。騒がしいバラエティ番組、実況の叫び声だけが虚しく響く野球中継からニュース番組へとチャンネルを切り替える。いつものように画面正面からやや斜めに構えてキャスターがいつものようなすました表情でニュースを伝えている。興味のない政治のニュース、重要法案が可決されるか通過するとか、明日の天気、福岡、神戸、名古屋、そんなところの天気なんか関係ない。住んでいる千葉の天気だってどうだっていい。どこで桜が咲こうとも、どこで桜が散ろうとも、いつ桜が咲こうとも、いつ桜が散ろうとも、そんなのどうだっていいんだ。はやく、はやく、俺のほしい情報を、俺が切実に求めている情報を与えてくれ。
 じっと、真っ暗な部屋の中で寒さに震えそうな体を毛布でくるみ、テレビの画面に顔をすり寄せるようにしながら、ニュースを見続ける。まるで親に隠れながら、深夜のエロ番組を見ている中学時代のようだ。こんなにテレビを真剣にみたのは、いつ以来だろうか。いや、人生で初めてだ。番組が終わる、結局俺が欲していた事件が報道されていなかった。もしかしたら、死体が見つかっていないのだろうか。俺が殺してしまったあいつの死体は。
 
 時計の針が回っている。どういうわけだが、俺はニュース番組を梯子していた。十二から十へ、六から八へ、一から四へ。すべてのニュース番組を見逃さないように、すべての報道を見逃さないようにと、俺の名前が一瞬でも出ないかどうか、俺の死体を隠した場所が一瞬でもブラウン管から映し出されないかどうか。凝視する。
 時間がすぎればすぎるほど、ニュースをやっているテレビ局なんて減っていく。ローカルのチャンネルの四十六、三十八や十四、四十二ではあまり見かけないような芸人によるテレビショッピングやよくわからないアニメが流れている。全国放送で流れているのは、よく見かける芸人たちによるバラエティ番組だった。もうどこもニュースなんかやっていないのだろうか、普段は決して見ないような時間にチャンネルを一にあわせる。
 おそらく今日最後のニュース番組だろう、しかしもう終わってしまうようだった。眠そうなキャスターが明日の天気を伝え、一つ礼をする。テロップが流れ、番組が終わる。ぷつりと番組が終わる。ブラウン管から流れ出す光の色は黒と白と灰色。少しおかしい、いつもなら真夜中のテレビではコールサインが流されるはずだ。こんないきなり砂嵐の画像が映し出されるはずがない。急いでチャンネルを変えていく。他の局では相変わらず、俺のよくわからない番組ばかりが流れている。ぐるぐると番組を回していく。最後に残ったのはチャンネル数は三、ニュースなんて一切流れないお子様用のテレビ局だ。もう時間は午前の四時を回っている。眠気が脳の奥底から沸いてくる。さっきから頭全体に靄がかかっている。視界もうつらうつらだ。そのままチャンネルを三へとあわせる。ブラウン管の安っぽい光は猿を映し出していた。コンクリートで囲まれた部屋で猿は唯一部屋に置かれている四角い物体を凝視している。テレビのようなその物体をみながら彼は怒鳴ったり、脅えたりしている。しかしそれを凝視することは止めない。楽しそうなナレーションが流れ出す。ナレーションはなんといったのだろうか。俺は眠りへと落ちてしまった。

 朝、シャッターを締め切ってしまった部屋に太陽の光が差し込むことはない。今は何時だろう、掛け時計をみるともうすでに正午をだいぶ過ぎた時刻だった。俺は何をやっているのだろうか、毛布にくるまりながらひざを抱えて寝たはずなのにいつの間にか大の字になって寝てしまっている。人を一人殺しておいて、なんという緊張感のなさだ。もしもう、あの死体を隠した場所がばれていたら、もしかしたら当日の夜にやつと揉め事を起こしていたばれたら、俺があの男を殺して隠したことがばれたら。人を殺して、死体を隠したら一体どれくらい牢屋に閉じ込められるのだろうか。あぁ、あぁ、あぁ。確かにろくでもない人生を送ってきた。それでも俺は人を殺したことはない。小さいころに車の窓ガラスを割ったり、中学時代に人を殴ったこともある、高校時代にノリと勢いで万引きをしてつかまったこともある。しかし、だけど人を殺したことなどない。

 相変わらずテレビを見続ける。三時ごろのワイドショーから、五時ごろのニュース番組へとチャンネルを切り替え、報道番組という番組を渡り歩く。相変わらず俺のことは一切報道されない。殺した相手の顔写真が流れることもない。
まだあの死体は見つかってないのだろうか。飲み屋で偶々あっただけの名前も知らない相手に何故俺はあそこまで激昂してしまったのだろうか。

 夕方を過ぎて、もう夜という時間になる。野球中継がそろそろ始まってしまう。チャンネルを切り替えてニュースを追うのも飽きてくる。結局、俺の名前がテレビに映し出されることはないのだから。もうニュースなんか見なくてもいいのではないか、そんな気すら起きてくる。チャンネルを回す、偶々三にチャンネルを合わせるとまた猿が映っていた。 なんだろう、昨日の番組の続きか、こんな時間に続きなんてやるもんか、そもそも続きをやるような番組じゃないだろう。連鎖するように疑問が頭の中に浮かぶ。昨日夜にみたときには寝ぼけ眼でみていたが、しっかりと頭が動くときにみるとこの番組、普通の番組に比べておかしい。テロップやロゴも映さずに、さっきから五分くらいずっと猿の映像を映している。相変わらず猿は部屋の中におかれた四角いテレビのような物体を凝視している。彼は怒り狂るったり、怯えたり、相変わらず騒ぎながらもテレビの前から一歩も動かず凝視している。一体何があのモニターには移っているのだろうか。
 そのときようやくナレーターの声が聞こえる。
「この猿は自分自身の様子が映し出されたテレビ画面を見ながら、こんなに騒いでいます。」
 そうか、この猿は自分自身の映し出された画面を見て、こんなに騒いでいるのか。
「中々、滑稽な姿です。画面ひとつでこんなに大騒ぎするなんて、なんて愚かな猿だと皆様お思いでしょう。」
 少し嘲り笑うような声を出して、ナレーターが続ける。俺は少し吹き出してしまう。確かに猿にとっては自分の姿など滅多に見たことはないものだろう。しかしながら、こんなに凝視しているのが自分自身の姿だとは。
「猿だから、こんなに愚かなのでしょうか。いいえ、人間でもこんなに…………」
 なんだ、いったいどうしたんだ。いきなり、ブラウン管の出す光が黒と白とのノイズに変わり、画面が切り替わる。なんだ、どうした、国営放送の癖にいきなり放送事故か。心の中で突っ込みをいれながら、切り替わった画面をみて、そんな思考は吹っ飛んでしまった。いきりなり画面は俺が死体を隠した場所へと切り替わっていた。街路樹の中に隠した死体の右手が画面に映っている。
 一体全体どういうことだというのだ。なぜ、あの場所がテレビに映っているというのだ。わからない。テレビをチャンネルを変えようと傍らに置いてあるリモコンに手を伸ばす。チャンネルを三から、どれでもいいはやくこの映像からどこかの映像へと変えてしまいたい。しかし、そんなことは出来なかった。いま、この映像の中で通りかかった人がこの手の存在に気がついてしまうかもしれない、警察に通報してしまうかもしれない。そんなの見たくない。しかし見てなくてはまずいような気がする。チャンネルを握る手が湿ってくる。
 死体を覆う街路樹が揺れる。俺はテレビの前で驚き、体を思わず揺らす。ただの風だった。街路樹の周り誰かが通りかかる。気がつかないでくれと俺は必死に祈る。複数の酔っ払いが近寄ってくる。誰かがふざけて、街路樹へとよりかかる。手が彼の体に触れている。彼らが大声で騒ぎはじめる。街路樹が揺さぶられる、揺れる。彼らの大声につられて、通りかかってくる人々が一々視線をなげかけてくる。酔っ払いの一人が、嘔吐をし始める。下呂が街路樹の中へとしみ込んでいく。死体のあるはず場所へと下呂が少しずつ、少しずつ垂れていく。

 やめてくれ、やめてくれ。もう、やめてくれ。

「ほら、人間にもこんな愚かなのがいるんですね。」
 テレビからナレーターの声が聞こえてくる。テレビ画面が入れ替わる。そこには俺の部屋が映っていた。毛布の中に包まり、惨めに怯えて、四角いテレビの前に座り込んでいる俺の姿が映っていた。
「さて、そろそろこの愚かな犯人を捕まえてましょう。」
 ドアの外が騒がしい。ドアがノックされる。無視する。ノックする音が大きくなっていく。無視する。金属を叩く音が部屋中に響き渡る。毛布をかぶる、手で耳を塞ぐ。鍵が開く音がしたような気がした。俺は毛布をかぶったまま、そこから動かない。毛布の隙間からブラウン管の光が注いでくる。目をうっすらと開き、画面を見る。そこには惨めな男が一人、いた。画面の中でドアから何人もの制服を着た警官が部屋に入ってくる。男に彼らは近づいてくる。間近に近づいてくる靴音。テレビから少しだけ遅れてくる靴音。

「さよなら、愚かなる、さらされてしまった犯人さん。」
 テレビのナレータの声が流れ、エンドテロップとエンディンクテーマが部屋に流れていた。そして、男の叫び声が部屋中に響く。テレビから遅れて響く。
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