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さらし文学賞
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バッドナイト・グッドモーニング

 午前零時、カケルちゃんとベッドイン。ここから先は、十八歳未満立入禁止のオトナの時間。てん・てん・てん、なムツミゴトに、いざ参らんと覚悟を決めたら、やってきたわけ、キャッツアイ。
 カケルちゃん、あたしのブラウスのボタンをはずすのに一所懸命で、気付かない。でもあたしからははっきり見える。薄暗い部屋の隅にいるの、キャッツアイだった。ビジュアル的に。ばっちしメイクのきらきらお目目に、身体にぴったりしたレオタード。また、プロポーションがバツグンなんだ、よりによって。
 まずい、まずい。あたし、このたびカケルちゃんの記念すべき第五十代カノジョに任命されたばっかりなのに。今、カケルちゃんがあのキャッツアイを見たら、絶対向こうに乗り換えちゃう。祝・カケルちゃんに五十一人目のお相手誕生。あたし、ポイ。
 負けられない。これはもう、戦う一手。
 キャッツアイ、ベッドに近寄ってくる。扇情的なモンローウォーク。あたし、腰をねじって、何とかそれっぽいくびれを作る。むなしいけど。
 アピールが功を奏しているのか、カケルちゃん、まだ彼女に気付いていないみたい。あたしのスカートのホックに手を伸ばそうとしている。最初、たしなみとして恥じらってみせてから、それを許す。百戦錬磨のカケルちゃん、そんなところで手間取ったりしない。すっとはずれる。いい感じ。
 でも、キャッツアイ、負けてない。レオタードのジッパー、首のところから、少し下げる。素肌感、アップ。フェロモン、さらに倍。あっ、ダメ。カケルちゃん、顔を上げちゃった。彼女の姿、見えちゃったかもしれない。
 あたし、カケルちゃんにぐっと身を寄せる。キャッツアイ、図々しくもカケルちゃんの背中側に回る。ダメよ、カケルちゃんが四十九人目のカノジョと別れるまで、あたしがどれだけ待ったと思って? あたし、ますますカケルちゃんに密着する。でも、彼女、平然とカケルちゃんに寄り添ってる。
 むっとして、カケルちゃんの鼻の頭に、ちゅっとやってやる。カケルちゃん、いとおしげな表情になってむ、あたしの頭をなでてくれる。きゅん! ああ、もう、きゅんきゅん! この目を細めた顔が、たまらなくキュート! 好き!
 見ると、キャッツアイの姿が見えない。あら、案外あっさり諦めたのね。ふふん、と鼻を鳴らす。と、彼の肩口から、ひょっこり何かが現れた。
 何これ! キャッツアイだった。小さなキャッツアイ。きゅっと縮んで、お人形さんみたい。身長……三センチくらい? あーいまい、なんて歌ってる場合じゃない。ミニ彼女、カケルちゃんの開いた襟元から、服の中に侵入していった。冗談じゃないわよ、何されるかわかったものじゃない。こんなの反則よ。
 そのとき、カケルちゃんが、ちょっとキワどいジョークを言った。普段なら身をよじって恥ずかしがってみせるところ。でも、あたし、はっとひらめいた。「やあだーっ」と言いながら、どーんとカケルちゃんの胸を突く。服の中で、ぷち、というような音がした。へへん、いい気味。舌を出す。
カケルちゃん、ちょっと戸惑った顔になったけど、気を取り直して私の腰に手を回してきた。オジャマ虫は消えた。私も、甘い雰囲気に身を委ねようとする。ここからが本番よ。
ぐっ。脇腹に、硬い感触。横を向く。キャッツアイ。いつの間にか、元のサイズに戻っていて、冷たい眼であたしを見下ろす。その手にあるものは……ピストル? 背筋がぞくっとした。このキャッツアイ、ここまでして、あたしとカケルちゃんを引き剥がしたいの? 
カケルちゃん、助けて! と叫ぼうとする。なのに声が出ない。カケルちゃんは、あたしの襟ぐりから手を差し入れようとするばかり。彼女のことが見えていないの?  
 ピストルの先、あたし。キャッツアイの指、引き金。カケルちゃん、あたしを押し倒そうと力を込める。そんなことしたら、撃たれちゃう。ダメ。
 キャッツアイの口が動いた。その言葉はあたしの頭の中にだけ響く。「彼を忘れなさい」。イヤだ。むくむくと、反抗心が湧いてきた。反抗心? まともに考えて、ここで抵抗するなんて狂ってるよ。銃弾があたしのお腹を貫いちゃう。でも、カケルちゃんはあたしのものだもん! そうよ、愛よ! ラブよ!
 思いの丈ゼンブ込めて、キャッツアイをにらみすえる。撃つんなら撃ちなさいよ。すごすごカケルちゃんを盗られて、たまるものですか!
 あたしとキャッツアイの視線がぶつかる。キャッツアイ、しばらくあたしを見つめて……ため息を、ついたようだった。
 キャッツアイ、肩をすくめた。そして、しゅるんと消えてしまった。彼女は、最後のその姿まで美しかった。悔しいことに。あたしは安堵して、どっと汗をかいてしまった。
 カケルちゃんは、きっと何もわかっていないまま、あたしの肌をまさぐっている。ふふ、うまくいったよ、カケルちゃん。ひどい夜は去って、二人で迎える朝が来るんだ。
 キャッツアイ。彼女は悪魔、オア、天使。
誰が呼んだか、恋泥棒。
 カップルの初夜にどこからか現れては、男のハートを盗んでいく。男に惚れてる女の生き霊って説もあったけど、あたしはやっぱり、男の欲望の権化だと思う。だから、ほぼ例外なく、美女。
 大抵の彼女は、カップルを裂くだけ裂いておいて、ぱっと消えちゃうんだけど、中にはそのまま男と付き合っちゃう、とんでもない奴もいる。どっちのタチが悪いかは、解釈の問題ね。
 でも、不思議なことに、キャッツアイに別れさせられた女の中には、かえって良い結果になった人もいるらしいのね。もっと素敵な男性と巡り合ったり、別れさせられた彼氏がろくでもない男だってわかったり。だからこそ、あれを天使って呼ぶ人もいるんでしょうね。ただ、皆が皆シアワセになるわけじゃ、全然ない。
 そんな不確かなキャッツアイなんかに、あたしの運命、任せられますかっての。
 さあ、カケルちゃん。あたしは、命をかけてあなたを選んだわ。
 カケルちゃんの厚い胸板に、顔をうずめる。力いっぱい、抱き締める。
 あなたはそれほどの価値がある人かしら?
 どうなのかしら、カケルちゃん?
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