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さらし文学賞
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食後にチーズはいかが 

 ビストロ・ル・フロマージュの裏手で、俺は老給仕の胸ぐらを掴んだ。奴が苦しむのにも構わず、ぎゅうぎゅうと締め上げる。
「アデリーヌ嬢のチーズに毒を入れただと?」
「ほんの出来心だったのでございます」
「出来心で済むか」

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「いただきます」

 う~ん、よく寝た。って、あら? なんだか世界が暗い、狭い、足りない、見えない、聞こえない、臭わない、感じない。
 なんでかしらと考えて、すぐに、当然ねと思い至る。今の私には目も、耳も鼻も、体の何もかもが足りてない。
 あらあら困った、と思ったらちょうどいい所に目が落ちてたりして。わあ、運がいいわ、わたし。あ、けど、目が落ちてても、どうやったら私のものになるかしら。んー、んー、なんかおなか減ったし、とりあえず食べてみようかしら。
 あ~ん。DHAって人の目にも溢れてるのかしら?

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人魚

「おい、町はずれの森の湖のうわさ聞いたか」
「んだ、人魚が出るそうじゃないか。なんでも、夜な夜なその湖で、水浴びをしているとか」
「人魚っていうと、不老不死の肉を持つらしい」
「でも、湖に行くと、みんな行方不明になるじゃないか」

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お菓子と刑事のグリム童話

 ふたりは、森の中に不思議な家を見つけました。屋根はビスケットでふいてあり、窓はお砂糖でできているのです。
「いっぺん、かじってみよう」
 ヘンゼルはいいました。

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今日は魚を食べました

「おお、まみかー。久しぶりだな」
「おっおじさんじゃないですか~」

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さわって・変わって

平成20年8月9日午前9時7分 気象庁地震火山部 発表
 平成20年8月9日午前9時1分頃地震がありました。
 震源地は東京都北部で震源の深さは約10㎞、
地震の規模はM7.6と推定されます。
各地の震度は次の通りです………




西川誠と篠田麻衣が瓦礫の下の僅かな空間に閉じ込められて、今日で四日目になる。昨日まで瓦礫の間をすり抜けて聞こえてきていた沢山の呻き声も、今朝にはもう聞こえなくなっていた。「災害救助における命のデッドライン」といわれる72時間が過ぎて多くの生存者が息絶えていく中、二人がほぼ無傷で生存しているのはまさしく奇跡であった。が、それでもやはり生還できる可能性について考えれば、二人の置かれた状況は絶望的であった。
二人が閉じ込められた空間は周りを厚い瓦礫に覆われ、自力での脱出は到底不可能であった。かと言ってこの災害下では救助隊の到着がいつになるとも知れなかった。その上瓦礫を伝ってくる夏の暑さは、二人の体力を容赦なく奪っていった。そしてわずかな食料も尽きた今、二人が口に出来るのはペットボトルで飲む自分の尿だけだった。
この極限状態で西川誠が平静を保っていられるのは、ひとえに篠田麻衣、この女の存在のおかげであった。麻衣は、誠が生まれてから今日までの間に目にしてきた全ての女性の中でも、5本の指に入る美しさを誇っていた。長く艶やかなブラウンの髪。ぱっちりした大きな瞳。鼻筋の通った高い鼻。淡い桃色の輝きを放つ唇。透明感のある白い肌。そして服の上からでも容易に見て取れる均整の取れた体のライン…。そんな女性が今、誠のおよそ1m前で、誠に顔を向けて眠っていた。満足に身動きの取れないこの狭い空間で二人が過ごすためには、そうするしかなかった。寝返りを打とうものなら途端に視界は瓦礫で埋め尽くされ、「ここがいつ崩れるともしれない」という恐怖感に襲われる。だから二人は図らずとも互いを見ながら寝そべることとなった。

麻衣は日に日に弱っていた。今は静かに眠っている麻衣を見て、「何が何でも自分が麻衣を守らなくてはいけない」、誠はそう思った。自分がこの状況で麻衣のためにしてやれることなど何一つないことを、誠は分かっていた。それでも今、麻衣を守ることのできる可能性が残されているのは自分しかいないという事実が、誠に使命感にも似た感情を湧かせた。
「ん…。」
麻衣が起きたので、誠は思わず目を逸らした。
「おはようございます。救助隊まだ来ないんですね……。」
「あぁ…。そうだね。」
麻衣は小さくため息をついてから、土煙でしらっちゃけたピンクのハンドバッグをいじり、小瓶やら何やらを取り出した。
「………麻衣ちゃんはこうゆう状態でも化粧するんだ?」
「いえ、これは化粧品じゃないです。スキンケア用品です。」
「……ゴメン、スキンケア用品って何?」
「化粧品は自分を綺麗に見せるためのもので、スキンケア用品は肌を綺麗に保つための、つまり肌の手入れ用のものです。」
「へぇ。知らなかった。肌のお手入れか。女の人は大変だね。」
「そうですね……………。」
あっさり会話が終わってしまった…そう思いながら誠は目を閉じた。残り少なくなってきた体力を少しでも温存するためには、こうして目を閉じて何も考えないようにして、できれば眠りにつくのが良いと思っていた。


「私…」
少ししてから急に麻衣が声を出し、誠は目を開けた。
「私…夢があって……その……アナウンサーになりたいんです……。」
麻衣は一言一言を搾り出すように話し始めた。
「小さい頃からの夢なんです…。ニュースを読んでるアナウンサーの凛々しい姿に、ずっと憧れてたんです…。だから同年代の子に比べると、物知りなんですよ。政治とか世界情勢とかスポーツとか、ちょっと自信あるんですよ…。」
この三日間で麻衣が自分のことを話すことはなかったので誠は少し驚いたが、何も言わずに麻衣の話を聞いた。
「だからアナウンサーをたくさん輩出している今の大学に入るために必死で勉強したし、髪形とか化粧とか、身だしなみにもすごく気を使っているんです…。」
この状況下でもスキンケアをしていた理由はそれか。
「今年は大学のミスコンにエントリーして、書類選考は通りました。決勝まで残って、そこで優勝できれば、アナウンサーへの道はぐっと近づくと思っています。…夢の実現まで、もう少しなんです。もう少し…。だから、私ここでは死ねません。死にたくない。絶対生きてここから出てみせます…。」
誠はそう宣言した麻衣の目には、さっきまではなかった鋭さが、そしてその奥には、灼熱の太陽の輝きにも勝るとも劣らない、希望の光があった。
「何か急に一人で語っちゃってすいません。ここに閉じ込められてから、混乱しちゃって夢のことなんて忘れちゃってました。でも西川さんに言われて、なんで私スキンケアなんてしてるんだっけ、って思って、夢のことを思い出しました。今までは恥ずかしくて、アナウンサーになりたいだなんて誰にも言えなかったんです。でも、こうして口に出して宣言したらいっそう決意が固まりました。西川さんのおかげですね。絶対ここから出ましょうね。」





麻衣の宣言を聞いて、誠は苛立っていた。麻衣のためなら全てを投げ出そうという誠の悲壮な覚悟を知らずに、生還した後の夢を語る麻衣がまず許せなかった。そして、麻衣を守るという誓いをあっさり破ろうとしている自分自身の身勝手さも許せなかった。何が使命感だ。自分がこの場で持っているのは、「彼女を守れる」という可能性ではない。「彼女を守れる」という……特権だ。そしてここから生還したなら、自分は特権階級から没落する。女の左手薬指の忌々しいその輝きを見て、誠はまた苛立ちを募らせた。





その後誠は、現実と夢想の間を数回行き来し、ある結論を現実に持ち帰ってきた。

『麻衣を食べる。』

周囲と断絶されたこの空間に二人でいても、麻衣は自分のことをこれっぽっちも想ってくれない。そう思うと、誠はいっそ死んでしまいたいほどの深い孤独感に包まれた。そして、彼女を食べて一つになれば孤独感は消えるのではないか、そう誠は考えた。
眠る麻衣を見る。今すぐにでも噛み付きたかったが、もし抵抗されたら彼女の体を傷つけなければならず、それは避けたかった。できるだけ綺麗な状態で彼女を手に入れたかった。
彼女はすでに相当疲弊している。わざわざ自分が手を下すまでもない。
誠は待つことにした。





それから二日が過ぎ、地震発生後六日が経ったが、麻衣はまだ死しんでいなかった。それどころか、あの宣言の後の長い眠りから覚めた彼女の目には、精気が満ち溢れていた。
誠は空腹に耐えかねて何度か麻衣に噛み付こうと身を起こしたが、その度麻衣の鋭い眼力に射られて未遂に終わっていた。予想外の麻衣の回復ぶりに、誠は焦っていた。
そして、今まで全く考えていなかった、ある可能性に気付いてしまった。

―――――――――――自分の方が先に死ぬのではないか?





七日目の朝麻衣は誠の呻き声で目を覚まし、誠の様子を見て絶句した。目に光はなく、頬はこけ、髪の毛は一本残らず白髪になっていた。誠は聞き取りにくい声で、何も見えない、何も聞こえないと訴えていた。麻衣は誠の手を握り、誠の名前を呼んだ。手を握ると「麻衣ちゃんか?」と小さく声を出したが、呼びかける麻衣の声には全く反応しなかった。
誠は触覚以外の全ての感覚をなくしてしまっていた。さらに筋肉もほとんど動かせなくなってしまっており、話すことにもかなりの困難を伴った。誠は最初混乱して呻いていたが、しばらくすると黙り込んだ。
麻衣は大声で泣いた。大声で泣いて誠の手を握る手に力が入ると、誠は麻衣の手を弱々しく握り返してきた。その力が悲しくて、麻衣はまた泣いた。泣いて泣いて、泣いた。そこで西川が何か話し始めたのに気付き、ぐっと涙をこらえた。
「麻衣ちゃん…。俺はもうじき死ぬ。だけど悲しまないでくれ。俺がここまで生きてこれたのは、麻衣ちゃんのおかげだ。麻衣ちゃんがいなかったら、俺はとっくに死んでた。麻衣ちゃんを守らなくちゃいけない、その一心だけで俺はこの状況を生きようとした。だが、ここ二、三日の俺はどうかしてた。麻衣ちゃんを食べようだなんて、大それたことを考えてたんだから…。今思うと、何だか頭にもやがかかっていたようだ…。本当に恥ずかしいよ…。麻衣ちゃん、守ってやれなくてごめ…。今までありが…う…。」
もう声を出すのも限界のようだった。麻衣の手を握る力が弱くなる。麻衣も誠に感謝の意を伝えたかった。地震発生時、恐怖で身動きできず、瓦礫に下敷きになるところだった彼女を、ここまで誘導してくれたのは誠だった。食料を何も持っていなかった彼女に自分の食料を分けてくれたのも誠だった。確かに最近の誠の挙動はおかしかったが、正直に謝罪した彼を攻める気になどなれず、ただただ感謝を伝えたかった。
麻衣は誠の手を握ったまま上体を浮かせて顔と顔を近づけていき、そして、ゆっくり、誠の唇に自分の唇を重ねた。
今の状態の誠に感謝を伝えるには、そうするしかなかった。
弱っていた誠の手が、麻衣の手を強く握り返してきた。

しかし、麻衣はそれに全く気付けなかった。

口付けした瞬間、彼女にとって誠の唇は唇でなくなってしまった。
その感触は、その生物だけが持つ柔らかさは、過去何度も触れたことがありながら、ここ最近は触れていなかった――――肉の感触であった。
途端に彼女を空腹と誠の懺悔の言葉が襲った。相手を食べるなんて考えたこともなかった。しかし言われてみればそれは生きるための一つの選択肢で、自分が今までそれを考え付かなかったことが不思議に思えてくる。
麻衣は誠の唇を奪った。
誠が麻衣の手を、折れんばかりに強く握った。

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