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さらし文学賞
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Not long But short Good Bye

 弾はもう底を尽きた。銃を捨て、一歩、相手ににじり寄る。倉庫の古ぼけた窓から月明かりが差し込む。相手も銃を捨て、こちらへ一歩進んでくる。互いにナイフを取り出し、徐々に間合いを詰めあう。
 間合いは互いのリーチ程度、次の瞬間で殺す(kill)か(or)殺される(killed)かが決まる。俺の永きに渡る戦いが全か無(all or nothing)か、それが決まる。相手の右腕が伸びる。俺の首めがけてナイフの刃が伸びてくる。首の皮が裂け、血(blood)が滴り落ちる。右腕に持ったナイフが奴の肉を左胸の肉を抉っていた。
「地獄(Hasta)で(la)会おう(vista)。」
 奴の最期の呻きにそう履き捨て、心臓に突き刺さった刃を抜き去った。

 倉庫から出ると、満月(full moon)はすでに沈みかけていた。湿った煙草に火をつける。煙が風になびく。沈む月を見ながら、物思いに耽る。十七年間にも及んだ俺の復讐劇(vengeance )は今をもって終わりを告げたのだ。ようやく胸の痞えが取れたような、重みが取れたような、そんな気がするのだ。本当に胸の辺りが軽い、というかなんか穴(hole)が開いている。
 後ろを見ると拳銃(roscoe )を構えた男がいた。それを視認(insight )するや否や、俺は死んでいた。

 おいおい、これはどういうことやねん(oh my god)。

 目(good)を覚ます(morning)と、そこは地獄(hell)だった。本当にここが地獄(hell)なのか知らないが、遠くには針(needle)の山(mountain)やら血(sea)の(of)海(blood)があるし、そこらへんを浮浪者(homeless)のようなおっさんが重労働をしてたり、逃げ回っていたりする。そんでもって、それを監視したり、追い回している鬼(fiend)がいる。小さい頃(my childhood)にばあちゃん(groundma)から聞かされていた地獄(hell)そのものだ。そして、隣には奴がいた、俺が殺したはずの奴がいた。おいおい、長いお別れが短くなっちゃったよ(not long but short good bye)、つか本当に地獄(hell)で会うとか、ないわー。
「おい、てめぇええ。」
 隣の奴が怒り狂った顔をして、今にも俺を殴ろうと構えている。殺された相手が隣にいるんだから、当然である(its sure)。
「ちょっと待て、冷静になれ。」
 復讐を終え、喉に引っかかっていた小魚の骨(bone of fish)が取れたようにすっきりとした俺は奴の顔を見ても何の感慨も湧かない。とりあえず殴られるのは嫌だ、痛いし(its pain)。
「冷静になれるかっつーの! お前は俺を殺したんだぞ、ちゃんと覚えてんのか?」
 しかしながら、奴のむさ苦しい顔を見ていたら、弱冠怒りが湧いてくる。こんなやつへの復讐で人生を終えてしまった自分に。
「おう、分かってる(all right)。つか、お前を殺した(kill)後すぐ(after soon)に俺も死んだ(dead)から、ちゃんと覚えてる(remember)、大丈夫、大丈夫。」
「大体、なんで俺がお前みたいな奴に殺されなきゃならないんだよ。ようやく、俺が奴を殺したと思ったら、いきなり倉庫に入ってきた下手糞な腕で銃をぶっ放すわ、全部外したあげくに、刺し殺すわ。なんか、俺に恨みでもあるのかっつー話だよ、まったく。」
 ちょっと、ちょっと、待て。俺がお前を殺したのは当然恨みがあっての話でなー、第一(first)恨みなかったら唯の殺人鬼(lust murderer)じゃん。つか、お前は覚えてないわけ、お前が俺の大事(sweet)な(lovely)……(senstion)と文句の一つでも言ってやろうかと思った瞬間、後ろに人が突然現れた。また銃を構えた奴が。
「おぇぁっー、あれれ、俺死んだ?死んだの?そう死んだみたいだね、はいはい死体死体。つーか、ちょっと待ってよ、ここどこー?やっほー!ゃっほー!ほぉ……ほぉ……」
 拳銃を構えながら、なんか知らんが妙なことを口走ってやがる。どう見ても通報(taiho)したい。
「おいおい、お前。」
 俺がそいつを見ながら話しかける。
「え、え、え、俺っすか?」
「お前さん、なんで俺をいきなり殺すだけ殺しといて、いきなり地獄(hell)に来てるわけ? 空気(air)とか読めないの?」
 あと、きょどりすぎ。
「え、え、えっと、英語は読めないですけど、俺空気は読めますよって、あ、てめえ!」
 いやそこは重要(important)じゃないから。
「お前って俺の復讐相手なわけじゃん、だからいきなり殺すとか意味わかんないし。」
 いやいや、意味わかんないのはこっちだから。
「いやいやいや、ちゃんと覚えておいてよ。お前みたいなやつのせいで、社長だった俺の親父の会社つぶれちゃって、なんか自殺しちゃったし。まじで勘弁っすよ、どんだけ人の人生計画狂わせてるかわかっ……」
 あれ、そんなこと俺したっけ? あ、なんか奴に復讐する一環として、そんなこともしたような気がする。と思ったら、奴の後ろに鎌を構えた農民風(IKKI)の男が現れた。
「おめぇさんがおでのだいずぃなだいずぃな……」
 なんかよく聞き取れないが、ぐだぐだ言っている間に今度は後ろに背広を着た恰幅のいい紳士(gentel men)が現れた、その後ろに白衣を着た冴えない眼鏡男(mad scientist)、その次宇宙服(cosplayer)着てるわー、え、ランドセル(paedi )しょってるよ、あ、次はボディースーツのブロンドの美人(nice body and sexy woman)か、殺されるならあぁいうのがよかったな……あれ、その後ろ猿?猿顔なだけ?(monkey its face of monkey) 
 
 大体察しは付いた。というか、なんという復讐連鎖(avenger links)、悪循環ここに極まりというところか。まぁ、確かに復讐なんか非合法(illigal)なことやってたら、そりゃ誰かに迷惑かけるはずだよなぁ……。幸い地獄は歩き煙草禁止条例がなかったので、煙草を吹かしながら感慨に耽っていると、ようやく例の奴が俺の方に振り返り、話しかけてきた。どういうわけだか、顔がぼこぼこに腫れてる。
「おい、こっちの話がまとまったから、今度はこっちだ。」
 えっと、何の話?
「と・り・あ・え・ず、一発殴らせろ!」
 口が速いか、手が速いか(mouse is faster hand is faster)、渾身の力を込めた奴の拳(hand)は俺の脳天(head)に直撃。あぁーあ体鍛えときゃよかったな……俺を殺したやつを殴るの大分先になるじゃんか……薄れ行く意識で俺はそう思った。
 

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第八回さらし文学賞 | trackback(0) | comment(0) |


短々とすぎる

「短くしてください」
 知里(ちさと)がそう頼んだ時、その看護師は少し驚いたような顔をして知里の方を振り向いた。知里が細く開けた窓からしゃんしゃんと蝉の声が入ってきていて、看護師は知里のセリフがよく聞こえなかったらしく、少し声を張り上げるようにして繰り返した。
「点滴の管を短くするの?」
「はい」
「動きづらくなるわよ」
 ベッドと点滴台の間でたわんでいる、細く透明なチューブを一瞥し、度会(わたらい)と書かれた名札を付けた看護師は言った。白っぽい寝巻きを着た知里は、首を振って答える。
「いいんです。……血が逆流するの、見たくないんで」
 度会はもう一度知里の手を見やった。白い一枚のガーゼでべとりと固定された手の甲から伸びる管の中には、確かに透明な点滴液とは違う、真っ赤な液体が沈んでいて、ゆるくたわんだ点滴の管を這い上がろうとしていた。
 重力やら水圧やらの問題で、血が勢い良く噴き出すような事はなく、点滴の液は問題なく体に流れ込んでいて、放っておいても問題ないとは知里も十分わかってはいたが、それでも自分の紅が、外へ出ていくのを見たくはなかった。
「管の位置が心臓より下に来なければ、逆流しませんよね?」
 細い管の細い赤をなるべく見ないようにしながら知里は言い、度会は寝返りがうてなくなると忠告した上で、少し肩をすくめた。
「わかったわ。ちょっと待ってて、誰か呼んでくるから」
 するりと度会は病室を出て行き、しばらくしてやってきた主治医に、知里はもう一度同じように頼んだ。

 度会という看護師は、それからもたびたびやってきては、たわいもない事を話して戻っていく。時期外れの小児病棟はがらがらで、四人部屋の知里の病室も、知里以外の三つのベッドは空っぽなままだ。わざわざ西日の当たる場所を提供しなくてもいいのに、と知里は夕方になるたびに思う。
度会は口数は多いが話題は豊富な方ではなかったので、たいていの会話はいつも、天気の話題から始まった。
「短くなったわね」
「夏至は過ぎましたから」
 いつものように知里は答えるが、度会は笑って首を振った。
「日の長さじゃないわ、貴方の髪」
 知里はそろりと髪に手をやった。ベッドの上で過ごす時間は思った以上に長引きそうで、長い髪が枕についているのを見るのが嫌になり、先日病院内にある理容室で切りそろえたばかりだった。
「そっちの方が似合うんじゃない?」
 窓際に立って笑う度会の表情は、逆光でよく見えなかった。もくもくと立体的な入道雲が、ところどころに赤い影を帯びて佇んでいた。

 蝉の声がしなくなり、知里は肌寒くなって窓を閉める。なんの拍子か飛び込んできたアブラゼミの声もしなくなり、知里はカーテンの陰に転がっている無残な虫の死骸を見つけた。
「短いですね」
「蝉の命が?」
 三階の病室の窓から真下を望めば、灰色のコンクリートに、長生きした蝉が一、二匹落ちていた。明日になればそれらも、落ち葉のように掃き清められてしまうのだろう。知里はそろりとベッドから降りて、カーテンの陰の空蝉を自分の棚の中にしまいこんだ。
「誰でもですよ」
 形の崩れた雲がビル群にうずもれた地平線を引きずられていくのを見、知里は答えた。珍しく窓際の位置からでなく、度会は困ったような笑いを向ける。
「短いかどうかなんて、その人次第よ。他人が決めていいものじゃないわ」
「……そう思いますか」
「絶対よ」
 度会は確信に満ちた瞳で言った。知里は不思議そうな顔で、度会を見る。
「……貴方が言うなら、絶対なんでしょうね」
 透明な点滴の管を眺め、知里は言った。

「退院決まったのね、おめでとう」
「ありがとうございます、まさか治るとは思っていませんでした」
「何事も悲観するものじゃないわ、って、前に言わなかった?」
「初耳です」
 度会は笑った。知里も少しだけ笑った。
 夕日が真っ赤に燃えていて、窓際に立っている度会の顔は、いつもと同じで、よく見えない。
「……短い人生でしたか?」
「いいえ、私は満足してる」
 珍しく静かに度会は言った。
 度会は夕日が燃える窓に近づいて、窓枠に手をついて、外を見ていた。紅く染まる彼女の体。知里はまぶしくて額の高さに手を掲げ、あまりの明るさに目を眇め。まぶたの裏に緑の光がちらつくほどの、その赤の中で。
「長々とどうもありがとう」
 振り返った彼女の、夕日に透けた彼女の、最後の言葉を聞いた。
「いいえ」
 知里は答える。心の底から、否定の意味を込めて。礼を言うのはこちらだと、言葉の端々からにじみ出るように。
 夕日が沈んで、ようやく窓の外を直視できるようになったとき、すでに彼女はいなかった。消えてしまった後なのだと、確かめるでもなく知里は理解していた。
 彼女はだって、笑っていたから。困ったように、ではなく、きっと彼女も、心の底から。
 長々とどうもありがとう。
 長々と?
「いいえ、短いですよ」
 登り始めの月は、日の光の名残なのか、鈍く紅い。その橙を見ながら、知里は呟いた。

「四十九日なんて」

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解け落ちた繃帯とキミ

 指先に違和感がある。爪がひび割れたか、ささくれでもできたか、と目を落とすと、指先の皮がぺろりとむけていた。どこかにひっかけてしまったか、と思い、その部分をむしろうとすると、かすかな痛みと共に、するする、と皮がつながってむけた。まるで、まいてあった包帯がほどけるように。
 自分の、見慣れた左薬指を見た。ほどけた指先は、中身がないように、見えた。

 どこまでも指はほどけてしまいそうに思えたから、もとのようにまき直してばんそうこうでとめた。少しまきが緩い不器用なまき方になってしまって、指先の形は歪んだ。ほどけた皮膚をつまんだり、ひっぱったりすると、かすかに痛みが走った。一体どこが痛んだのだろう。もうその指先はないのに。
 恋人に、その指先のばんそうこうはどうしたのか、と訊かれた。切り傷をつくってしまったのだ、と答えた。そういう恋人も、右の薬指と薬指の指先に、ばんそうこうをしていた。

 気付くと、身体のあちこちがほどけていた。ほどけ始めるのは身体の末端ばかりで、何か変だな、むずむずするな、と思っていると、手や足の指からほどけているのだった。日に日に、指先のばんそうこうは増えた。
 恋人も、いつの間にか全ての指先に、ばんそうこうをしていた。そこから、恋人も私と同じであると知れた。私たちは、ほどけ始めていた。

 やがて、身体のほどけはばんそうこうでは押さえられなくなった。ほどけの侵食が酷くなり、指の根元に向かって皮膚がほどけて浮き、指先のばんそうこうでかろうじて身体から離れずにいた。
 そうしてほどけて皮膚は、しばらく一続きにほどけていくが、あるところで、そこにもともと切れ目が入っていたかのように、途切れた。ほどけ落ちて切れ切れになった皮膚の帯は、私よりも恋人のものの方が長かった。恋人の身体は、私よりも速くほどけていった。
 私と恋人は、互いに欠落した体の部分に包帯をまいた。ほどけた部分には、やはり何もないように見えたが、包帯をまくことはできたから、せっせとまいた。

 もう、長らく恋人は外に出ていなかった。出られるわけがなかった。いまや恋人の身体のほとんどが包帯で覆われていた。かつて恋人をかたちづくっていた、ほどけ落ちた恋人の身体は、部屋の隅にひっそりと積み上げられていた。私は恋人につきっきりで、恋人に包帯をまき続けた。
 けれど、ある日ついに、恋人はほどけ切ってしまった。私の身体は、まだ半分もほどけていない。けれど、身体が緩慢にほどけてゆくのは変わらない。
 私の体のほどけ方が短かったばかりに、私は今日も、たったひとりで、自分に包帯をまかなくてはならない。

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青春という甘酸っぱい時は余りに短く、乙女は決断を迫られるっ!

 思えば白球と共に歩んだ青春時代だった。友達に誘われるままに入ったソフトボール部。ミーハー気分で入った友達はすぐにやめてしまったのに、なぜか私は一日も欠かすことなく練習に参加し、二年生からエース。三年ではキャプテンまで務めて、初出場インターハイベスト4の快挙。スポーツ推薦で大学も決まった。極めて順調に見えるし私自身そう思うけれど、どこかほんの少しだけ、彩りに欠けてると思うのは、やはり恋に恋する少女だからなのだろうか。卒業式を迎えた今日も、部活連中との打ち上げしかなく、私に浮いた話など無い。だから、
「ずっと好きでした、先輩!」
 部室に入ったとたんにマネージャーの後輩に告白されたのだって、きっと夢か間違いなのだ。まあ落ち着きなよ、と言う私に後輩君は続ける。
「夢でも間違いでも罰ゲームとかでもないんです! 僕、先輩に憧れてここのマネージャーしてたんです! ご卒業後も、先輩を追っかけて同じ大学入ります! 一生先輩のサポートをさせてください!」
 あまりの熱烈な告白に、特に意識してなかったはずの私の頬も熱くなってきて……

「と、なるはずだったのよ、私の青春! 実際にエースになったし、キャプテンにならないかって誘いもあるのに!」
 ダン! と机を叩く。周りは一瞬こっちを向くものの、す向かい合って座ってる慣れ切った親友は変化なし。
「なんで、ウチは女子高なのよっ!」
クラスに広がるざわめき。目の前の親友も唖然とした顔。
「知らなかったの?」
「ええ、知らないし、気づかなかったわ。選んだのはアナタが入って言ってたからだし、入ってからは白球を追いかける毎日だったし。気づいたのは新入部員リスト見てからよ」
「気付かないとか、そういうレベルの話じゃないと思う」
 やれやれ、と頭を振る友人。
「で『命短し恋せよ乙女』が座右の銘の貴女はどうするの?」
「共学に転校しようかと」
 ふう、と盛大に溜め息をつかれる。
「ココには補欠合格。ソフトにのみ打ち込んで体育以外の成績が振るわない貴女が、編入試験通るのかしら?」
 ちょっぴり想像。全教科全滅のよ・か・ん♪
「じゃあ、男子なのに女子高に入学したっていうご都合主義で」
「面白いわね、その人。見つけたら紹介して頂戴。即刻追放するようにPTAとかに取り計らってもらうから」
「そんなのわかってて紹介できるかー! 第一、いるわけないって私だってわかってるもん!」
 うう、自分で認めて空しい現実。
「つまり、残された選択肢は二つ。白球に全ての青春を捧げるか、女の子でもOKと考えるか……ああ、神はなんて無情な決断を私に迫るのだろう!」
「そんなことで迷える貴方が凄いわ」
「え、そう?」
「そうよ。私は迷わず後者だもの」
「はい?」
 後者って、女の子でもOKじゃあーりませんでしたっけ?
「命短し恋せよ乙女、よ」
 ウインクをしながら自分のクラスへ戻る友人に真意を尋ねるには、昼休みは余りに短かった。
 なので、放課後に聞くのは当然のことである。
「昼休みの、アレ、どういう意味よっ!」
「え? もちろん、私は貴女が好きって意味よ。アイラブユー」
 うわあ、さらりと言われたぁ!
「自分のレベルでは到底届かない学校に頑張って入ってくれたし、クラスが違っても毎日何にも言わずに私のお弁当を食べ続けてくれてるから、貴女も同じだと密かに思っていたのに」
「えー」
 私は確かに親友を好きだけれど、愛してるかと言われるとおよそノーなのですよ。
「なんだ、そこまで意識してくれてなかったか。ま、いいわ。私は今までと変わらないもの。そして貴女は、女の子OKなら目の前に手頃な相手がいるとわかった。うん、どちらにも問題ないわね」
「いや、そんな簡単なこと?」
「ええ。貴女は愛してくれなかったとしても私を嫌ったりしない人だって知ってるもの。気楽よ。さあ、そんなことを胸にモヤモヤと抱えながら、青春の汗を流してくるといいわ。私はその苦悶の表情を遠くから眺めてあげるから」
「な、なんか若干キャラ変わってません?」
「おほほ、そんなことなくってよ? あ、私は告白したってことで、返事は練習後にお願いね?」
 私の返事を待たず、ほら練習練習、私を促す親友。放課後の部の練習今までにないほど球が走ったものの、私はその球より速く逃げ出したかった。投げれば最速、打てばホームランのフィーバータイムな練習が終わると、着替えをと教室に置いた荷物を諦めて帰宅ダッシュ!
「で、返事はどうかしら、マイハニー」
 部内でもトップクラスの私に二人分の荷物を持って平然と並走する親友!
「うっわあ、アナタスカウトしたいくらいだわ。っていうか、ハニーって! どんどんアナタ大胆になってるじゃないの!」
「もう隠してもしょうがないし?」
「聞かれても!」
「で、返事は?」
 どうする、どうするよ私! と言ってもCMのような都合のいいカードは手元になく
「命短し恋せよ乙女! ほらほら、迷う時間も惜しいでしょ!」
 横からは果てしないプレッシャー。やはり神様は無情な決断を迫る。というか、横の人は明らかにYESを迫ってる。
「マネージャーとしか付き合う気無いから!」
「じゃあ、明日からマネージャーやるわ!」
 即決かいっ! 見習いたい潔さですこと!
「男の子がいいなあ!」
「常識に騙されてるわ! 女の子となら子供ができないから、いつまでも変わらない付き合いが出来るのよ!」
「生みの喜びとか考えてみない?」
「生みの苦しみを考えてみよう?」
 論破できないと判断……そして、決断。
「今は逃げるっ!」
「どうせ家も隣同士じゃないのー!」
 ああ、神様、もうちょい落ち着ける選択肢が欲しかったです。
 なんとなく、アーメン。

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チョコレート・ショートケーキ

甘すぎないクリームが一瞬でふわりと溶けた。舌の上にココアのほろ苦さが残る。
本当は、チョコレートはあまり好きではなかった。


「何で葵の買い物に俺が付き合わないといけねえの?」
「どーせ暇でしょ?」
「荷物持ちで暇を潰したくはアリマセン。……彼氏とかいねーの?」
「生意気言うんじゃないの」
達也は紙袋を持って葵の後を歩く。この分だと彼氏はいなさそうだ。
駅前のショッピングモールで、ミニスカートに流行りの服できめた葵は、また新しい流行らしいが、それでも似たような服を買いこんでいた。当然のように達也は連れ回され、達也は文句を言いながらも葵について行く。達也は何を買うでもなく、葵が服を選ぶのを待ち、時々口を出していた。
「達也は彼女いるの?」
「……いないけど、さ」
葵はさらっと質問し、達也は内心ヘコむ。こうして歩く自分たちが恋人同士に見えるのか、姉弟に見えるのか、達也は考えた。

葵は18歳で、15歳の達也の三つ上の姉だが、お互い対等な友達のような感覚だった。他の兄弟の話を聞く限り、自分達は仲のいい姉弟らしい。
「……服の次は、本屋?」
「本は重いから後回しにしてあげたんだけど」
「俺に持たせるんデスカ」
別にいいけど、と付け加えながら達也はツッコむ。
買いたい本があるのだろうかと思ったが、葵はぶらぶらと平積みの本を手にとって眺めていた。
「最近多いね、血液型本」
「買うの?」
「ううん。私、血液型の性格判断、短絡的だと思うし」
そう言いつつ、葵はペラペラページをめくる。
「達也はO型? 世話焼きさんとか言われてるでしょ」
「どーだろ。母さんはマイペースでO型っぽいけど。」
「私なんかAB型だから、変人とか二重人格とか言われ放題で」
達也は笑った。でもそうかもしれない。
「血液型で一番色々言われんのはB型だろ?」
「言えてる。父さんは典型的なB型性格だね」
信じていなくても、この手の話は話題としては面白い。二人は笑った。
でも性格が四種類に分けられるわけないよな、と言いながら、達也は――――
「え?」
立ち尽くした。
確か、生物の教科書に載ってなかっただろうか。
親の血液型は、子の血液型を左右するとかで。
いつのまにか葵は本を平積みの上に戻して、文庫本のコーナーの向こうに消えていた。
B型とO型からAB型は生まれないはずで――?
葵は、俺の――姉じゃない?

「どうしたの、達也?」
雑誌か何か買ったらしい。本屋のビニール袋を提げた葵が達也の肩を叩いた。
「いや、血液型……」
「買うの?」
くりくりとした目で葵は達也を覗き込む。
葵は俺の、実の姉じゃない……。
「何でもない」
「この本そんなに面白くなさそうだしね」
葵は達也にビニール袋を持たせたが、その達也はほとんどされるがままそれを受け取る。持ち方が悪く、袋が不安定に傾いた。
「……どうしたの?」
「あ、葵……O型とAB型って」
この時、混乱していて達也は冷静じゃなかった。
葵本人に訊いて、分かるはずがないのに。
「……って、兄弟じゃ、ありえない、よな」
周りの声が止まったように聞こえない。葵は、達也を見つめた――が。
「何言ってるの?」
「あ、いや……」
説明が足りないと気付き、親の血液型の話から説明しようとしたが、達也は言葉が出てこなかった。
「そんな訳ないでしょ、あ、輸血の話とごっちゃになってるんじゃない? O型はAB型に輸血できないっていう」
「……」逆だと思うが。
達也は目を伏せた。ビニール袋と紙袋を、持ち直す。何も、言えない。
「どうしたの。……私は達也のお姉ちゃんだよ? 間違いないって」
葵の手が、頭を撫でた。
俺の方が背が高いのに、葵の手が俺を撫でるなんて。そうか、靴のせいか、と。葵のミュールを見ながら、達也は思った。

違う。
俺は、葵が俺の姉さんじゃないかもしれないことに戸惑ったんじゃない。
それがどうしようもなく嬉しいと思えたことにだ。
姉さんは家族なのに。家族だから。

「……そっか、俺の勘違いかな」
「そーだよ」
葵は笑った。達也は荷物を持って、顔を上げた。
「じゃ、今日一日付き合ってもらったから達也に何か奢ってあげるねー」
さっさと歩き出す葵を、達也は後ろから追いかける。肩の上で揺れるふわりと巻いた髪から、いい匂いがした。
「ここのショートケーキは美味しいよぅ」
「って、姉さんが食いたい物じゃん」
からからと葵が笑い、達也も笑おうと顔を歪めた。
葵にその顔は、見えない。

調べようと思えば、葵の、もしかしたら達也も、出生くらい調べられる。
でも、本当のことがどうだろうと、調べることに意味はなく。

「私はイチゴにするから、達也は違うの頼んでね」
「一口分けろって……?」
達也は苦笑しながら、葵の好きなチョコレートケーキを頼んだ。


姉でないと知った時に夢を見て。
弟として頭を撫でられたあの時に、夢は終わっていた。
それは甘く苦い、あまりに短い夢だった。

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とある短き年代記

  ☆
「なぁ、俺と付き合ってくれないか?」
「……いいわよ」
 出会いから三年目。訓練校で同じクラスの憧れの彼女に、ようやく告げることができた言葉だった。
 幼い顔立ちだが、恐ろしく成績優秀な彼女。ガタイと運動神経だけが取柄の俺。
 友人たちの下馬評では俺の失恋率は九九.九九九九九九九九%(テンナイン)だったのだが、現実って奴は主人公に寛大だ。もとい誰もが人生の主人公に違いない。
 だが、彼女の言葉はまだ終わっていなかった。
「ねぇ、ところで私は、どこまで付き合えばいい?」
 俺は、彼女に気づかれない様に溜め息を一つ吐いた。この天然娘は。
「…………宇宙の果てまで、かな?」
   ☆ ☆
「ねぇ、私と付き合ってくれない?」
「……いいよ」
 卒業と同時に相棒として共に超光速宇宙探査船に乗り込むことになってから五年。訓練校での出会いから数えたら八年目。彼は、顔はゴツイけど根は真面目でなかなかいい奴だ。加えて暢気でのんびり屋で重度のお人好し。
 一万人の乗船員の中でたった二人のスペシャリストとして探査船の全てを管理している私たちの日常は日々戦争のようで、さすがに最も敬遠される進路なだけはある。何故この道を選んだのかというと、つまるところ何も将来を考えていなかった私をこの船に誘ったのが『宇宙の果て』に憧れる彼だったというだけのこと。未だに自分の夢とか将来ってのがピンとこない。
 旅立ってからしばらくはお互いに慣れなかったけど、今では誰よりも彼を信頼している。そう、いつの間にやら、私の中での彼はかけがえのない大切な人になっていた。だから、うん、『そういうこと』を考えても、別に、おかしくは、ない。どうやら私は本気だ。
「なぁ、ところで俺は、どこまで付き合えばいい?」
 私は、盛大に溜め息を一つ吐いた。この鈍感頭は。
「言わないとわからないの?」
 私の部屋のドアが、音もなくスライドした。
  ☆ ☆ ☆
「なぁ、俺と付き合ってくれないか?」
「いいわよ」
 宇宙に出てから十年。ついに宇宙船は目的地である惑星に到着した。先行していた船の環境機構が既に、惑星の環境を地球並みに整えている。美しい、蒼い惑星だ。
 出発した当初は一万人だった宇宙船の人口は、今や一万と跳んで百三人になっていた。
 驚いたことに、その増えた人口のうちの三人は俺の子どもだ。正確に言うと俺と彼女との子どもだ。彼女の勘違いで俺の一世一代の告白は一緒に同僚として働く誘いとして受け取られてしまったのだが、運命の女神という奴は気まぐれらしい。まぁ、俺にとっては女神イコール彼女なのだが。
 しかし、俺たちの任務は達成された。選択肢は二つ。地球への帰還か、全てがこれから始まる新しい惑星への辛く厳しいであろう永住か。
 蒼く美しい惑星を目にしたときに、俺の気持ちは決まっていた。
「ねぇ、ところで私は、いつまであなたに付き合えばいいかしら」
 胸に抱いた赤子をあやしながら、彼女は微笑みを浮かべている。
「できれば……、孫のそのまた孫の顔を見るまで君と子どもたちと一緒に、ここで生きていきたい。この美しい惑星を護りたいんだ」
 彼女は二度ほど瞬きをすると、笑みを濃くして答えた。
「ねぇ、あなた、そういう『プロポーズ』はもう少し早めに言うものだと思っていたのだけど?
 少なくとも、子作りをする前に」
  ☆ ☆ ☆ … ☆
「ねぇ、私と付き合ってくれない?」
「……いいよ」
 サイハテと名付けられた惑星で人類の歴史が綴られ始めてからおよそ一万年。今日もこの惑星は、暢気過ぎるほどに平和だ。
 二十歳になってから始めてのサイハテ・ダンスパーティで、私は彼と踊った。一貫校を卒業した後もときどき二人で会っていたけれど、ダンスに誘われるとは思っていなかった。このパーティに誘うってことはつまり私のことが好きってことで、それに応じた私も彼のことが、ということだ。
 首都で開かれる年に一度のダンスパーティでは、例年多くのカップルが生まれ、この惑星をますます賑わいのあるものにしている。つまり、惑星を挙げての出会いの場なのだ。さらに言うと、なかなか踏ん切りがつかないヘタれ男どもの背中をせっつくイベントでもある。この惑星の創始者連中はよっぽど物好きだったらしい。
「なぁ、ところで俺はどこまで付き合えばいいんだ?」
 所謂、恋人たちが向かう歓楽街に背を向けて黙々と住宅街へと進む私を、何とも不安げで情けない声が追ってくる。
 本当にこの人でいいのかしら私。まぁいいか。ご先祖様も随分なヘタれだったみたいだし。
「実家まで付き合って。ちなみに、一族眷属み~んなあなたを待ってるから」
「へっ?」
「我が家の数少ない掟なのよコレ。ざっと、一万年前からずっと。家族が増えたら『顔を見せる』ってのが」
「……それって、つまり」
「あと、我が家の血筋って救いようも無いほど言葉足らずだから、覚悟してね!」

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※これはダミーです

投票を迷っていらっしゃる皆様へ

これはダミーです。
どうしても投票したい候補がないとき、こちらのダミーの記号を投票用紙に記入してください。
このダミー投票を行うことにより、他のいずれも入選にはふさわしくない、という意思表示になります。
 無投票よりも、はるかに建設的です。
 他に、投票先に迷って、どうしても決められないときにも、こちらのダミーに一票を入れてください。
 皆様の清き一票を、お待ちしております。


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短い短い世の夜の生

 急げ急げ急げ急げ急げ急げ……まだ鈍い、もっと捷く捷く!
 走れ走れ走れ走れ走れ走れ……まだ遅い、もっと迅く迅く!
 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ……まだ近い、もっと遠く遠く!
 ハヤクニゲロ、トオクヘニゲロと壊れたレコードのような繰り返し。それはもはや意味を失って、ただ不愉快な音の連続に過ぎない。だが単調だからこそ無意識にするりと滑り込み、意識を白く染めあげた。白濁混濁、しだいに視界も濁りゆく。
 遠のく意識を繋ごうとハンドルを強く握り込み、結果加速。幸い高速道には誰もいない。加速加速、遂には疾風を追い抜いて、バイクは猛く嘶いた。
 人馬は一体。機械仕掛けの馬に呼応して、俺の体躯もぞわりと昂る。
 荒ぶ心臓(エンジン)、軋む筋骨(ボディー)。赤熱した血液(オイル)は隅まで漲り、電気信号は神経回路(サーキット)を駆け巡る。
 恐怖はいつの間にか喜悦にすりかわり、喜悦は脳がオーバーヒートするまで加速する。
 だが、まだ遅い。
 追い来るヤツは時速一七〇〇キロ、音さえ退けて疾駆する。それは千年万年、遥か昔から定められた光速に次ぐ絶対速度。誰が逃げきれると言うのだろう。
 それでも逃げるしかない。ただひたすらに、俺は西を目指して馳せて行く。
 静かな高速道に響くのはバイクと俺の駆動音、そしてそれを隠すほどの鐘の音。
 今のが確か、百回目の除夜の鐘。


 きっかけは、およそ一時間前のこと。
 俺はいつものように、ぬくぬくとコタツに埋もれてテレビを眺めていた。年賀状も送り終えたし、大掃除も済ませたし、もちろん年越し蕎麦も食べ終えていた。新年を迎えるに万事抜かりなし。蜜柑を食べるにも薄皮を剥いてやる余裕がある。
 お、除夜の鐘がまた鳴った。無論俺にはそれを数える余裕がある。今のがちょうど五十回目の鐘の音だ。
 四つ目の蜜柑の皮を剥きながら、若手芸人達の馬鹿馬鹿しい挑戦を眺めていると、
『おめでとうございます。笛吹さん、エベレスト登頂です!』
 突然画面が切り替わり、若い女性アナウンサーと屈強そうな老人が映し出された。二人はいかにも興奮してますと言うように紅潮しながら、満面の笑みを浮かべていた。
 アナウンサーの方は忘れたが、老人は確か笛吹はめるとか言う登山家だ。ふざけた名前だから覚えていたが、そういえばエベレスト最高齢登頂記録に挑戦すると騒がれていた気がする。そうか成功したか……お、五十一回目の鐘が鳴った。
 偉業達成の瞬間を今まさに共有したアナウンサーは、むしろ笛吹氏よりも興奮しているらしく、のべつ幕無しに質問を浴びせていく。笛吹氏は『ええ』だとか『そうですね』だとか、困った風に笑いながら相槌をうっていた。そうしている間に鐘が三つ鳴った。
『では最後に。笛吹さんがこの挑戦をしたのは何故ですか?』
『ええ。私はこのとおりの年寄りですから、いつお迎えが来てもおかしくはありません。だからでしょうか、無性に生きた証と言いますか、私という人間が生きていたという証拠が欲しくなったのです。もし皆さんが今世紀を振り返る時、私という男がいたことを思い出していただけるなら、それが生きた証拠となりましょう。それがこの挑戦の二番目の動機です』
 瞬間、俺は雷にうたれたような衝撃を受けた。
 別に感銘をうけたという事はない。『一番目は、其処に山があるから』などとふざけたコメントをする年寄りの生き様に共感する事もない。
 ただ、そう、気づいたのだ。俺は何も成していない。
 もうすぐ訪れる新世紀に浮かれて、今世紀という現実を忘れていた。マズイ、このままだと俺は一世紀を無為に過ごしてしまった事になる。何たる迂闊だ!
 いや、自身を責めている時間はない。もう五十七番目の鐘が鳴った。残り時間はおよそ四十分。短過ぎる。世紀を語るに十分な行いをするには短過ぎる!
 ああ、ああ。どうしようか。
 年越す瞬間跳び上がって、地球上にいなかったと主張する?
 布団を被って、まさかの寝過ごしをしたと嘯いてみる?
 ……ふざけろ、下らな過ぎる。
 こういう時に限って良い案は浮かばない。ああ、鐘が鳴る。時計が進む。もう八分も経った。早過ぎる、短過ぎる!
 残り時間はおよそ三十分。何が出来よう。三十分など、三十分間を有意義に過ごす方法を思案する間に過ぎていく。
 ああ、短い。短い。三十分は短過ぎる! 一年は短過ぎる! 一世紀は短過ぎる!
 苦悩する俺を意地悪く責め立てるように鐘と時計が音を刻む。
 ああ、ああ……そうだ、逃げよう。
 むざむざ新世紀に喰われてなるものか。
 俺はバイクに飛び乗り、ひたすら西を目指して走り出した。


 かくて今に至る。
 落ち着いてみれば、そうだ。誰が明日から逃げられよう。奴は時速一七〇〇キロ出す怪物だ。
 だが、もう意地だ。こうなれば逃げ切るしかないのだ。
 百一回目の鐘の音を聞きながら、さらに加速をかける。限界まで加速をかける。
 けれど、新世紀の足音は、俺を嘲笑うかのように緩々と追いかけてくる。グァーン、グァーンと気味の悪い足音が遠ざかる様子はない。
 ああ、もう百六回目の鐘が鳴る。
 ああ、もう百七回目の鐘が鳴った。
 思わず腕時計を確認する。残すところ、あと五秒。
 ああ、俺は何も成していない。
 何かを成すにも、五秒は短過ぎる。一夜は短過ぎる。
 何かを成すには、一年は短過ぎる。一世紀は短過ぎる。
 ああ、針が進む。間もなく天頂を指す。
 しかしその数瞬前、聞こえたのはクラクション。見えたのはヘッドライト。
 何かを成すには、俺の一生は短過ぎたらしい。


 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……。
 それは、お迎えの天使が奏でるファンファーレにしては随分な音色だった。
 やたら気だるい四肢に力を込めて身を起こすと、其処は紛れも無く俺の部屋だった。点けたままだったテレビがやたら騒がしい。映っている人々は皆満面の笑みを浮かべて、『あけましておめでとうございます』の大合唱。
 ……まさかの夢オチ? しかも寝過ごした?
 ……うわぁ。
 恥ずかしい。恥ずかし過ぎるぞ、これは。穴があったら入りたい。そしてもう埋まってしまいたい。化石になるまで放っておいてほしい。
 もう恥ずかしくて恥ずかしくて、頭がグルグルしてきた。
ああ、もう可笑し過ぎる。もうどうでもいいや。
 そして笑った。とにかく笑った。涙が出るほど笑った。
 笑って笑って噎せ返って、それからテーブルの上に置かれた携帯に気づいた。さっき鳴っていたのはこれらしい。息も絶え絶えになりながら見てみれば、悪友からのメールが来ていた。
『あけおめ、ことよろ! 
お前、年越しの時何してた? 聞いて驚け、俺は地球上には
いなかった』
 噴いた。もう肺に空気は残っていなかったというのに、殺す気か、コイツ。
 空気を求めて、金魚のように口をパクパクと開くという滑稽を演じてから、俺は返信を打った。
 五秒は大事を成すには短過ぎたが、大言壮語を吐くには十分すぎる時間だった。
『甘いな、俺は新世紀を迎えて生まれ変わった。
旧世紀の俺は死んだのだ!
 ああ、それから明けましておめでとう』

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結は母、賢は父

「翔が学校に行かなくなってから、もう…随分と経つのね」
そう呟いた結に、賢は苦笑いしつつ、答えた。
「まだ三日じゃないか」

ゆい結は母、まさる賢は父

「翔が学校に行かなくなってから、もう…随分と経つのね」
そう呟いた結に、賢は苦笑いしつつ、答えた。
「まだ三日じゃないか」

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