さらし文学賞
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【御伽噺】貴きその名、千木良……

 むかしむかしあるところに、特攻服を着込んだ体格のいいお爺さんと、ゴシックロリータと呼ばれる服を着た美しいお婆さんがいました。どちらも若いですが気にしたら負けます。
 ある日、お爺さんが山へ走りに、お婆さんが川へお仕事をしに行ったら、川の上からどんぶらこどんぶらこ、と大きな桃が流れてきました。
「ルチフェル」
 お婆さんが手に持つウサギの人形に呼びかけると、人形から染み出した闇が桃を包み込んで消してしまいました。
「帰ろう、ルチフェル」
 お婆さんが家に帰ると、お爺さんも既に戻っていました。
「ルチフェル」
 本日三度目のルチフェルコールで、人形から闇が染み出し、ヒトカタを作ったと思ったら闇が晴れ、そこには一人の青年が立っていました。
「なんか、おそろしい世界を垣間見たぞ……」
 呟く青年に、お爺さんは油断なく近づきました。
「お婆さん、こいつは何者だ?」
「あれ? 桃を持ってきたはずだったんだけど、人だったんだ」
 その間違いはありえないだろ、とお爺さんの視線が外れた一瞬。青年は距離を取り、手に刀を持って大見得を切りました。
「《夢幻》を操る日本一の男、あ、千木良ぁ」
「桃太郎」
 お婆さんの介入によって、千木良某は千木良桃太郎と相成りました。桃の代わりにいた男の子だから桃太郎だそうです
「いや、千木良――」「桃太郎」「桃太郎だな」
 満場一致でした。桃太郎もすぐに名前が気に入ったようです。
「……家出する」
「おお、早速鬼退治の旅に出るのか! しかし生まれたばかりのお前一人では危ない! 俺たちも一緒に行ってやろう」
「どこをどう解釈したんだよ! しかもついてくるのか!」
 シナリオに逆らえないのが物語の登場人物のサガです。桃太郎は老夫婦の家庭になぜあるのかわからない鎧兜を着け、重すぎるからと肩あて以外を外し、その上から陣羽織を纏い、さらに白衣を着ました。
「じゃ、行こう白衣君」
「……名付けたの、お婆さんだよね……?」
 なんだか先行き不安な桃太郎でした。

 鬼ヶ島への道の途中、茂みから飛び出してきた殺意を、桃太郎はすんでのところでかわしました。目を包帯で覆い、着物を纏い、美しい毛を持つそれはどう見ても人型の犬です。
「……確かに耳も鼻も利きそうだけど」
「前衛だから当たり前だ」
 桃太郎の呟きに答えた犬は、早速鼻を利かせました。
「お前、食べ物を持っているな? 寄越せ、ついでにお前を殺させろ」
「食べ物はいいが、俺は駄目だ。大体、俺よりも鬼を殺す方が多分手ごたえがあるぞ」
「なら、鬼退治とやらに連れて行け」
 桃太郎が想像したよりも簡単に、桃太郎が想像したよりもというよりも全く従順でない犬がお供に加わりました。

 続く鬼ヶ島への道の途中、猿を探せという天の声に従った桃太郎らの前にいたのは、お色気看護婦の猿でした。看護師ではなく看護婦だと本人が主張したので間違いありません。
「雉と本気で迷ったのよ、私。雉はね、辞書に書いてあるの。食すとうまい、性的な意味でって」
「そんなド直球の文言は辞書には載ってない」
 そうだったかしら? と猿は悪戯っぽく笑って続けた。
「人間なんて、結局行為の最中は猿と変わらないでしょう?」
「いや、人間の行為には愛という他の動物にはありえない神聖なモノがあると私は考える。けして猿などと同じではない」
 語りモードに入った桃太郎を、猿は艶やかな笑みで制する。
「猿にだって愛情はあるわ。人間の感性ではわからないだけ。決めつけは良くないわよ。確かに人間はエロ行為に関して他の動物を上回る研究を古来よりし続けていると思うけど、結局最後に子孫を残すための行為という部分は残るし、まあ私としては猿的な部分があった方が興奮するっていうのが本音だけど」
 あ、同性愛はちょっと別枠ね、とあっけらかんという猿に、桃太郎は敗北感を覚えた。エロトークでは、勝てない!
「ぜひ鬼ヶ島に一緒に」
「待て桃太郎。エロトークが鬼退治に何の役に立つんだ」
「止めるなお爺さん! 俺より上回ってる部分がある以上、役に立たないなんてことはない!」
 鬼退治に直接は要らないかもしれない、という部分は隠して熱弁する桃太郎に気圧され、お爺さんは意見を引っ込めました。
「鬼退治にはきび団子がお約束よね、ちょうだい」
「ああ、既に無い」
「は?」
 猿は耳を疑った。次には雉が控えているのに、すでにきび団子が無い? そんな馬鹿なことがあるのだろうか。
「ああ、大飯食らいの犬が、全部食べてしまった」
「そのかわり鬼は引き受けると言っただろう。しつこい男め」
 犬は悪びれた様子もなく、お婆さんから新たな食料を受け取る。それは桃太郎の今日の昼食の予定でしたが、止める間もなく犬の胃袋へと消えました。猿はよく食べるわねと笑顔です。
「まあ、私はもともと戦闘苦手だし、サポート役としてなら」
「それでいい。さあ、行こう」

 こうして、桃太郎一行は猿をつれ、雉探しへと赴きました。半刻も経たず、お目当ての相手は見つかります。
「雉? 奇人の間違いだろ?」
「ご挨拶じゃのう、桃太郎。このように可憐な鳥を奇人とは」
 頭に包帯を巻いた雉は、奇妙な声で言いました。その声と姿に、相容れない物を感じた男一人。心奪われた男一人。
「まったくだぞ、桃太郎! あんなに美しい存在が雉程度のわけがないだろう! さあ、一緒に行くようお誘いしろ!」
「論点ずれてるし、予定調和とはいえ結論がおかしいぞ!」
 桃太郎は全力で雉の加入を拒否したかったのですが、お爺さんの強すぎるプッシュに結局雉をお供に加えました。
「だが、きび団子は無いぞ」
「構わぬ。我も鬼とやらがどんなものか直接見ようと思っていたところゆえな。一人で行くのは怖いしのう」
「大丈夫です、俺が守りますから!」
 いや、一人で十分じゃないか? とか、お前よりも雉の方が強そうだ、とか、そもそもお爺さんも戦う気か、とか、多すぎるつっこみどころに、桃太郎はつっこみ自体を諦めました。

 そして六人は鬼ヶ島につきました。待ち受けていたのは島の面積の半分以上を覆う大量の鬼。犬、雉がまず飛び出し、雉の後を追うようにお爺さんが船から跳びました。猿は船から降りて待機、桃太郎は刀を呼び出して叫びました。
「俺は日本一の桃太郎! 鬼退治に来てやったぞ!」
「《桜花》」
 犬は普通に二本足で立ち、どこからか呼び出した刀で鬼に斬りつけました。人間よりも圧倒的に発達した筋肉は手ごたえが強いものの、超絶的剣技で袈裟がけに両断して一匹目を血の海へ沈めました。振りかえりざまにもう一匹を斬り捨てようとしたところへ金棒が振り下ろされ、頭上で刀で受けました。腕の力瘤一つが犬の頭ほどもある鬼の膂力は、犬の比ではありません。ぎりぎりと嫌な音を立てながら、頭をかち割ろうとします。
「《鬼哭》。《桜花》第一解放」
 受けていた刀身が花弁となって瞬時に爆発、勢いで金棒を押し返すと同時に鬼の懐へ潜り込み、もう一本呼び出した刀で斬り捨てました。元来二刀流ではない犬が《鬼哭》を戻す間に、次に控えていた鬼の金棒に雷が宿りました。
「ただでさえ私を上回る力を持っているのに、その上に武器の解放、いや、遠隔魔術による付与か。いずれにせよ、面白い!」

「ぐおおおおおっ!」
 お爺さんがあっさりと弾き飛ばされる様子を横目に見ながら、雉が冷静に呟きます。
「鬼と名付けられてはいるものの、これはどうやら人形じゃな。混成型で基本の素材は人間。が、筋力は比べるべくもないのう」
 雉の左腕が握り潰されていましたが、雉は瞬時に傷を治すと考察しながら己の武器を呼び出しました。
「見た目に比して強力すぎる。魔術による強化を島を装置として行っておるようじゃのう。互いに邪魔をしない統制は、自己を持たぬ証拠。操り主は高みの見物と言ったところかのう」
 西洋の死神を髣髴とさせる鎌を振るいながら、ぼやく。
「どうにも小物相手じゃが……この数は厄介じゃのう」
 鬼の相手をしながら、雉は魔術の準備に入りました。
 一刻の後、屍山血河を築いた桃太郎一行はほぼ全滅しました。残っているのは、船の上で待っていたお婆さんだけ。鬼の操り主は、彼女をあえて帰す事で、さらに自分の名前を恐怖と共に広める算段でした。
「そんな余裕、貴方には無いのに。ね、白衣君?」
 お婆さんは余裕すら感じさせる表情で、桃太郎の遺体へと笑いかけました。壊れたか、と鬼の主が嗤おうとし、

空気が一変した。

 人形遣いとは、人形に止まらず、全てを意のままに操る者だ。島への侵入者を数と力で排除する行いは、しなやかさに欠ける。侵入から始まり、排除までを全て戯曲的に終えてみせる。
「教えてやろう。人形遣いの真髄を」
 不敵に笑って言ったのは満身創痍で倒れていたはずの桃太郎。鬼の使い手は安全圏で笑う。一人生きていようと、もはや自分の勝利は揺るがないと信じて。
「勝利? 笑わせるな。お前は俺たちの誰にも勝っていない」
 船上のお婆さんがナイフを懐から取り出すと、倒れていたはずの一行が消え、代わりに鬼の骸が晒されていた。猿は船の近くで待機し、三人は負傷しているものの、尚戦い続けていた。
 幻に踊らされていたことは驚いたものの、鬼使いはなおも笑う。どうやら三人は規格外に強かったようだが、鬼の強さ、そして死んでも蘇る生命力という言葉すら超えた戦闘の永続性は、いずれ彼らを仕留めると思って。その思考全てを読み、桃太郎は笑う。お前に勝利など訪れるものか、と。その逆境を撥ね退けるからこその戯曲的展開。桃太郎の頬が自然と緩んだ。
「雉! もういいぞ」
 自分へと迫る腕を鎌で斬り落とした雉へと桃太郎が合図を送ると、戦っていたはずの三人の姿が消えた。今度は幻術ではなく、転位魔術だ。猿によっていつの間にか洋上へと動いていた船の上に、桃太郎以外の全員が乗っていた。
「お前は俺たちが撤退したと考え、逃がすものかと結界魔術を展開する。したければしろ。無駄だ、手遅れだ、終わりだ」
 桃太郎の宣言通りに結界が展開され、一瞬の後に破壊された。鬼ヶ島全土を撃ち抜き尽くす、超広域上級魔術の余波によって。
「『鬼』の強化は見事だった。だが、見事すぎた。あれだけの力を持ちながら自律していない人形をあの数操るには、鬼ヶ島という地形を陣とし、尚且つ術者であるお前が島にいる必要がある。俺としてはお前を探し出して倒すだけでもよかったんだが」
 黒色の光という自然ではありえない「破壊現象」が降り注ぎ、鬼ヶ島をさら地に、鬼を肉片、骨片、そして無へと返していく。残るのは、荒野に立つ桃太郎ただ一人。
「この方が、よほど絵になる終わりだろう?」
 桃太郎はもはやこの世に存在しない相手に対してではなく、戻ってきた仲間たちに告げた。
「この位は当然だな」犬は無感動に答える。
「もうちょっと服をはだけた方がいいわ」猿がエロ視点で言う。
「まったく、派手好きなことよのう」雉が不協和音で囁く。
「白衣君、お疲れ様」お婆さんが拍手で返す。
「いや日本一なんて言うだけあってすげえな。……お宝も何もふっ飛ばしちまったが」お爺さんが苦笑する。
「宝なら手に入れたさ」
 桃太郎は、最高の笑顔で告げた。
「俺達、もう家賊だろ?」

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竜宮の玉匣

 車持皇子(くらもちのみこ)は憂鬱だった。毎晩月を見上げては物思いに耽り、仕事にもろくに手をつけない。家臣は、そんな皇子を思いやることもなく、陰口を叩いた。《蓬莱の玉の枝》事件以来、皇子の評判はあからさまに悪くなっていた。
「こちらは《鬼の眼》と申しまして……」
 来客の熱心な言葉は、居室でぼんやりしている皇子の耳を素通りしていった。
「人に悪事をはたらく鬼を成敗せんと、果敢に挑みかかった雉がえぐりとった、鬼の目玉と言われております」
「そんな話は知らん」
 皇子のつれない態度にも、来客はめげない。
「では異国からの伝来品はいかがでしょう。こちらは《鼠集
めの笛》です。この笛を吹くと、たちまち街中の鼠が集まってくるのでございます」
「ねず公など集めてどうする」
「逆に考えてみてください。これをどこか遠い山で吹かせれば、都全体の鼠を退治することができるのです」
「法螺貝にそんな力があるものか。下げろ」
 にべもなく手を振り、皇子は深くため息をついた。
 この来客は、公文司の匠、綾部内麻呂といった。以前、皇子の恋愛事件に関わり、ある大失態を犯した男である。
 皇子は、意中の姫を射止めるために、《蓬莱の玉の枝》を手に入れるという難題を与えられた。しかし、皇子はそのために危険な船旅に出ようとはしなかった。
綾部は、数々の珍品を収集していることで有名な人物だった。皇子は最初《蓬莱の玉の枝》を買い取ろうとしたが、存在すら危ぶまれるその品を、綾部は持っていなかった。代わりに、優秀な職人でもあった綾部は、腕のたつ仲間と共に偽の《蓬莱の玉の枝》を作り上げた。その出来栄えは芸術的で、皇子は事情を知りながらもそれを高額で引き取る約束をした。
 聡明で鋭敏な感覚を持つ姫も、《蓬莱の玉の枝》が本物でない証拠を見つけることはできなかった。あわや二人が契りを結ぼうかというところで、事件は起きた。綾部ら職人達が、褒賞金を求めて乱入、皇子の企みは失敗に終わったのだった。
 綾部は連日皇子の屋敷に通い、《蓬莱の玉の枝》に匹敵するような宝の数々を詫びとして示した。しかし、皇子はそれを受け入れようとしていなかった。
「こちらはとっておきてです。《ぎやまんの履物》でございます。水を固めたような、美しい素材と造形でございましょう。これは異国の女性が足に履くもので、その背景には麗しい男女の恋物語が――」
「もうよいのだ、綾部」
 陰鬱そのものの表情で、皇子は言った。
「姫との結婚ばかり急いて、報酬の支払いを遅らせていた私がいけなかった。そもそも、帝が姫に接触した時点で、私は退かなければならなくなったはずだ。姫とて、一時は私の妻となったとしても、間もなく月世界に帰ってしまっていたことだろう。お前が気に病む必要はない」
「それでは私の気が済みません」
 そう言いながら、綾部は不審を感じていた。皇子の様子が、平生とはまるで違っていたからだ。皇子はその立場にふさわしく傲慢な人間で、自分の意に沿わない従者などには人目をはばからず罵倒を与えた。現に、綾部の失態直後などは、職人達を拷問せんばかりの勢いであった。それがこうも殊勝になっているのは、姫を失った落胆があまりに激しかったためであろうか。
「……まさか、御髪を下ろされるつもりですか」
 皇子は視線を斜に落とした。栄華を極めた時代の寵児の姿とは、とても思われなかった。
「姫を失った今、現世に未練はないのだ。いや、仏門に入るなどと面倒なことをするより、いっそ頸を縊って……」
「ああ、どうかおやめください。そんな恐ろしいことを」
 狼狽する綾部の前で、しかし皇子は思いつめた表情を崩さなかった。道具さえあればこの場で頸を吊りかねない、いや、一息に舌を噛み切ってしまいそうなほどの鬼気が、皇子からは立ち昇っていた。綾部は反射的に、人を呼ぼうと立ち上がりかけたが、
「他言無用だ、綾部」
 皇子の言葉で、再び座り直さざるを得なかった。
 その時、綾部はふと何かに思い至ったように、自分の顎に手をかけて考え込んだ。しばし沈黙が降り、やがて顔を上げた彼は、皇子に向かってこう言い出した。
「今のお気持ちに、変わりはありませんか」
「もう何日も考えていることだ。説得しても無駄だぞ」
「本気で死をお考えなら……私は、あなたにこれを差し上げてみたいのです」
 そう言って、綾部は小さな箱を袂から取り出した。相当に古いもののようだが、丁寧に磨き込まれたような落ち着いた輝きがあった。皇子は、その箱から目が離せなかった。
「これは?」
「《竜宮の玉匣(たまくしげ)》と申します」
「竜宮とは何だ」
「浦島子の話は、ご存じでしょう」
「ああ」
 皇子は頷いた。貴人の教養と言うまでもなく、有名な物語であった。
「浦島子が連れて行かれた海中の城がある場所を、竜宮と言うのでございます」
「しかし、竜宮とは、あまり聞き慣れないな。それよりはむしろ」
 言いかけて、皇子は口をつぐんだ。その後を綾部が引き取った。
「蓬莱山と呼ぶのでしょう。今はその方が一般的ですから。蓬莱で結ばれたのも因縁ならば、神仙世界の姫というつながりにも奇縁が見えましょう」
「だが、玉匣と言えば……」
「浦島子が竜宮より持ち帰った箱です。その蓋を開いた浦島子は、鶴になって飛び去ったとも、急激に年を取って死んだとも言われていますね。竜宮の――蓬莱山の三日が、地上の三百年であったからだ、と」
 皇子は少し苛立ったように言った。
「何を言いたいのだ。物語りをしたいのならば、子供らの遊び場にでも行くがいい」
「回りくどくなったことはお詫びします。私が申し上げたいのは、例えば浦島子が鶴になるなり死ぬなりしたとすれば玉匣はその後どうなったのかであるとか、そもそも玉匣とはどういうものであったのかとか、そういうことなのです」
「どうなったか? 玉匣はただの箱になってその場に残ったのだろう」
「いいえ、玉匣は浦島子と共に消えたのです。言い直すならば、浦島子は鶴になったわけでも死んでしまったわけでもないのです」
「ではどうなったと言うのだ」
「浦島子は、後の世に行ったのです」
「後の世?」
「後年――未来です」
 綾部は真剣そのものだった。
「時間を移動する装置――もう少し詳細に言うならば、空間に置き換えると螺旋状である時間の、ある一部をまっすぐに貫く、特殊な洞穴の入り口が、この《竜宮の玉匣》なのです」
 皇子には綾部の説明がほんのわずかもわからなかった。
「恐れながら、皇子は《鬼の眼》を、すなわち後世では極めて有名な鬼退治の物語をご存じありません。当然なのです、それは今から六百年後に成立する話なのですから。《鼠集めの笛》の起源は三百年後、《ぎやまんの履物》は九百年後に生まれるものです。蛇足ながら、浦島子の説話は三百年前の出来事です。つまり、《竜宮の玉匣》のふたを開けば、約三百年ごとの時間の地点を行き来することができるのです」
頭が四角くなりそうな説明は、皇子が理解するしないに構わず続いた。
「私は、現在から見て約三百数十年前に生まれた人間です。そこから、今の時代、さらに三百年後、六百年後、九百年後と移動して、次にふたを開いたときには、意外なことに私が元いた時代に極めて近いところに戻っていました。約千五百年の期間を行き来していることになるのでしょう」
「信じられんな」
「しかし、この《ぎやまんの履物》のようなものが、今の世にあると思いますか?」
 皇子は、改めて《ぎやまんの履物》を、冷静にまじまじと観察した。そして首を横に振った。
「妖術の業だな」
「妖術があるとすれば、それは《竜宮の玉匣》です」
 皇子はまだ疑いのまなざしで、
「しかし、そう三百年、六百年と時の経過がわかるものか?」
「後世に行き、そこで歴史を学べば、かなり正確な推測が可能です」
「時間の先に行くというのは、よくわからないな」
「ご自身で体験なさればよいのです」
「私に、他の時代に行けと?」
「恐れながら、どうせ捨てようとなさっているお命です。せっかくならば、違う世を見てみるのも一興ではありませんか?」
 怪しいと言えばこの上なく怪しい提案であった。しかし、皇子は何故だか玉匣に惹かれていた。そのふたを開けたくて仕方がなくなっていた。それに、綾部が皇子を騙そうとする理由も見当たらなかった。
「お前はこの玉匣を失っても惜しくないのか」
「私は老いました。一瞬で三百歳も年をとることは幸いありませんでしたが、時間の移動は身体に否応なく負担を与えるのです。生まれた世には、悲しい出来事が多過ぎて、私はもう存在したくありません。私はこの時代で死ぬことに決めました。ですから、この玉匣は、どうぞ皇子がお納めください」
 綾部の口調は誠実ですらあった。皇子は、ゆっくりと頷いた。
「ならばその《竜宮の玉匣》、この車持皇子がいただこう」
 返答を聞き、綾部はにこりとして、玉匣を皇子に差し出した。そこで皇子はこう言った。
「ところで、この玉匣をわざわざ人に渡そうと言うからには、何かお前にも意図があるのではないか?」
 綾部はちょっと驚いた顔をしたが、鷹揚に話し始めた。
「私には気になっていることがあるのです。皇子が行かれる三百年後に、果たして私はいるのかどうか……?」
 皇子は少し考えた。すぐに頭が混乱してきた。
「三百年後に皇子が行かれ、そこに私もまた存在するとすれば、玉匣を繰り返し使うことによって、人口は増加することになります。ということは、こんな仮説が立てられるかもしれません。今存在する人々は、過去に、いやあるいは未来に、玉匣を使ったためにここに存在している……」
「また難解なことを言う。お前がそんな理屈屋だとは知らなかったぞ、綾部」
 そう言いながらも、皇子は悪戯じみた笑みを浮かべている。皇子は今、これまでの生涯になかった種類の楽しさを感じていた。姫に恋心と占有欲を燃やしたときとは、まるで別人のような心持ちがした。
 皇子は《竜宮の玉匣》のふたに手をかけた。そこで、ふと綾部の顔を見て言った。
「この玉匣を持っていたということは、つまりお前が――」
 言いかけて、綾部が何者であろうと、それはどうでもいいことだと気付いた。少なくとも、今の皇子にとっては。
 皇子はふたを開けた。その一瞬、綾部の口が動いたのが、蜃気楼のように霞んで見えた。

――三百年後に、また会いましょう。

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百姫奇譚 

「やーい、うすのろ!」
 投げかけられる声を、百(もも)は身を屈めて耐えていた。大人は当の昔に畑に出てしまっていて、いじめっ子を止めるものはどこにもいない。それでなくても、父(てて)無し子どころか拾われ子の百は、この村の誰からも好もしく思われてはいないのだと、きちんと百は理解していた。
「そんなに言っちゃ可哀想だぜ?」
 にやにやとした笑みと供に一人が言うのは、決して百を助けるためではない。
「なにせ、『桃から生まれた』から百だもんな! 人間様とはつくりが違ぇのさ」
 ――桃から生まれた。
 それは、桃の木の下に捨てられていた百を拾った老夫婦が、百のために作った話だった。親に捨てられたという辛い事実を、幼い百の目から隠すためのやさしい嘘。
 けれど、貧しい村だった。働ける歳になるまで、子供はお荷物でしかない。そのうえ百は生まれつき白く細く、力の弱い子供だった。百が長じてその様子が露になるにつれ、村人は百を育てることに反対しはじめたが、老夫婦は子供の授からなかった自分たちへの天からの恵みだと言って、決して百を手放すことに同意しなかった。
 そうして百は、同年の子供達から虐められ、大人たちから疎まれ、育ての親である老夫婦に負担をかけていることを心に病みながら、すっかり大人しく卑屈な性格になってしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
 しゃがみこみ、きつく目を閉じて、小さな荒れた手で耳をふさいで、嵐のような罵倒が去るまでただ小さく呟き続ける。二、三の蹴りが腹を襲って、痛みと供に嵐が去るのが常であったため、いっそ百は痛みを願った。
 ざ、と砂を蹴る音がする。身構えた百、けれど悲鳴が零れたのは、百の細い喉からではなかった。
「ッてェ!」
「……聞きたいことがあるんだが、いいか?」
 少年の腕を捻り上げ百から遠ざけるように引き摺ったのは、旅装束を着た青年だった。冷たい視線で子供達を眺め回し、何も起きてはいなかったと言いたげに少年の手を放す。すっかり怯えきった子供達は、及び腰になりながら余所者を見上げた。
「村長はどこにいる?」
「……」
 短い問いだったが、怯えながらも警戒心に溢れた子供達は、視線を交し合うだけで誰も答えようとしない。苛立ったように眉を寄せた青年は、ふとしゃがみこんだまま自分を見上げる百に気がついた。
「……お前」
 百はびくりと体を震わせ、慌てて視線を逃がすように俯いた。青年は気にせずに、百の頤を掴んで顔を上向かせる。子供達が呆気にとられて二人を見つめるなか、青年はほう、と僅かに感嘆したように息を吐いてから、乱暴に百の手をとった。
「村長がどこにいるか、知っているな?」
「……あ、……下の、……畑……」
「なるほど、こちらの道から来たから先に上の村についてしまったのか……。案内してくれるか」
「……」
 子供達の冷たい視線は、余所者の問いに答えた百を責めている。このうえ青年に協力したら、後の虐めは先刻の比ではないだろう。子供達の間に流れる不穏な空気を感じ取ったのか、青年は溜息の後に懐から包みを取り出した。
ふわり、と甘い砂糖の香りが広がると、子供達はいっせいに顔を上げた。村の特産物を買い付けにやってくる商人が、ごくたまに持ってくる甘い甘い飴の香り。子供達にはほんの僅かな欠片しか与えられないが、だからこそ彼らは強くそれを覚えていた。
「ほら」
 青年は包みから一つ、透き通った茶色の欠片を取り出して、無理矢理百の唇に押し込んだ。周りで羨ましげに唾を飲み込む子供達にも、撒くようにして飴を与える。
「……おいしい……」
 百がぽつりと、幸せそうに呟いた台詞が、子供達をとどめていた枷を外した。我先にと与えられた飴を口に含む子供達を横目に、青年はもう一度百の手をとる。
 もう誰も、彼らのことなど見ていなかった。

 百が青年を案内すると村長は深刻な顔つきになり、二人で森の奥、誰にも話の聞こえぬ場所へと消えていった。
 ほかの村人達は仕事の手を止め、くわしい様子を知ろうと百を質問責めにした。百は吃驚してしまってひたすら首を振り、ただ、「飴を貰った」ということしか出来なかった。
 暫くして、村長と青年が戻ってくると、村人達は一様に口を閉ざして百から離れた。農作業に没頭しているように見せる傍ら、警戒心が緊張した空気となって青年を包み込む。
「では、案内に彼女を借りても構いませんか」
 何の話がついたのか、青年は百を見て村長に尋ねた。村長は僅かに眉を寄せてから、「好きにせい」とぶっきら棒に返した。きょとんとする百の前で、青年は言った。
「月の姫のところに案内してくれ。わかるだろう」
 何も考えずに、百は頷いていた。月の姫。この村では知らぬ者のいない名であり、その住処は誰も訪れるものがいないにもかかわらず、村の誰からも知られていた。
(この人は、私をたすけてくれた。役に立ちたい)
 百のうちからそんな思いがわきあがり、歩く速度は張り切る胸のうちを映して速くなった。
「……そう焦るな」
「え、」
「姫の住処までは遠いのだろう。途中で倒れられても困る」
「……私、丈夫、です」
 きょとんとして青年を見上げると、青年ははっとしたように口元に手をあてた。
「……その顔を見ていると、育ちを忘れるな……。だが、その細い身体で言われても説得力が無い」
「ご、ごめんなさい」
「謝るのはいいからもっとゆっくり歩け」
 速度を落とすと、青年が隣に並んだ。
月の姫。村よりも更に山の深くにある小さな庵に、笛師と供に住んでいるという美しい人の話は、このあたりの子供にとっては寝物語の定番だ。
 けれど、姫が何をしているのかは、語られることはない。何故姫と呼ばれるのかも。笛師の作る精巧な笛は都では高値で売れるといい、暮らしはそれで立てていると聞くが、村長が姫を時折訪れる、その理由にはなっていない。
(このひとは、なんなのだろう)
(このひとは、なぜ姫に会いに行くのだろう)
 あんなにたくさん飴を持ち歩いていたことや、着ている旅装束の地味だが上等な生地からも、それなりの身分であることだけは知れる。しかし、商人すら滅多に訪れぬ山間の村の子供には、それ以上は皆目見当がつかなかった。
「……雨羅だ」
「え、」
「俺の名だ。雨羅。……名前くらい、知らねば面倒だろう」
「あ、え、……も、百、です」
「もも、か」
 青年は小さく口の中で呟き、ほんの僅かだけ頬を緩ませた。
「……合った名だな」

 姫の住処は、そこだけ空間が違うような、異様に生い茂った竹林を越えた先にある。道ともいえぬ道を、竹を掻き分けるように進んだ先に、小さな庵が見えた。
 神でも憑いているかのような佇まいに怯えた表情を見せる百を意に介さず、雨羅は躊躇いなく戸を叩いた。しん、と静まり返った竹林に音は響かず、雨羅が声を上げようとしたその刹那に、扉は開かれた。
 立っていたのは、背の高い男だった。がっしりとした体つきで、人を威圧するような雰囲気を身に纏っている。雨羅も、この辺りの民と比べれば背が高いはずだったが、男の前では子供に見えた。
「……笛師殿か?」
「いかにも。何用か」
「姫にお願いがあって参った」
「姫は今横になっておられる。出直して……」
 雨羅の言葉をすげなくあしらおうとした男の視線が、ふと雨羅の後ろに立っている百を捕らえた。
「――百、か」
「は、はい」
 男の低い声で急に名を呼ばれ、怯えた声の返事と供に百は顔を上げた。
(何故私の名を……?)
 不思議に思いながら様子を伺うと、男は先ほどとは打って変わった柔らかな目で百を見つめている。
「……姫に取り次ごう。入れ」
 その言葉は、雨羅にというよりは百に向けられたもののように思われた。二人は、ひんやりとした空気の居間に通され、男は姫がいるのであろう奥の部屋へと姿を消した。
「……知り合いか?」
「い、いいえ。此処に来るのも、はじめて、で」
「そうか」
 雨羅は僅かに考え込んだ。しかし、すぐに、何処か不機嫌にも聞こえる口調で言う。
「なんにせよ、お前を連れてきて良かったということだな。俺だけでは門前払いだっただろう」
(……役に立った?)
 呟くような言葉を聞き、百はぱっと顔を上げた。雨羅の顔は表情らしい表情が浮かんでいなくて不安になるけれど、でも、連れてきて良かったと言われた。嬉しい。
 百が暖かい喜びに頬を染めていたところで、奥の戸が開かれる。男と、もう一人。
 ――美しい人だった。
 黒地に金銀の糸で華やかな刺繍を施した着物を身に纏い、長く艶やかな髪を素直に背に落としている。華やかな装いに対して白い面には化粧気がないが、僅かな白粉でさえもその美しさを壊してしまうことは明白だった。
 涼やかな黒目が、何より先に百を捕らえる。途端に瞳がきらきらと輝き、気付いたときに百はその人の腕の中に居た。
「――え?」
「ああ、随分と大きくなって。思ったとおりの顔をして……おや、腕も足も腰もこんなに細くて、ちゃんと食べているのかい?」
 僅かに低い声ははしゃいで弾み、混乱する百の顔をよく見ようとするように、柔らかい指先が百の頬に当てられる。美しい人は嬉しそうに微笑んで、驚いた顔のまま固まる百の髪を撫ぜた。
「覚えていないようだね。私は香(かぐ)夜(や)。ずっと前から、君の事を知っているのだよ、百。ああ、何から話をしようか……」
「――姫」
 紅を引かずともかたち良く映える唇に指先を当て、止まらぬ話を繰ろうとした香夜を、男の低い声が押しとどめる。香夜は興を削がれたようにむっと唇を曲げたが、もう一人の客人に気付くと仕方がなく、と言ったように百から身を離した。
「……百が来ていると聞かなければ、こんな面倒事に係わろうとは思わなかったのに。……ああ、そんな怖い顔をするんじゃないよ、波琉(はる)。ちゃんと働くとも。働くともさ……」
 香夜はぶつぶつと呟きながら居住まいを正し、真っ直ぐに雨羅を見つめてニッと笑った。

「さて、鬼灰姫退治のお役人様。狭間の香夜に、何を御所望で?」










※ 百姫奇譚・下に続く。
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※ 誰が投票したかどうやって知るのかって? 作者の心に届くのです。たぶん。

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薄紅、散って


 紅が、散った。倒れる骸の前に、青年は立ち尽くす。彼の持つ刀からは血が滴る。彼は何故か、鬼の前から立ち去ることができずにいた。


 薄紅が散った。時は春、卯月の頃。川辺の桜ははらはらと散り落ちる。その桜があまりに見事なもので、この季節になれば川一面に花弁が落ち、川はまるで桃色に染まるようだった。
近くの村に住む媼が、その薄紅の川に洗濯に来た時、水底から赤児の泣き声が聞こえた。媼は不思議に思い、流れの中を探ってみた。手に花びらを張り付けて取り出したのは、男の赤ん坊だった。
媼は驚きながらもその子を家まで連れ帰り、翁に見せ、事の次第を話した。あり得ない事だ、と思いはした。しかし、確かに腕の中で息をしている子を見れば、二人で育てるのが自然な事に思えたのだった。
名を、桜太郎と名付けた。

この老夫婦には、この歳まで子供がなかった。当然村の者は、突然その家にやって来た赤ん坊をいぶかしんだ。
「何処から連れてきた子だ」
「拾ったのでございます」
「何処で拾った」
「村の近くの川の傍でございます」
二人は、冷たい水の中から元気な赤ん坊をすくいあげたという事だけは村人に黙っていた。あまりにも不思議なことであり、人に語れる事ではなかった。
しかし拾い子と言われたところで納得できる村人ではない。その頃に村で身篭った娘はいなかったし、余所者が子を棄てに来れば分かりそうなものだ。
――あの子は得体が知れぬ、関わらぬ方がよい。
狭く他と関わりのない囲われた村の中でひそひそと囁かれ、村人たちが翁と媼の家を避けるようになるのに、時間はかからなかった。

桜太郎は、すくすくと成長した。
翁と媼は、この一人息子が初めて立ったり、初めて歩いたりする度に大いに喜んだ。その小さな手を握り、柔らかな髪を撫でた。
しかしまた、桜太郎が成長するその度に、村人は眉をひそめ桜太郎を睨んだ。
「あの子供、見たか」
「ああ、家の周りを、雀を追いかけ走っておった」
おかしい、奇妙だ。あの子供、拾われてどれほど経つ?
村人の目には、桜太郎は育つのが早すぎるように見えた。そしてそれは、事実その通り。
しかし老夫婦は、ぐんぐん育つ我が子の成長を疑わなかった。たとえそのような子が、どう呼ばれるか決まりきっていても。

薄紅が、散った。強い風は桜を散り急がせる。今年も水面を花に覆われた川に、媼は桶を持って屈み込んだ。
「母様、おれがやります」桜太郎が走ってきて、水を汲んだ桶を軽々と持った。
「ああ、桜太郎、すまないね」
桜太郎は、凛々しい青年になっていた。桶を持っていない方の手を差し出し、腰を曲げてゆっくりと歩く母を支えた。
「今日はね、桜太郎の好きな黍の団子を作ろうね」
「本当ですか。ああ、父様は?」
「家で、薪を用意していますよ」
ではすぐに手伝いに行こう、と桜太郎は思った。
逞しく丈夫に育った桜太郎は、老いで体が思うようにならなくなった両親を助け、慎ましく暮らしていた。貧しくはあったが、翁と媼と桜太郎はこの生活が好きだった。
ただ、静かに暮らしていても村の者が自分達を避けていることはよく分かっていた。今も二人が村の中を横切るだけで、目を合わせないように、顔を背けられる。
「……桜太郎」
「何です、母様?」
桜太郎はできるだけ邪気のない笑顔で母を振り返った。
今更、何とも思わない。村の者がおれを嫌いでも、おれには母様と父様がいる。幼い頃から拾われっ子と貶められようと、おれにとっては、今の母様と父様がおれを大事に育ててくれたことが全てだから。
村の者の囁きを聞かないように、ざあと揺れる木々の音に耳を澄ませた。
桜太郎たちが行ってしまうと、村の者たちは口々に噂した。
――見たかい、見たかい、あの息子。
――ああ見たとも。
村の者は、桜の季節が来るたび、より強く桜太郎を疎んだ。赤児の彼が拾われた春から、今年でまだ七度目の桜だった。

 団子を弁当に山を歩きながら、桜太郎は頭を振った。母様も父様も隠しているが、そして自分も知らないふりをしているが、村の者たちの態度はひどいものだ。自分たちの口にできるものは黍や芋がいいところで、上等な米などは回ってこない。
 自分が村のために働けば、少しは見方も変わるだろうか……桜太郎はそう思い、鎌を片手に山に入った。例えば、村全ての家の分まで、薪を集めるというのはどうだ? 丁度いい大木が目につき、桜太郎は両手でそれをずいと掴んだ。それを軽々と持ち上げ、村まで戻る。桜太郎が帰ってきたのを見た村の娘は、それを見て、驚いた。
「きゃあああっ」
 娘の悲鳴に、村人が何事かと集まる。そして木を丸々一本抱えた桜太郎を見て、ざわめいた。桜太郎は、木を地面にずんと降ろして言う。
「これを、村で分けて薪に――」
 皆まで言わないうちに、桜太郎の顔に石が投げられた。何をするのだと言う間もなく、石は次々降ってくる。
「化け物!」「やっぱり人でねえ!」
 桜太郎は、何が何だか分からない。騒ぎを聞いた翁が慌てて桜太郎のもとに寄るが、その翁にも石は当たる。呆然としていた桜太郎も我に返った。家の中に逃げても、出て行けという怒号が聞こえる。
「ああ、大丈夫かい……」
 媼はおろおろと、桜太郎の頭に傷ができていないかと髪をかきあげた。どこも痛まないよと言おうとした時、つ、と紅が一滴床に垂れた。血だ。
「え? おれ、怪我なんて……」
 媼は手を震わせていた。血は、媼の手から滴っていた。
 がらりと、家の戸が開けられた。村人が叫んでいた。
「出て行け、この――鬼っ子」

 村人は、恐ろしかったのだ。尋常でない様子で育ち、怪力を持つあの男が何をしでかすのか。昔から、人より早く育ちすぎる子供は鬼っ子と呼ばれたが、そんなものではない。
 かき分けたその髪の間から……小さくはあるが、確かに角が生えていた。
「鬼は出て行け!」
 口々にそう叫ばれ、桜太郎は、顔を覆った。出て行くしかない。だが、自分が出て行ったら……老親を思えば、それもできない。けれども、もうこの村に自分たち親子の居場所はない。
 桜太郎は黙って、両親をいっぺんに背負って歩き出した。村人の声はもう耳に入らない。桜の枝の音ももう聞こえない。ただ、母と父が自分を呼ぶ声にだけ頷き続けた。

 この姿では、人里には住めない。山奥では獣が出る。翁と媼をおぶったまま歩き続け、流れ着いたのは小さな島だった。人も獣もいないということであれば、ここくらいしか落ち着ける場所はない。しかし、そんな島には生きていくための物はほとんどなかった。
 丈夫な桜太郎はともかく、歳の為に弱った体には島の生活は苦しい。粥を作る米や、体を温める布団や衣はなく、潮風のきつい島では木もないため、薪も満足にない。桜太郎はしばしばそれらを取りに、否、盗りに行った。必要なものを得ようと思えば、どこかの村や行きずりの者から奪うしかなかった。
「ひ……ひええっ!」
「命だけは助けてくれ!」
 力が強く、体格もいい桜太郎が襲い掛かれば、敵う者はいない。さらに、角を生やした異形の姿に人は恐れをなした。
もちろん、桜太郎も自分が何をしているのか分かっていた。命乞いをされるまでもなく、相手を傷つけないようにした。しかしそれで、逃げ帰った者の口から鬼の噂が広まった。
ある日、臥せっている父と母の横で、桜太郎が飯の支度をしている時だった。刀を持った男が数名、急に島へ乗り込んできたのだ。異変に気付いた桜太郎は、雨風をしのぐのに使っている洞穴から飛び出した。立派な身なりの男たちは、桜太郎を見るや否や、一斉に斬りかかってきた。
「村を荒らす鬼め!」
 桜太郎はひらりと刀をかわした。男たちに掴みかかり、投げる。戦いにもならなかった。桜太郎の力は、人のものとは比べ物にならない。傷つけたくはないが、島まで来た奴らをどう帰らせようか、そう考えている間に、色をなした男達は一旦退いた。
「と、とりあえず、あそこに逃げこめ!」
 男は、洞穴を指した。洞穴には母と父が寝ている。慌てて桜太郎は止めようとした。
「やめろ!」
 怪力で腕を掴むと、男の腕から嫌な音がした。しまったと桜太郎が思った瞬間、別の男がいきりたって斬りかかった。

 紅が散った。
 桜太郎は呆然と、その場に倒れた男を見る。桜太郎の手には、血塗られた刀があった。
 そこからは、お互い混乱状態だった。
 横になっていながらも外の騒ぎを聞いていたのか、媼は、返り血で紅色に染まった桜太郎を見て、悲しそうな目をした。
翁は眠っていたようだった。だが、日が暮れても起きない父を、桜太郎が確かめた時、既に体は冷たくなっていた。

「桜太郎、お前はね、桜の綺麗な日に、拾われたんだよ」
 何度も同じ事を母は繰り返した。それを桜太郎は頷いて聞いていた。
「泣き声が聞こえてね……それで、川の底にいたお前を、拾い上げたんだ。嬉しかったよ……」
 うんうんと、桜太郎は頷いた。
嬉しかった……と、最期に呟いて、媼は息を引き取った。
 やはり――自分は、人の子ではなかったのだ。
人から生まれなかった故に、鬼と呼ばれ、村を追われ。
血が繋がらなくても、人から生まれてさえいれば……!
 独りきりの静寂は、通る声で破られた。
「貴様が、鬼か」
振り向けば、そこには、随分と奇妙な男がいた。刀を提げているが、格好は粗末だ。
また、鬼退治に来た者か……だが、男は一人だった。いや、犬と、猿と、雉を連れているが……。
「成敗してくれる!」
 そう言って、男と動物たちが、飛び掛かってきた。噛み付く犬を足蹴にし、桜太郎は男の腕を掴んだ。
「ぐっ!」
 だが、この前のようにはいかない。男の力は桜太郎の力と、拮抗した。強い。桜太郎は男を睨み、そして分かった。
あの男も、おれと同じだ。
あの男も、人ならざる身の宿命を背負っているのだ。
「お前……名は」
「桃太郎。鬼ヵ島の鬼、貴様の悪名は、おれの村まで届いている」
「こんな島に、大層な名前が付いたものだ」
桃太郎の合図で、一斉に動物たちが向かってくる。まったく、大したお供だ。だが、彼もまた、動物くらいしか、供にできるものがなかったのだと知れる。
 桜太郎は、猿を突き飛ばし、桃太郎に恐ろしい力で組み付いた。
「一つ聞こう。お前の親は、いるのか?」
「おれを生んだ親などいない……だが、爺様と婆様はおれの帰りを待っている……! だから、おれは」
 そうか。
 おれの名は、悪名高い。だからお前はおれを殺すのだ。
 桃太郎はぎりぎりと、桜太郎をまた恐ろしい力で押し返す。隙ができるのも構わず、鬼の形相で桜太郎は叫んだ。
「そうだ、おれが人食い鬼だ! ……さらった婆は食い甲斐がない、丁度いい、お前を喰ってやる!」
 力が緩む一瞬を逃さず、桃太郎は刀を振るった。
紅が、散った。

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桃島太郎列伝


 むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは、川に洗濯に行きました。
 おばあさんが川で洗濯をしていると、川上からどんぶらこ、どんぶらこと、大きな桃が流れてきました。おばあさんはびっくりしましたが、おじいさんへのお土産にしようと思い、その桃をむんずとつかむと、家へと帰っていきました。
 家に帰っていたおじいさんは、大きな桃を見て、これまたびっくり仰天。
「おばあさんや、どうしたんじゃ、その桃は」
「洗濯をしていたら流れてきたんじゃ」
「それにしてもおいしそうな桃じゃ。さっそく食べようじゃないか」
 おばあさんが包丁でその桃を真っ二つにすると、どこからか、聞きなれない声がします。おそるおそる桃の中を見てみると、赤ん坊が、元気よく産声を発していたのです。
「こりゃたまげた。桃から赤ん坊が生まれるなんて」
「おじいさんや、わしらでこの子を育てよう。名前は、桃から生まれたから桃太郎でいいじゃろう」
 こうして桃太郎は、おじいさんたちの手で育てられることになりました。
 それから幾年か経ち、桃太郎は立派な少年になりました。その折、世間では鬼が悪さをして人間たちを苦しめているという噂が流れていました。おじいさんとおばあさんは、あまりの恐ろしさに、夜もろくに眠れません。それを見かねた桃太郎は、ある決心をしました。
「おじいさん、おばあさん。おら、悪い鬼を退治しに行くだ」
「そうかい、それは頼もしいのう。よし、ならばわしが若いころに使っていた刀をやろう」
 おじいさんはおしいれから、年季の入った日本刀を取り出し、桃太郎に渡しました。
「わしからはこれをやろう。これは、異国の男が使っていたという魔法の笛じゃ。偶然手に入れて、大切に取っておいたが、何かの役に立つかもしれん。困ったときに吹くとよかろう」
 そう言って、おばあさんは、桃太郎に笛を手渡しました。
「おじいさん、おばあさん、ありがとう。おら、絶対鬼を退治してくっからな」
 桃太郎は、更に「日本一」と書かれた大きな旗を背負い、意気揚揚と旅立っていきました。

 桃太郎が旅を始めて三日目のことです。おばあさんが作ってくれたキビ団子を食べながら歩いていると、浜辺に到着しました。鬼の本拠地である鬼が島は、海の上にあるので、船かなにかで、海を渡らなくてはなりません。どうしたらいいか、途方にくれていると、子供たちの騒ぎ声が聞こえてきました。
 そばにいくと、子供たちが寄ってたかって亀をいじめているではありませんか。
「こら、亀をいじめちゃだめじゃないか」
「うるせぇ、いい子ぶるんじゃないやい」
「そうだ、そうだ」
 子供たちは、全く聞く耳を持ちません。困ってしまった桃太郎。ふと、おばあさんが言っていたことを思い出しました。
「そうだ、この笛を使えば、なんとかなるかもしれない」
 桃太郎は、さっそく笛を吹いてみました。すると、さっきまで亀をいじめていた子供たちが急に大人しくなり、桃太郎の後に一列で並びました。桃太郎がそのまま数歩歩くと、子供たちもあとについてきます。
 これはいいやと、桃太郎。このまま山まで連れて行こうかと思いましたが、それはかわいそうなのでやめました。その代り、亀をいじめたバツとして、村の中の適当なところに置き去りにしました。
 桃太郎が戻ってくると、亀は涙目で何度も頭を下げました。
「ありがとうございやす。この御恩はなんとしてでも返させていただきやす」
「そうか。ならば、頼みごとがあるんだ。おらを鬼が島まで連れてってくんねぇか」
「お安い御用です。さあさ、背中にお乗んなさい」
 こうして、桃太郎は、亀に乗って、鬼が島まで向かうことになりました。

 しばらく進んでいくと、鬼の頭をかたどった、おどろおどろしい島が見えてきました。
「あれが鬼が島ってやつだな」
「桃太郎さん、全速前進で行きますよ」
 やがて、鬼が島に上陸すると、一人の娘がうずくまって、涙を流していました。
「どうしたんだ」
 桃太郎が声をかけると、娘は、おそるおそる顔をあげました。その顔を見て、桃太郎は息をのみました。この世のものとは思えない、なんとも美しく、かわいらしい顔立ちだったのです。
「ああ、もうすぐ天から迎えがくるというのに、なんで鬼に捕まらなくてはならないのかしら」
 詳しく話を聞くと、その娘は、竹から産まれ、おじいさんとおばあさんの手で大切に育てられたのですが、ある日、鬼がやってきて、あっという間にさらわれて、ここに来たとのことです。
「隙をみてなんとか逃げ出したけれど、海を渡れずに、立ち往生していたの。それに、もうすぐ、鬼たちが私を探しにやってくるわ」
 娘の言うとおり、間もなくして、赤鬼と青鬼が、棍棒を携えやってきました。
「小娘、こんなところにいたか」
「なんだ、その小僧は。大鬼様では不満というのか。なんという欲深な娘だ」
「ふざけないでよ。私は、鬼の嫁になんかならないわ」
「そうだ。女の子を困らせる悪い鬼は、おらが成敗するだ」
 桃太郎は、娘をかばうように進み出て、刀を構えました。それに負けじと、亀も牙をのぞかせます。
「人間が俺達にはむかうだと。おもしろい、返り討ちじゃ」
 赤鬼が棍棒を振り上げたその時でした。桃太郎は目にもとまらぬ速さで、赤鬼の腹部を切り裂きました。一方、亀も、棍棒を甲羅で受けながらも、青鬼の足にくらいついています。
「やや、侵入者だ。それに姫もいるぞ」
 騒ぎを聞きつけた鬼たちが続々とやってきて、負けじと桃太郎に襲いかかってきました。
 集団で挑まれては、さすがの桃太郎も万事休すと思われたのですが、人間離れした剣さばきと体力で、鬼たちを一心不乱に倒していきます。鬼たちの大部分が戦闘不能になり、桃太郎が息をついた時でした。
「なんだ、貴様らは。人間ごときに負けるなどだらしがない」
 雷と聞き間違えるほどの怒声を発しながら、今までの鬼より二回り大きい、大鬼が現れました。
「おめぇが、鬼たちの親分だな」
「いかにも。俺様の子分を倒したその実力はほめてやろう。だが、俺様はそうはいかんぞ。貴様を倒し、姫をかえしてもらおう」
「だから、私はあんたの女じゃないって」
「危ないから下がってるっぺ」
 思わず言い寄った娘を制し、桃太郎は再び刀を構えます。
 鬼たちの親分だけあり、大鬼の強さは半端ではありません。桃太郎の攻撃は、すべて棍棒で受け止められてしまいます。桃太郎も、大鬼の攻撃をなんとか刀で防いでいるのですが、圧倒的な腕力の前に、次第に追いつめられていきます。亀もかみつきで応戦しますが、大した効果はありません。
 戦いは長引き、太陽が沈み、月が顔を出しました。一旦間合いを取り、攻撃の機会をうかがっていると、亀が唐突にこんなことを言いだしました。
「そういや、今って何時でしたっけ」
「分かんね。そろそろ子の時じゃねぇか」
「そうっすか。なら、この勝負いただきです」
亀がにやりとほくそ笑んだ途端、突如白い煙が辺りを覆いました。必死に煙をかきわける一同。煙が晴れると、そこに亀の姿はありません。代わりに、端正な顔立ちの青年が六尺棒を携え、鬼と対峙していました。
「驚かせてすまない。実は、魔法使いビビデバビデブーによって呪をかけられているんだ。こいつのせいで、十二時から一時間だけしか、本来の人間の姿になれないんだ」
「じゃあまさか、今までは仮の姿だったってわけ」
「そういうこと。この浦島太郎が来たからには、お前なんか、海の藻屑にしてやる」
 浦島太郎と名乗った青年は、果敢に大鬼に挑みかかっていきます。桃太郎も遅れをとるまいと、切りかかります。浦島太郎の介入で、一気に形勢逆転。あの大鬼がろくに攻撃できず、防戦一方です。
 それでも、大鬼は、自慢の体力で、すべての攻撃を受け切り、浦島太郎の呪が発動する限界まで持ちこたえました。ここで、浦島太郎が亀に戻ると、体力が尽きかけている桃太郎が勝つのは至難の業となります。なんとか、次の一撃で、大鬼を倒したいところ。桃太郎と浦島太郎が同時に攻撃に出ようとしたその時でした。
 天空から、一気に昼になったかのような強烈な光が降り注ぎました。一同が仰ぐと、上空で、見慣れぬ羽衣をまとった数人の若者が雲に乗っていました。
「姫君、こんなところにいらしたか。さぞかし、汚らしいところゆえ、気分を害されたであろうよ」
「いえ、父上、私は大丈夫よ」
 娘がそう答えると、光の粒子がそっと、彼女を包みこみました。
「なんだ、貴様らは。俺の女をどうする気だ」
「答えを求めるか、外道め。我々の姫君を拘束するなど、言語道断。その命、存在するだけでも虫唾が走るわ」
 天空の若者が、大鬼に手をかざすと、激しい稲光がはしりました。それに当たった大鬼は、悲鳴をあげることも許されぬまま、一気に灰となりました。親分が瞬殺されたのを見て、残りの鬼は、あたふたと逃げていきます。
「桃太郎だったわね。私を守ってくれて、どうもありがとうございます。私は、天女一族の末裔。だからもう、戻らねばならないの。もう、お別れね」
 娘、否、かぐや姫は、嗚咽をもらしながら、別れの言葉を告げました。しかし、
「なんで、お別れするだ。おらも、天空で一緒に暮らすだ」
「ちょっと、天界に人間が行くなんて……」
「いや、姫を守った勇気ある少年。姫の婿に値する」
 突拍子もない、天空人の発言に、かぐや姫は、顔を赤らめました。
「ちょっと待て。それならこの俺も……」
 浦島太郎が、かぐや姫に手を伸ばしかけた途端、呪が発動し、亀に戻ってしまいました。
 桃太郎とかぐや姫は、光に導かれ、ゆっくりと天に昇っていきます。
「じゃあな、浦島。おまえの分まで幸せになるけろ」
 亀が口惜しそうに見送る中、桃太郎ははるか天空の世界へ旅立っていきました。
 こうして、桃太郎は天空人となり、かぐや姫といつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。
 

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第十一回プロジェクト報告会


「社長、報告会の準備が出来ました」
 秘書の一言で、社長は没頭していたマインスイーパーから意識を切り離した。
「そうか。すぐに行く」
 重々しく答えながら、画面を埋め尽くす×印に顔をしかめる。
(右ではなく左が正解だったか……。)

 会議室には直属の部下たちが待機していた。これまでに重ねられた報告会は十回にも及び、いよいよ今日はその集大成を社長に報告するという重要な会議である。皆、それぞれに疲れが見え隠れしている。
(おそらくこのプロジェクトのために寝る間も惜しんで調査してくれたのだろう。あとで美味しいものをおごって労わなければ。童心に帰れる駄菓子でどうだろう。安いし。)

 秘書が、社長が定位置に着くのを見計らって進行役に合図を出す。お調子者の進行はウインクをしてみせると全体に一礼をしてから報告会を始めた。社運を賭ける、一大プロジェクトの是非を問う報告調査会である。この報告会の内容によって、プロジェクトを本格的に開始するか否かが決定する。
 進行が、世界的経済の流れと自国におけるエンターテイメントの傾向を分析したレポートを読み上げる。社長以外の全員にとっては今更な内容である。さらに時代の流れに沿って我が社が担うべき役割を高らかに歌い上げて、具体的な報告に移った。

 進行役が爽やかな声で有能な社員たちの名を呼び、報告が続く。
****************************
*  以下、極秘文書につき上位役員以外の閲覧を禁ずる *
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  【報告一、日常から隔絶した『冒険』に飢えた人々】
 まず、最初に私が述べさせていただきたいのは、現代人が『冒険』に飢えているということであります。携帯電話やインターネットから始まった技術革新の波は人々の生活に素晴らしい利便性をもたらしましたが、同時に『冒険』と言える様なスリリングな体験からは隔絶してしまっています。
 当然のことながら、エンターテイメントである以上『安全性』は絶対に不可欠であります。しかしながら、安全ではありながらも、常に飛び交う電波のやり取りに煩わされる現代社会から隔絶した別世界の提供こそが、現代人が心の底で求めているものではないでしょうか。
 故に、このプロジェクトでは携帯電話を始めとする電子機器を完全にシャットアウトし、日常とは一線を画した別世界での『冒険』に没頭していただきます。これが私の主張する『電子機器シャットアウト』であります。

  【報告二、欧米文化には飽き飽きしている】
 つづきまして、わたくしが主張させていただくのは果たして何を提供するかと言う点であります。もはや周知の様に、わが国の文化は欧米諸国の影響を十二分に受け過ぎてしまい、伝統的で素朴な味わいが損なわれて長いことになります。今こそ、原点に帰る必要があるのです。そう、母親が寝物語に語った昔話をおいてふさわしいものはありません。
 当然、世界で最も展開されているキャラクターテーマパークはあのネズミであります(苦笑)。ネズミが主役だなどという欧米諸君の衛生的な感覚にはあえてここでは触れませんが、やはり人間がその知恵と勇気、そして友情によってハッピーエンドを勝ち取ることこそ、テーマパークのあるべき姿ではないでしょうか。

  【報告三、社長の先見性】
 私が最大限に述べたいのが、このプロジェクト混迷時の社長の指導です。私たちに『ももたろう』『うらしまたろう』『かぐやひめ』をよく読むようにとおっしゃった社長の先見性が、既存のテーマパークを多少捻ったような考えに凝り固まっていた私たちの思い込みを打ち破ったのです。
 私たちが未だに方向性も定まらないでいた中、社長は数歩先の展望に立っておられた。その堂々たる立ち居振る舞いが、私たちにとって揺ぎ無い灯台そのものだったのです。
(感極まって発表者の声が詰まる)
 失礼しました。
 私はこの一大計画を何としても成功させ、新たな娯楽のあり方を世界に対して堂々と示していきたいと思います。

  【報告四、ももたろう・うらしまたろう・かぐやひめ】
 では、私からの報告は先に社長から提示された三作品の参加型テーマパークへの展望を具体化した案を述べさせていただきます。

 まず、『ももたろう』ですが、桃型の船での川下りが考えられます。当然、先の報告の『冒険』を重視して、説明や搭乗員などは一切なしで乗っていただきます。最大の関門は老婆型ロボットが振り下ろす包丁を如何にしてかわすか、というスリリングなものになります。
 また、抽選で犬、猿、雉役になった方と協力して数々のトラップを潜り抜け、与えられた僅かな食料である『きび団子』を上手く配分しつつ鬼が島までのサバイバル生活。当然、鬼役も抽選でハズレを引いた方にこなしていただき、最後はお互いに本気で闘っていただきます。あ、もちろん怪我などは無いように、スポーツチャンバラ用の竹刀を支給します。
 ここでは新たな友情とライバルとの死闘によって、現代人の眠れる力を呼び覚ますことになるでしょう。コミュニケーションを不得意とする方でも、ここでの体験が大きな一歩として日常生活に帰ってからも役立つはずです。

 続いて『うらしまたろう』ですが、こちらは少々大人向けの展開を用意します。敷地内の至る所で、処かまわず『イヂメ行為』を行うのです。もちろんこれにはスタッフを選び、必ずそれを目撃する人がいるようなタイミングで行います。そこに勇気を出して物申した方にだけ、秘密の竜宮城への切符を渡す、という仕掛けです。
 竜宮場内では一般社会では滅多に味わえない最高級のおもてなしでお迎えします。お望みであれば、いわゆる十八禁な対応もしていきます。
 そして重要なのは、お帰りの際に玉手箱の替わりに竜宮城での行動を記録したメディア媒体をお渡しするという点です。あなたの行動はすべて記録されていますと告げると共に、一切の他言無用を受け入れていただきます。これによって噂を頼りに勇気を装う輩や、マスメディアの五月蝿い取材などを未然に防げるでしょう。人によってはその記録の存在に髪を白くしてしまう人もいるかもしれませんが(笑い)。

 最後に『かぐやひめ』ですが、これは昨今のわが国の少子化対策としましても、若者にとっての出会いの場の提供にしていきたいと考えております。かぐや姫にエントリーした方は、彼女に対する婿役にエントリーした方々に対して『御所望』を告げるのです。そして、かぐや姫のご要望に応え、見事その心を射止めた方がいれば、月に帰らずにご成婚という形にします。
 男性の方にだけ厳しくも見えますが、あくまで『冒険』の提供を怠ることがないようにしていきます。そのため、お爺さん役の方も同時に募集し、竹刀を持って常に婿候補を妨害するようにします。同時募集のお婆さん役の方には、かぐや姫に対して厳しい花嫁修業を施して恋が叶った時のために万全を期していきます。
 お爺さん役、お婆さん役には第一線を退きながらもまだまだ現役を張れる方々を多く勧誘し、第二の人生としての生き甲斐にも繋がるでしょう。当然ながら、託児所としての機能も完備して、幼いかぐや姫を育てるというシチュエーションもしっかりとカバーし、お客様にはお子さんの面倒を見ることからも一時的に解放された本当の『冒険』に没頭していただける機会を与えられます。

 他にも『かちかちやま』や『つるのおんがえし』など、多くの昔話を題材に研究を重ね、すべてをエンターテイメントとして結実させていく予定です。
****************************
***  第十一回プロジェクト報告会 議事録  ****
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 社長はすべてを聞いて、ただ力強くうなづいた。そして、彼の部下たちにとってはそれだけで十万倍の力添えを受けるのに等しかった。
 こうして、長時間にわたる報告会は部下たちの万歳で終了した。
 終了後に社長の指示で秘書が駄菓子を用意し、参加者に振舞った。
 すでにテーマパーク内で提供する食に関しても手を打ち始めているのか、と参加した部下たちは社長の底知れぬ先見の明に感服していた。

 一夜明けて、早朝。
 秘書室で社長の仕事の一切を支える秘書が報告書に目を通す。
「本日より、プロジェクトは本格展開を開始いたします」
 簡潔な一言に続いて、具体的な土地の確保や、人材の確保、メディア戦略などが事細かに記されていく。国家予算レベルの額が、社長の決定を受けて急速にうねりだしている。
 秘書は溜め息をついた。彼女だけが、社長が考えていることを知っている。
 正確には、『社長が何も考えていない』ことを知っている。
 社長が発した意味の無い言葉をこじつけて意味のあるものにしているのは彼女である。
 今この瞬間も、部下たちは遂に動き出したプロジェクトに命懸けで取り組んでいるが、朝の六時に社長は、
(自宅で、寝ずに桃鉄をやっているのではないかしら。それとも、最近出たばかりの最新のRPGに夢中か。それでもなければ、布団の中だわ。)
 すでに本日何度目かの溜め息をした時、ノックの音が響き、昨日の進行役が顔を出す。
「やぁ、相変わらず早いね」
「お互いに、ね」
 ぶっきら棒に挨拶を交わす。有能な秘書であるという猫をかぶらないで済む極僅かな人間だ。本当の社長を知る人間でもある。加えて、ほんの数時間前まで二人きりで同じ部屋にいた仲でもあったのだが、そんな様子はお互いに微塵も見せなかった。
「昨日は焦ったよ。親父の奴、最後は完全に寝オチしてただろ。ちょうどいいタイミングで頭が下がったから『社長が力強くうなづいた』っていうことで綺麗に収めたけどさ。しかし、君と俺とで何とかごまかし続けてきたが、そろそろいいんじゃないか? 息子の俺から見てもここまで会社が回っているのは君の実力と親父の強運以外の何物でもないぜ」
 言われるまでもない。わかりきったことだ。でも、
「まだよ。私は社長に命を救われたの。まだその恩は返しきれていない。だから、これからはあなたにもしっかりとプロジェクトに参加してもらいます。今までみたく『進行役』みたいに逃げさせはしない」
 秘書は一瞬だけ目を細め、声を落とした。
「ただし、プロジェクトが軌道に乗ったら、私も『かぐや姫』にエントリーするつもり」
 それを聞いて、元・進行役の目が輝く。既に何度かプロポーズを断られていた。それも、『まだ早いから』と。
「つまり、俺もそこに婿役でエントリーしろってことか」
「解釈はご自由に。でも、私の要望は、たぶん一番厄介よ?」
 一瞬だけ、秘書の顔ではなく年相応な女性の顔で男に問い掛ける。男は満面の笑みで言い返した。
「まぁ、これだけ滅茶苦茶なプロジェクトを本気でやろうとするよりかは、厄介じゃない。そうだろ?」
 未来のかぐや姫は有望な婿殿の目を見つめ、ゆっくりと微笑んだ。
「えぇ、もちろんよ」

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新聞記事


 一二八四年六月二日(月) 
最近、我らが町にネズミが爆発的に繁殖しているのはご存知だろうか。「ネズミから町を守る会」の関係者の話によると、現在ハーメルン市全体で二千匹に及ぶ数のネズミが生息し、現在も増え続けているという。この数は決して大げさではなく、むしろ過小評価だという意見もある。ネズミは夜になると、多くの住居に侵入し、その食物や衣類等を荒らす。
どうしてこれほどネズミが増えたのかについて、守る会会長のビュッテル氏はその拳を強く握り、怒りで顔を真っ赤にしながら次のように本紙記者に述べた。
「やつら(注:ネズミのこと)は恐ろしい×××の使いじゃ!絶対に絶対に抹殺しなければいかん」
このビュッテル氏の見解に対して、市民からの尊敬があついマルクト教会の司祭は次のように警告している。
「かの哀れなものたちの出現こそが使徒の予言された終末の到来を示しているに違いありません。彼のものたちは罪深き我らに対する警告を発しているのです。されど迷える仔羊たちよ……試練を恐れてはなりません。自らの罪深さを深く知り、耐えるのです。そして彼の哀れなものたちを愛すのです。」
司祭はわたしたちに密かに神聖なる「しるし」までがネズミに夜食べられてしまったと話してくれた。そしてそれこそがネズミが神の使いである証拠だとも。もし神の敵なら、決してそれに触れることはできないのであるから、それは当然だといえよう。
市民の多くも大変な惨状を示しており、対応の遅い参事会を非難する声が多数出ている。
ちなみに市参事会は今のところこの問題について明確なコメントを発表しておらず、本紙記者の質問にも答えていない。

それからしばらくすると、更にネズミは増え、終いには人間のうちからかじられる者が出てきた。

一二八四年六月十三日(金)号外
もはや知る人がいない事実だと思うが,今日の昼頃に旅人が現われた。その旅人は多種多様な色の布をつぎはぎでモザイク状に縫った上衣を着ていて、その姿はまるでこの世のすべての色をまとったようだった。とある市民は彼のことを「まだら男」と呼んでいた。
旅人は市に入ると、ネズミの話を聞くや否や自らが退治してみせると語り、それからすぐに身につけていた銀製の笛を吹き鳴らしながら通りを練り歩き始めた。ネズミを退治するという割にはあまりにか細く繊細な調べで、それを一小節ゆったりと吹いた。曲目は葬送行進曲。そこは特にネズミの繁殖が著しい街路であった。
すると前触れなく、路地という路地、家という家、側溝という側溝からネズミがあふれ出すように走り出てきた。まるであふれ出す雪解け水のように、城壁をも突き破らんかという勢いであった。
ネズミの群れはなお吹き続ける旅人の周りを円状に、何重にも取巻いた。すると、旅人は飛び跳ねながら市の城門を出た。全てのネズミは旅人の周りを追いかけ、あるものは城門を通り抜け、あるものは排水溝を抜け、あるものは市壁を乗り越えて、市の外に出た。
そのまま市壁の外にゆったりと流れているヴェーゼルの母なる流れに近づくと、吹き鳴らしたまま河に入った。ネズミたちもあとを追って入った。ヴェーゼル河は子どもでも足が立つほどの浅瀬である。されど、ネズミには大海も同じであり、そして彼らは泳ぐ技を知らない。
その後は予想通りである。河に入ったネズミは次々と溺れ死んだ。河に入ることの危険を本能的に悟った「幸運な」ネズミたちは寸前で踏みとどまった。けれども他の妄信的な者たちによって踏みつけられ、彼らの幸運もそこでついえた。
旅人が長い長い演奏を終えると、見守っていた市民からは歓声がおき、そこからはこの新しい英雄を称えんとする祭りが始まった。
これを書いている間にも、外からは「神からの使い」を称える声と聖歌が聞こえてきた。さてさてこれ以上書き連ねるとお祝いのご馳走にありつけなくなる。ここで筆を置くとしよう。

それから三日三晩、旅人を祝福する宴会が開かれた。

一二八四年六月十五日(日)
今日の朝、旅人にネズミを駆除することとひきかえに多額の見返りが支払われるという契約が参事会との間に取り交わされていたという事実が明らかとなった。参事会の一部の善良なる市民が本紙だけに明かしたもので、それによると参事会はネズミを駆除できると豪語した旅人に対し、駆除した暁には市の年間予算の一割にものぼる多額の金を報酬として支払うと約束していたのだという。この善良なる市民はたかがネズミを河に「放り込んだ」くらいの働きに市民の金を支払うことに耐え切れず,こうして明かしたのだそうだ。
この事実を聞いた市民は多くが憤慨している。市壁の近くに住むある職人は、あれくらいのことなら我々の手でもできたと本紙記者に力説した。またある商人は、金の欲に目のくらんだ奴だからあんなひどい真似ができたのだなと言って、うっすらと涙を浮かべた。この商人の他にも、ネズミたちに愛情をかけていた者たちも多くいて、教会の近くに住む別の商人のお宅では、子どもたちがどうしてかわいいネズミさんたちが殺されてしまったのか疑問に思い、その中の一人がかわいそうにあれ以来口を利かないでいる。
一部の動物愛護団体からは抗議の声が寄せられている。
ハーメルンのネズミを守る会の会長のビュッテル氏は時折涙で言葉に詰まりながら,以下のように述べている。
「確かに……あの子たちは、やんちゃだったかもしれん。じゃが殺す必要があったのかと言えば,果たしてそうであったかというと……わからない」
さて話題の渦中にある旅人についてであるが、このほど一切口を開かず、沈黙を守っている。この旅人もネズミをあんなにたやすく殺したのだから、人だって殺すのではないかという不安な声が多数市民から上がっている。
参事会はこうした市民の声を受け、どのような対応をするのであろうか。迅速かつ正確な判断を期待したい。

参事会は市民の支持を背景に旅人に報酬を支払わず、市から即刻退去せよとの裁定を下した。その日のうちに旅人は市民から石を投げつけられ市から追い出された。呪いの言葉をぶつぶつと唱えながら、旅人はどこかへともなく歩き去った。またハーメルンに平穏な日々が戻ったと誰もが思ったわけだが、しばらくして。

一二八四年六月二十六日(木)
市に住む四歳以上の子どものうちの一部、合わせてちょうど一三〇人が今朝早くに旅人によって連れ去られるという大変いたわしい事件が起きた。あの忘れもしない奇妙ないでたちの男は、ネズミの時と同じように市の中心の通りで銀の笛を吹き鳴らした。そのとき市の城門は閉じられていたはずだが、なぜ侵入できたのかは不明だ。悪魔であるあの者にとって彼のような市壁を通り抜けることなど、赤子の首を捻るよりたやすいのであろう。
とにかく、旅人はあのときと同じように笛を吹き鳴らした。今度は葬送行進曲ではなく、この地方でよく歌われる子守唄だった。
すると、ネズミではなく四歳以上の子どもたちがぞろぞろと通りに出てきた。子どもたちは催眠にかかっているかのように目はうつろで何も話さなかったが、足取りは確かだった。ある程度子どもたちが集まるのを見越して、旅人はネズミの時と同じように市外に出た。閉じられた城門は彼が近づくと自然と開いた。
守りについていた兵士は金縛りにあったように、この恐ろしい行列が通り過ぎるまで動くことができなかった。兵士だけではない。大人たちは誰も彼もがそうだった。
市の外に出た旅人はそこで吹くのをやめずに近くの山に子どもたちを連れて行った。その山のふもとには大きな洞窟があり、旅人と子どもたちはその中に消えていった。みんなが中に入ると、その洞窟は封印され、誰も入れなくなった。
このことを知らせてくれたのは、市長のまだ若い娘であり、その生まれたばかりの赤ん坊を抱いていた母親である。洞窟に入る直前で、ふと自分のもつ十字架を見て正気に返り、わが子を抱え、泣きながら逃げ帰ってきたとのことだ。
現在旅人が連れ去った子どもたちは市が全力を挙げて捜索中であるが、消息は不明のままである。

当然期待されるとおり、子どもたちは二度と帰ってくることは無かった。


この作品はおとぎ話をもとにしたフィクションです。実際に存在する地名や人物名が登場しますが、これらは全て架空のものであり、これらとは一切関係がありません。たぶん。

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御伽噺今昔

1・ももたろうが喪男だったら

('A`) ダレカ オニタイジ イキマセンカ
('A`) オイシイ キビダンゴ アルヨ
  キャー 喪モタロウ ヨ キモイキモイ
('A`) ……ハァ
('A`) ダレモ ツイテキテ クレナイ
J( 'ー`)し 「サイキン オニガオオクテ コマルワネ」
('A`) 「オレガ タイジシテキテ ヤルヨ」
('A`) ……ナンテ イワナキャ ヨカッタ

('A`) ダレカ オニタイジ イキマセンカ
('A`) オイシイ キビダンゴ ……
('A`) ……
('A`) ダレモ タチドマッテスラ クレナイ
('A`) ウツダシノウ
('A`) オレニ オニタイジトカ ムリナハナシ ダッタンダ
('A`) サヨナラ カーチャン
('A`) オニニマケテ シンダト オモッテクレ
('A`) ……ン?
  オイ 喪モタロウ ダゼ
  イマドキ キビダンゴ トカ バカジャネーノ
  ゲラゲラ
('A`) ……!
('A`) カーチャンノ
('A`) カーチャンノ キビダンゴヲ バカニスルナ!
  ウワ ナンダヨ コイツ
  キモイ アッチイケ

('A`) カーチャンノ キビダンゴヲ バカニスルナ!

J( 'ー`)し アラアラ キズダラケ ジャナイ
('A`) ……ゴメン カーチャン 
('A`) オニタイジ デキナカッタ
J( 'ー`)し イイノヨ 
J( 'ー`)し カーチャンハ モモタロウガ カエッテクレテ ウレシイワ
J( 'ー`)し モモタロウノ スキナ キビダンゴ ツクリマショウネ
('A`) カーチャン……


※数日後

('A`) マサカ アノトキ ドウニカタオシタ DQNガ
('A`) オニ ダッタナンテ ……

2・浦島太郎がツンデレだったら

「助けていただいてありがとうございます!」
 亀は感激に首をながあく伸ばし、きらきらした黒目で浦島太郎を見つめました。
「べ、別にお前のために助けたわけじゃねぇよ! あのガキどもがうざかったから……」
 浦島太郎は顔を真っ赤にしてそっぽを向き、吐き捨てるように言いました。
「はぁ、そうなのですかぁ。それでも、御礼をしないといけません。さあ、背中にお乗り下さい」
「べ、別に、御礼が欲しくて行くんだからな! お前の願いを聞いてやるわけじゃないんだからな!」
「そうなのですかぁ」

 そうして、浦島太郎と亀は竜宮城に着きました。華やかな舞と素敵なご馳走が、浦島太郎の前に並べられます。
 浦島太郎に丁寧に礼を述べた乙姫様は、この世のものとは思えぬほどに美しく、浦島太郎は一目で恋に落ちてしまいました。
 けれど、浦島太郎はとても思ったとおりのことは口に出せません。
「……亀がどうしてもと言うから来てやったんだからな! すぐに帰らせてもらうぞ!」
 その言葉を聞いた乙姫様は、けれど、浦島太郎の真っ赤な顔を見て、すっかり浦島太郎の性格を見抜いてしまいました。
「そんなことは言わずに、ここに居てくださいまし」
 哀しげに目元に衣を寄せながら言うと、浦島太郎は言いました。
「……そ、そんなに言うなら、居てやらないこともないが。勘違いするなよ、頼まれたから居てやるだけなんだからな」
 乙姫様は、この天邪鬼な青年を、すっかり気に入ってしまいました。

「そろそろ帰らなければ」
「帰ってしまわれるのですか?」
「……ど、どうしてもと言うなら」
「もっとここに居てくださいまし」
「か、勘違いするなよ! ここの食事は美味いし、景色も美しいからいてやるんだからな!」

 こうしてふたりは、末永く幸せに暮らしましたとさ。



3・かぐや姫が素直クールだったら

「ずっと言おうと思っていたのだがな……私は実はこの世のものではないのだ」
 帝はかぐや姫を見て首を傾げました。
「そんなことは知っているよ。君の美しさはとてもこの世のものでは無い。月の光も、朝露の輝きも、君の前では恥じて面を伏せるだろう」
「ありがとう。君の衒いない言葉も心地いいが、今は真面目な話をしているんだ」
「私とて真面目だよ、姫」
「私はほんとうにこの世のものではないのだよ。月の姫なのだ。もうすぐ迎えが来る」
 帝は目を瞬きました。
「君の事が好きだった。五人の者達には申し訳の無いことをしたと思っているが、ああでも言わねば引き下がってもらえそうになかったのだ。私は誰とも結婚するわけにはいかなかった……君があんな強引な手段で私を連れ出さなければ」
「……」
「君はいきなり訪れてきて、爺様と婆様を言いくるめて私の御簾のうちに入り込み、初対面の私に好きだと言った。本来であればいくら帝とてあまりにもわきまえぬ行い、怒りそして笑い飛ばしていただろう。けれど君はどうしたって帝だ。私は逆らえない」
「……君は、月に帰りたいのか。私の手を逃れて」
 かぐや姫は笑った。
「ああ。……ほんとうは、ずっと帰りたかったんだ」

 その日、月は一段と明るく、帝は抱いていた姫が、衣一枚と壷一つを残して消えたことを知った。
「……君は、昨日だけ、私を愛していると言わなかったね」
 遺された壷を弄びながら、帝は少しだけ泣いた。
「君に嘘をつかせてしまった。私は、そう思っていても構わないのかな。……それでは、君の嘘の意味が無いのだけれどね」
 帝は遠い月を仰いだ。
「ずっと抱いていて。そう言われたと、私に思わせておいてくれ」






4・ハーメルンの笛吹きがVipperだったら

「うはwwww俺wwww釣りのwwww天才wwwwww鼠だのwww簡単にwww退治wwwwしてやるwwおkwwww」
 村人は半信半疑でしたが、その怪しい笛吹きに村に蔓延る鼠退治を任せることにしました。
 笛吹きは小さな笛を取り出してゆっくりと奏ではじめました。ひどい音色です。村人は顔を顰めましたが、実はこの音は、鼠にはこのように聞こえていました。
「今から○○街の鼠と全面戦争っていうwwww援護して欲しいっていうwwww」
 すると、辺りからいっせいに鼠が現れ、物凄い速度で○○街へと駆けていきました。
 ぽかんとする村人の前で、笛吹きは得意げに笑いました。
「俺様にwwwかかればwwwざっとこんなもんwwwwうはwww流石俺wwww」
 それから、きらりと目を輝かせ、
「さっさとww謝礼出せっていうwwww」
 しかし、村人はすっかり化かされたような気分になっており、とても謝礼を出す気にはなれません。
「君はただ笛を吹いただけじゃないか。鼠が居なくなったこととの因果関係があるとは思えない。だから謝礼は出せない」
「wwwwwwうはwwwwwww貧乏人の詭弁ktkrwwwwwこれだから村人Aはwwwww所詮街の最初に『ここは○○の村です』って言うだけの存在www」
「し、失礼な! この村から出て行け!」
「言われなくてもwwww」
 笛吹きは別の笛を吹きながら村を出て行きました。その音は、子供達にはこう聞こえていました。
「親のこと嫌いな奴ちょっと来いwwwwwwwwwwwwwww」
 たくさんの家から子供達が現れ、ふらふらと笛吹きの後をついて行きます。
「うはwwwwやっぱりDQN親ばっかwwwwこんな村滅びておkwwww俺について来いwwwww」

 こうしてこの国のどこかに、笛吹きを中心としたVIP村が誕生したとかしないとか?








5・シンデレラがキャバ嬢だったら



(作者取材のため休載させていただきます)







(シャッチョサーン シャッチョサーン)
(来る場所間違えた……?)




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